本記事は、瀧澤信氏の著書『マネーの真相 世界を動かした「欧米300年のルール」の終焉』(フォレスト出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
欧米人と日本人が考える「お金とは何だろう?」という視点
当書を進めるにあたって、まずはこんな質問をしてみたいと思います。
「あなたはお金についての話は得意ですか? それとも苦手ですか?」
なぜこのような質問をしたかといいますと、私の経験や肌感覚から日本人はお金というものに対して苦手意識を持っている方が多いのではないかと思っているからです。
日本の社会では、伝統的に「お金は不浄なもの」という価値観が根づいているように思います。たとえば、投資による不労所得といったものに嫌悪感を示す人も実際にいらっしゃいます。
しかし、世の中は物価が上がりコメも買えないのに、一生懸命に働いてもなかなか満足のいく給料がもらえない。ビジネスパーソンは、汗水たらして頑張ってもどうも生活はよくならないのが現実です。
他方、経営者側も関税リスク、地政学リスク、政局リスク、とリスクを挙げれば枚挙にいとまがなく、従業員への還元を増やしたくてもなかなか踏み切れない。それで、
※:新NISA …… 2024年1月から始まった日本の新しい少額投資非課税制度。株式や投資信託などの運用益(売却益・配当金)が非課税。
私は金融の世界に身を置いて生きてきましたから株式投資の指南や、企業の業績分析について経営者や投資家の相談に乗っていますが、仮に投資をするにしても日本全体の経済が成長していかなければ当然、成果は出ません。その意味においては、単に誰かが
日本の昔ばなしを思い出してください。「花咲か爺さん」「舌切り雀」「おむすびころりん」。これらの話には常に、正直者のお爺さんとお婆さんと、いじわる爺さんといじわる婆さんが登場します。
いじわる爺さん婆さんは、ズルをして儲けようとして痛い目にあう。しかし、正直者のお爺さんお婆さんは、正しいことをして成功し、そして最後にしっかり大判小判をいただく。この日本古来の
- (1) 正しいことをするべき。
(2) お金に執着すると失敗する。
(3) 他人を出し抜こうと独善的になると失敗する。
(4) 短期短絡的に行動すると失敗する。
(5) 成功する場合は「うさぎと亀」のように時間がかかる場合が多い。
(6) 結局、地道に正しい行動を取った者が、最後には勝ち、そして幸せになる。
それでは、ここでいう「正しいことをする」とは何なのか。日本の昔ばなしは、あまりに古い世界のことですから、考え方としては不変であっても、現代に置き換える必要があるでしょう。
とくに、資本主義、民主主義、グローバリゼーション(※)といった生き馬の目を抜くような現代社会において、私たちが成功するために「正しいこと」とは何なのか。私はこのことを常々考えてきました。
※:グローバリゼーション …… 国境を越えてヒト・モノ・カネ・情報・文化などが地球規模で移動・結びつき、世界の一体化が進む現象。
これを考えていくうえでは、そもそも「いったいお金はどんな仕組みやルールで動いているのか」「お金とはいったい誰のもので、どんなルールで私たちはお金を得ているのか」といった根本的な部分を知っておく必要があるのではないかと、ずっと考えていたのです。
なぜならば、現代社会のルールは、残念ながら「欧米」によってそのベースが作られているからです。日本人が久しく着物を着なくなり、スーツで仕事をしていることがその象徴の1つでしょう。
つまり、伝統的な私たち日本人の価値観は大事にしながらも、欧米流のマネー経済の根幹を理解しておかなければ、そもそも「正しいこと」が何なのかが分からないままゲームに参加していることになり、あたかもカモのように負け続けることになってしまいます。
冒頭で申し上げた通り、物価高や社会情勢不安の中で、幸せをつかむことが今まで以上に難しくなっていく世の中に入ってきました。なんとかなるだろうというお花畑な感覚では、生き残れない時代に突入しています。
この戦後80年間は、なんとなく流れに乗っていれば、まあまあ勝てる世の中だったかもしれません。しかし、これからはそうはいかないでしょう。自分自身を高め、自分自身で判断し、自分自身で行動し続けなければ成功はおろか、そこそこの生活も維持できなくなるかもしれません。
だからこそ、今まで多少あいまいにとらえてきた社会システムの歴史的背景を理解し直すことを通じて、今後へ向かうスタートラインにできたらと思います。その第一歩であり、もっとも肝心なところが、私は現代の経済システム・社会システムの土台を
「ビジネスとお金」を切り離して考えてしまいがちな日本人
先ほど、私の経験や肌感覚から日本人はお金というものに対して、どうも苦手意識を持っているといいました。このことを強く感じたのは、実は私の中学生時代にさかのぼります。
製鉄会社に勤める父親の海外転勤で、私は中学1年生のときにアメリカに住むことになりました。テキサス州ヒューストンという全米4位の南部の街です。当時、公立の学校に通いましたが、英語を早く学ぶためとクリスチャンだった父親の意向で現地の私立中学を受験し、転校したのです。
そこは、アメリカ南部で最も著名なキリスト教会の付属進学校で、同級生の保護者はテキサス州の長者番付に載るお父さんばかり、というような学校でした。
アメリカは、お母さんが乗る車をセカンドカーといいますが、学校の送り迎えに来るそのセカンドカーはジャガーをはじめ超高級車がずらっと並ぶという光景の中、サラリーマン家庭の我が家は中古のシボレーで乗りつけるといった格差ぶりでした。
同級生の家もお城のような家ばかりで、彼らの誕生日会はクラブを貸し切って有名DJが呼ばれるという富裕層コミュニティで、子どもながらに劣等感を感じたものです。
そんなお金持ちばかりの生徒たちのランチの会話がまた、私の想像をはるかに超えるものでした。「GM(※)の株が〇%上がって儲かった」と、中学生が株の話で盛り上がっていたのです。
※:GM(ゼネラルモーターズ) …… アメリカのミシガン州デトロイトにある世界的にも有名な自動車メーカー。
私は「中学生で金が儲かったどうだといった話は不健全じゃないのかい」と彼らに言うと、逆に彼らは何を言ってるの? といった感じでした。
聞くところによると、彼らは父親から数百万円をポンッと渡され、これでビジネスの基本を勉強しなさいと言われたというのです。つまり、実際に株を買って資本市場を体験しろというわけです。
これは親が子どもに教える帝王学みたいなもので、まずは資金調達の原点である資本市場のイロハが分かっていなかったらビジネスの世界で生き残れないということを、体験を通して教えていたのです。そして、もし株で利益が出たらそのお金で自分の好きなものを買ってもいいよということで、その友人は「儲かったら黒のジープのピックアップトラックで彼女とデートする!」と満面の笑みで言っていました。
日本も2022年4月から「高校生のための金融リテラシー講座」というマネー教育が必修科目として始まっていますが、金利とは何かとか積み立て投資の資産形成などを勉強しています。
もちろん、社会人になってからマネーの勉強をするのはけっして遅いというわけではありません。しかし、私が中高生のときに肌で感じたマネー感覚とはずいぶん違うように感じます。
なぜなら、資本市場を見る目が180度違うのです。アメリカ人の彼らは、自分のビジネスをするために必要な資金を調達する場として資本市場を見ており、その勉強を中学生からしておけといわれています。つまり、投資家から資金をもらう側、受け手として考えています。
しかし日本は、投資家として資本市場に参加してお金を積み立てなさい、というような視点で教育しているように思います。
これは、お金の出し手として教育しているわけですが、アメリカ人の彼らは個人投資家として資本市場に参加することは二の次の感覚で、主たる目的は資本市場から大きなお金を引っ張ることを最も意識しているのだと思います。そのためには、出し手側である投資家の気持ちや行動が分からないと説得できないから、投資家としてのマインドを醸成しておくのです。
今いったようなアメリカのビジネスパーソンと同じ土俵で私たち日本人は戦っているわけで、頭で分かっていても若いうちから市場感覚を身につけている連中に勝つのは容易ではないと思ってしまうわけです。
私のオフィスの周辺には大学が多いのですが、カフェで大学生たちの会話を耳にすることがあります。あるとき投資の話をしているカップルがいたのですが、やはりこの手の話は女性のほうが積極的で、「不労所得って知ってる?」なんていう話をしていたのです。その年齢で不労所得というのもかなり違和感があり、最初から勝負に負けているような感覚です。
そうではなく、マネー市場というのは資本主義の源泉のようなところがあって、市場でお金を引っ張ってこられるかこられないかがビジネスの源なのです。そういった意味では、アメリカのお金持ちの親は子どもに市場の源を体で覚えさせるために、実際にお金を使わせてみるのです。
ここで私がいいたいのは、日本ではお金とビジネスが切り離されて考えてられているのに対し、アメリカはビジネスの原点がお金であって、「ビジネス=お金」といった関係性の中で生きているということなのです。
1996年、明治生命保険相互会社(現・明治安田生命保険相互会社)入社。1997年、バングラデシュのグラミン銀行創設者ムハマド・ユヌス氏の下で研修を受け、ESGの道を志す。2000年、株式会社グッドバンカー(日本初のESGファンド「日興エコファンド」の調査を担当するESG専門投資顧問会社)専務取締役COO就任。2002年、野村證券株式会社入社。2006年、株式会社サステイナブル・インベスター(富裕層向けESGプライベート・バンク)を起業、代表取締役社長就任(現任)。2016年、複眼経済塾株式会社・取締役シニアESGアナリスト兼事務局長就任。琉球大学・金融人材育成講座(2007年)「環境と金融」講師。清泉女子大学講師。映画「うみやまあひだ」プロデューサー。著書に『「会社四季報」で発 見10倍稼ぐ! EGS投資』(ビジネス社)がある。
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