本記事は、瀧澤信氏の著書『マネーの真相 世界を動かした「欧米300年のルール」の終焉』(フォレスト出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

紙幣
(画像=優也 中川 / stock.adobe.com)

暗号通貨「ステーブルコイン」で覇権を握ろうとするアメリカ

未来の貨幣はどうなるのかということについて考えてみましょう。それを考えるにあたって、アメリカが強力に推進している「ステーブルコイン」が1つヒントになるでしょう。

ステーブルコインとは、いわゆるブロックチェーンの技術を使った暗号資産です。その意味では、ビットコイン等と同じタイプのデジタル通貨ですが、決定的に違う点は、ステーブルコインは裏付けとなる資産が存在することです。

たとえば、ドルや円などの法定通貨や、国債などの資産とひも付けされるように設計されています。

なぜ、このような紐付けをするのかというと、ビットコイン等の暗号通貨は、資産価値が乱高下する傾向が強く、価値がきわめて不安定なために投機的な投資対象にはなり得ても、通貨として利用するには非常に使い勝手が悪いという欠点を補うことが目的です。

ただ、これではスイカ(Suica)やイコカ(ICOCA)のように単にドルや円を電子化しただけではないかというように思われるかもしれませんが、ステーブルコインに期待されている利点は大きく2つあります。

1つはスイカやイコカのような電子マネーは少額利用を前提としているのに対し、ステーブルコインは、たとえば数億円から数百億円規模という多額の金額でも対応できることを想定している点。

2つ目は、ブロックチェーン技術を背景に現在のSWIFT(※)を介した海外送金よりもはるかに低価格かつ瞬時に国際間取引が行える点などが注目されています。

※:SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication) …… 国際銀行間通信協会。国際送金や貿易決済で使われる世界的な金融通信ネットワークで、1973年にベルギーで設立された非営利の協同組合組織。現在では世界200以上の国・地域、11,000を超える金融機関が加盟。

こうしたステーブルコインに対して、国際的にも競争が激化してきました。とくにアメリカのトランプ政権は普及を急ぐ動きを見せています。2025年7月18日に、暗号資産ステーブルコインに関する規制の枠組みを整備するための初の連邦法「ジーニアス法(GENIUS Act)」を成立させました。

日本においても、メガバンク3行が共同して円建てのステーブルコインの実証実験に踏み切り、ドル一強に対抗する姿勢を見せています。

とくにアメリカの早急な動きは、米ドルの覇権維持があるといわれています。

法案に署名したセレモニーで、トランプ大統領は「今日は、米国のデジタル資産における優位性が確固たるものにされた日だ。これはドルにとっても、国家にとっても良いことだ」と述べています。

これらの報道を一見すると、単に通貨の電子化において、新しい技術領域で国が覇権争いをしているように見えます。また、国の既得権益である通貨発行権を守るために、民間の暗号通貨であるビットコインをつぶしにいっているのか、というように見えるかもしれません。

ただ、本当のねらいは、実は違うところにある可能性があります。

一説によれば、このステーブルコインの発行は、銀行のナローバンク化ではないか、という指摘があります。

ナローバンクというのは1929年の世界大恐慌の際、金融危機の再来を防ぐために提案された方策の1つで、「シカゴ・プラン」の中で提唱されたものです。

※:シカゴ・プラン …… 1933年にアメリカの経済学者たちが提案した金融制度改革案で、世界恐慌を受けて銀行システムの構造的欠陥を是正することを目的とした。景気循環に伴う通貨供給の急増・急減を防止。銀行取り付け騒ぎや金融危機の再発防止。「ゴールド・スミス・システム」(信用創造によるマネー供給)を根本から改める構想を打ち出している。

このプランでは、銀行を2つの機能に分けることを想定しています。これは「ゴールド・スミス・システム」を根底から覆す考え方で、預金の機能と、貸付の機能を完全に切り離してしまうのが、ナローバンクです。ナローバンクの「ナロー」は「狭い」という意味で、まさに銀行機能を狭めようということです。

この仕組みを採用すると、銀行は「信用創造」という技を使えなくなります。例の1つの「金塊」から何度もおいしいという「ゴールド・スミス・システム」の根幹を担う仕組みを使えなくするのです。

そうすると、銀行預金は必ず裏付け資産と1対1の関係性を保つことができますから、金融危機の際に取り付け騒ぎが起こらなくなるというわけです。この頃から、すでに「ゴールド・スミス・システム」のインチキ臭さを金融界は自覚していたという証拠のような話です。

このステーブルコインの導入によって、銀行業をナローバンク化し、預金機能に特化した業務に専念させることで、信用創造の仕組みを排除するというねらいが裏側にあるのではないかという憶測がささやかれています。

その真偽は別にしても、ステーブルコインの登場によって、銀行業から信用創造の仕組みが排除されることとなれば、そもそも通貨発行の仕組みにおいても採用されている信用創造システムが終焉を迎えることとなり、既存の金融政策そのものが根底から大きく変わっていく可能性を秘めていることは事実でしょう。

裏返していえば、それだけ現存の「ゴールド・スミス・システム」を前提とした金融システムが、やはり300年の賞味期限を迎えつつあることをおおいに示唆する現象が、足元で急速に進んでいるように思えるのです。

『マネーの真相 世界を動かした「欧米300年のルール」の終焉』より引用
瀧澤 信(たきざわ・しん)
複眼経済塾・塾頭。1972年生まれ。成蹊大学経済学部経済学科卒業。
1996年、明治生命保険相互会社(現・明治安田生命保険相互会社)入社。1997年、バングラデシュのグラミン銀行創設者ムハマド・ユヌス氏の下で研修を受け、ESGの道を志す。2000年、株式会社グッドバンカー(日本初のESGファンド「日興エコファンド」の調査を担当するESG専門投資顧問会社)専務取締役COO就任。2002年、野村證券株式会社入社。2006年、株式会社サステイナブル・インベスター(富裕層向けESGプライベート・バンク)を起業、代表取締役社長就任(現任)。2016年、複眼経済塾株式会社・取締役シニアESGアナリスト兼事務局長就任。琉球大学・金融人材育成講座(2007年)「環境と金融」講師。清泉女子大学講師。映画「うみやまあひだ」プロデューサー。著書に『「会社四季報」で発 見10倍稼ぐ! EGS投資』(ビジネス社)がある。

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『マネーの真相 世界を動かした「欧米300年のルール」の終焉』
  1. なぜ日本人はマネーゲームに負けるのか? 欧米人が中学生から学ぶ「お金の帝王学」
  2. 通貨の「300年ルール」が崩壊? ステーブルコインと米ドルの新覇権
  3. 「富の独占」が生んだ歪み。なぜ豊かさの中で絶望が生まれ、幸福度が奪われるのか
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