株式会社一貫堂

アスクルのトップ代理店として培った実績を基盤に、購買プラットフォーム「KOBUY」を展開する社会課題解決企業・株式会社一貫堂。

代表取締役の長屋博氏は、間接材購買におけるアナログな商習慣をデジタル化することで、企業の労働生産性向上と日本経済の活性化を目指している。

同社の歩みから、DXがもたらすバックオフィスの変革、そして日本が再び世界で輝くためのビジョンについて、詳しく聞いた。

長屋 博(ながや ひろし)──株式会社一貫堂 代表取締役
1952年生まれ、愛知県出身。1975年に一橋大学商学部卒業後、東海銀行(現三菱UFJ銀行)を経て家業の長屋印刷に入社。2005年に一貫堂を設立し、アスクル創業期の初期代理店として全国屈指の実績を築く。現在は「KOBUY」も展開。『月刊総務』オーナーなど、多数の企業・法人代表を兼務する多才な実業家である。趣味はゴルフ、陶芸、アート鑑賞と造詣が深い。
株式会社一貫堂
2005年創業。アスクルのトップ代理店として実績を築く一方、2018年には購買プラットフォーム「KOBUY」をローンチ。同年『月刊総務』をM&Aし、メディア事業も展開。「実務のデジタル化」と「メディアによる発信」の両輪で企業のDXを支援。現場の課題解決から経営の最適化まで、一気通貫の伴走支援で企業の労働生産性向上に寄与している。
企業サイト:https://ikkando.net/

目次

  1. アスクル代理店から購買プラットフォーム事業への転換
  2. 間接材購買の20兆円市場をデジタル化で変革する
  3. 「人的ミス」とは言わない。「仕組み」でミス防止、少数精鋭で高い生産性を
  4. 日本経済の再生と「ジャパン・アズ・ナンバーワン」への願い

アスクル代理店から購買プラットフォーム事業への転換

── これまでの歩みと事業内容について教えてください。

長屋氏(以下、敬称略) 株式会社一貫堂は設立から20年を超えますが、そのルーツはさらに遡ります。

もともとは名古屋の印刷会社にあった文具事業部として、アスクルの代理店業務を開始しました。代理店としては30年以上の歴史があり、21年前にアスクル事業を独立させて設立したのが現在の当社です。

現在は「購買」「アスクル事業」「ジェイプリント」「月刊総務」の四つのドメインで事業を展開しています。Jプリントは、私が一貫堂の創業前に立ち上げた、印刷機を持たない印刷会社です。カタログなどのデータベースから自動組版する仕組みを構築し、現在は子会社として運営しています。

── アスクル代理店という安定した基盤から、どのように事業を広げたのでしょうか。

長屋 10年以上前から、代理店以外の自社事業を確立しようと、さまざまな挑戦を続けてきました。その結実が、現在の主力事業である購買プラットフォーム「KOBUY」(コーバイ)です。

また、8年前にはM&Aによって『月刊総務』というメディア事業も取得しました。当社のお客様の多くが総務部門の方々であるため、メディアの保持が必要だと考えたからです。ただし、メディアの独立性を維持するため、編集内容には一切口出しをしない運営方針を貫いています。

代理店事業から自社事業への転換は、決して平坦な道のりではありませんでした。2017年4月には、タレントマネジメントシステムや名刺管理など、アスクル以外の新しい領域で一気に4つの事業部を立ち上げるという挑戦をしました。

しかし、結果的に現在まで大きく育って、残っているのは「購買」事業だけです。それでも、こうした失敗の積み重ねがあったからこそ、現在の「KOBUY」という大きな事業展開につながっていると考えています。

事業を成長させ続けるには、常にチャレンジを止めないことが不可欠です。現在でも、役員会議で1000万円を上限とした新規事業への投資枠を決定し、小さくても新しい挑戦を続ける文化を大切にしています。

── 成長の過程で、大きな転換点となったエピソードはありますか。

長屋 約12、3年前、営業手法を根本から見直したときが大きなターニングポイントでした。

当時は、商談件数や訪問件数から逆算して活動量を維持する、いわゆる「足で稼ぐ」営業をしていました。

しかし、法人向け通販が市場に浸透するにつれ、活動量を増やすだけでは営業が疲弊し限界が来ると予見したのです。

そこで戦略を転換し、中堅・大手企業向けのソリューション提案に舵を切りました。環境対応やコンプライアンス、ガバナンスといった経営課題に対し、購買を通じた解決策を提示する。これによって、10年以上にわたる二桁成長を維持することができました。

間接材購買の20兆円市場をデジタル化で変革する

── 購買プラットフォーム「KOBUY」を立ち上げた背景について詳しく教えてください。

長屋 アスクルが扱う事務用品や日用品は、企業が消費する「間接材」のほんの一部に過ぎません。世の中の間接材マーケットは20兆円から30兆円規模と言われていますが、事務用品はそのうちの2兆円程度です。残りの広大な市場に参入するため、間接材の購買を集約するプラットフォームの構築を目指しました。

2018年にローンチした「KOBUY」は、アスクルだけでなくAmazonやモノタロウなども利用可能です。

さらに、通販環境を持たない地場のサプライヤーとも電子取引ができる仕組みを整えました。これにより、バイヤーとサプライヤー間のやり取りを一気通貫でデジタル化することに成功したのです。

── 具体的には、どのような課題を解決しているのでしょうか。

長屋 大手企業であっても、購買の現場には驚くほどアナログな業務が残っています。

専用伝票の作成や、見積・納品・請求の「三点セット」の照合など、手作業による負担が膨大です。現場に十分な人手が回らず、古いやり方が踏襲された結果、女性職員を中心に一部の事務担当者に過度な負担が集中して「ブラック化」している職場もあります。

担当者が2人辞めれば残された社員の残業が2〜3割増えるといった切実な相談を受けることもあるほどです。

また、バイヤー側は「サプライヤーがデジタル化していないからダメだ」と言い、サプライヤー側は「バイヤーがデジタル化していないからダメだ」と互いにけん制し合っているのが、私たちが直面しているBtoBビジネスの現実です。

だからこそ、私たちはプラットフォームを提供するだけでなく、お客様に対して「内部改革をしてください」と強く要求します。場合によっては、デジタル化への対応が難しければ撤退も辞さないという厳しい姿勢で臨み、本気で伴走する覚悟を持っています。

さらに、建設業における「2024年問題(時間外労働の上限規制)」やインボイス制度の導入など、法改正への対応も購買DXの強力な追い風になっています。

現在は、電子インボイス(PeppolやJP PINT)の実証実験にも参加しており、請求から支払いまでの完全電子化を見据えた足場固めを進めています。

「KOBUY」を導入することで、発注から会計仕分け、支払いまでのプロセスを自動化します。人の手を介さないことで入力ミスや手戻りを防ぎ、業務効率を劇的に向上させることが可能です。私たちは単に物を売るのではなく、生産性とは真逆にある「無駄な業務」をゼロにすることを目指しています。

── 2026年4月には購買事業を分社化されましたが、その狙いはどこにありますか。

長屋 アスクル代理店事業や『月刊総務』を含めた安定したストックビジネスと、新しいマーケットを開拓し拡大していく購買事業を分かりやすく切り離すためです。購買事業は挑戦的なフェーズにあり、ステージを変えるための目的もありました。

また、一貫堂グループを私個人のオーナー企業であったところから、より公的な事業体へと進化させる意図もあります。今回の再編は、次のステージへ進むための動きになります。

「人的ミス」とは言わない。「仕組み」でミス防止、少数精鋭で高い生産性を

── 非常に少ない人数で大きな事業を運営できている、その秘訣は何でしょうか。

長屋 当社には「社内生産禁止」という明確なルールがあります。プロダクトを自社で作ったり、デザインや作業を社内でやってはいけないとしています。社員の役割は、お客様であるバイヤーの横に寄り添い、並走することに特化させているのです。

マンパワーに頼る時代は、すでに終わったと考えています。現在、当社の社員数は40名ほどですが、今後増えたとしても50〜60名が限度でしょう。システムで解決できることはAIなどに代替させ、人間が人数をかけなくても回るようにしなければ、我々のシステムが悪いのだと考えています。

── 業務上のミスやトラブルには、どのように対処しているのですか。

長屋 「人的ミス」という言葉を、当社では使いません。

ミスが起こったとき、誰が失敗したかを問い詰めるのではなく、「システムが悪いから起こったのだから、システムを変えるんだ」と考えます。人がうっかり忘れてしまうようなやり方をしている仕組み自体に問題があるとし、忘れたくても忘れないような仕組みを作らなければミスはなくなりません。

また、社内の情報共有を徹底していることも重要です。お客様からのトラブルはチャットツールに集約され、起こる都度、社内全員が共有で見ています。トラブルが頻発すればすぐに役員が集まって意思決定し、即座に仕組みをアップデートします。

良い改善策があれば、今まで進めていた仕組みでも今日から辞めるという「朝令暮改」は当たり前です。社員もそのスピード感に納得しており、常に最適な仕組みを追求する文化が根付いています。

私たちのビジネスモデルの根底には、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)をはじめとするアメリカの巨大IT企業の戦略に対する考察があります。彼らはBtoCの世界において、常に「買い手」に非常に近いところに陣営を張り、流通や情報を握ることで圧倒的な強さを築きました。

私は、この考え方がBtoBの世界でも通用すると考えています。大手のバイヤー企業の購買のところに我々のシステムをセットし、買い手の中にプラットフォームを構築する。私たちは自らモノを作るのではなく、この構造体を作り上げ、バイヤーとサプライヤーのやり取りがうまくオペレーションされるよう監視・サポートする立ち位置をとっています。だからこそ、少人数でもスケールできる仕組みが成立するのです。

日本経済の再生と「ジャパン・アズ・ナンバーワン」への願い

── 今後の日本経済や業界の展望について、どのように考えていますか?

長屋 私は、1980年代に言われた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代を肌で知っています。激しいお金の使い方があった時代を真っただ中で経験しましたが、バブル崩壊後の日本はあれよあれよという間に世界のトップから転落してしまいました。

現在の日本で給料が上がらないのは、労働生産性の低い仕事をやらせているからです。私たちがデジタル化を進めることによって無駄なコストを削減し、サプライヤー側にきちんとお金が回っていくようにしなければ日本はダメになってしまいます。

私は安易に「安く安く」と価格を叩くような、デフレを助長するビジネスは好きではありません。正当な費用を払い、少しインフレ気味の経済にすることが良いと思っています。

── プラットフォームの普及が、日本経済にどのような影響を与えると考えていますか。

長屋 デジタル化が進めば、日本の優秀な技術を持った中小企業(サプライヤー)が、プラットフォームを通じて大手企業のバイヤーに良い商品を案内できるようになります。公平なプラットフォームの中でデジタル化を進めることによって、そういった会社が発展し、ひいては日本経済の発展に繋がるという期待を持っています。

また、M&Aした『月刊総務』というメディアを通じて、企業の経営層や役員の方々にこうしたデジタル化や労働生産性向上の必要性を正しく訴えかけ、問題意識を持っていただくことも私たちの重要な役割です。

── これからの10年に向けたビジョンを教えてください。

長屋 「KOBUY」は、サプライヤー2社、バイヤー数社という小さなスタートでしたが、現在では100社規模の大手バイヤーネットワークに成長しました。まずはこれを1000社へと拡大することに注力します。

広大なバイヤーの陣地(畑)が拡がれば、そのオペレーションコストを下げることで新しいサプライヤーが集まり、新たなビジネスが活性化します。

そして、その先の「第3のステージ」では、さらなるメリットを生み出すツールを開拓し、サプライヤーとバイヤー双方にはめ込むことによって、我々の新たな収益モデルにするというシナリオを描いています。

また、AIをさらに深く組み込み、最終的な決済以外の「これが必要なのではないか」という部分をアシストしたり、生成AIがどう使われるかを研究していくつもりです。

私たちの仕組みが社会インフラとしてうまく回り、日本が世界で役立つような立ち位置に戻るサポートができればありがたいと願っています。

氏名
長屋 博(ながや ひろし)
社名
株式会社一貫堂
役職
代表取締役

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