中田工芸株式会社

1946年に創業した国内唯一の木製ハンガー専門メーカー、中田工芸株式会社。今年で創業80周年を迎える同社は、長年アパレル業界向けの事業を主力としてきた。

しかし、2007年に自社ブランド「NAKATA HANGER」を立ち上げ、一般向け市場へ参入。単に洋服をかける道具ではなく、「福をかける」縁起物としての情緒的価値を提案し、高級ギフトという新たな市場を開拓したのだ。

現在では自動車やスポーツなど異業種との取引も急増し、海外展開にも注力する。伝統を守りつつ変化を恐れない三代目の中田修平・代表取締役社長に、独自のブランド戦略と多様性を重んじる組織づくりについて聞いた。

中田修平(なかた しゅうへい)──代表取締役社長
1978年、兵庫県生まれ。2006年、アリゾナ大学ビジネス学部を卒業後、ニューヨークにて就職。2007年、中田工芸に入社すると同時に自社ブランドNAKATA HANGERを立ち上げ、東京青山にショールームを開設。2017年に事業承継し代表取締役社長に就任。
中田工芸株式会社
1946年創業の国内唯一の木製ハンガー専門メーカー。職人の手作業によるハンガーをアパレルブランドやホテル向けに提供。自社ブランド「NAKATA HANGER」では家庭用だけでなくギフトや記念品の市場を開拓。ロンドンや香港でイベントを開催するなど、海外にも進出。 企業サイト:https://www.nakatakogei.com/

目次

  1. 木製ハンガーをつくり続けて80年
  2. 「服/福をかける」高級ハンガーの市場開拓
  3. 伝統企業が守るべきものと変えるべきもの
  4. 英チャールズ国王にハンガーを届ける

木製ハンガーをつくり続けて80年

── 中田工芸がこれまで歩んできた事業内容について、あらためて教えてください。

中田氏(以下、敬称略) 弊社は1946年に創業した、木製ハンガーを専門につくるメーカーです。現在は社員65人と役員数人、兵庫県豊岡市に拠点を置く地方の中小企業です。

今年で創業80周年を迎えました。私は祖父と父から経営を受け継いだ三代目の代表です。メーカーとしてものをつくることはもちろんですが、それをしっかりお客様に届けることを重視しています。

ミッションは営業も製造も「お客様に喜んでもらうこと」です。この姿勢を大切にしながら、日々の活動に取り組んでいます。

── 創業から80年、木製ハンガー一筋だそうですね。

中田 1946年からずっと木製ハンガーをつくり続けています。戦後のスタートから、バブル期、そして近年のコロナ禍まで、さまざまな時代を経験しました。

日本経済が上向いていたころは社員も120人ほどまで増えましたが、90年代以降は難しい時代もありました。2020年代に入ってからも、想像がつかないようなできごとが次々と起きています。

その中で弊社の強みは、自分たちでものをつくっている点です。木製ハンガーという軸は変えずに常に新しい挑戦を続けてきたことが、長く継続できている理由だと考えています。

変わらないために新しいことをするという考えが、弊社の根底にあります。伝統を守るだけでなく、時代に合わせた変化を恐れずに取り組む姿勢を大切にしています。

「服/福をかける」高級ハンガーの市場開拓

── 自社ブランドを立ち上げた経緯を教えてください。

中田 この20年間は、マーケティングによって成長することに注力しました。木製ハンガーはもともとアパレル業界向けが主な市場でしたが、そこを大切にしつつ新たな領域を模索したのです。

BtoBからBtoCへの展開はよくある話ですが、成功させるのは容易ではありません。私たちは、世の中にない新しい市場を創造することを目指しました。

2007年に自社ブランドを立ち上げたとき、1本3万円するような高級ハンガーを発表したのです。単に価格が高いだけではなく、ハンガーが持つ「意味的価値」を追求しました。

洋服をかけるという機能は誰もが知っていますが、それ以上の価値を提案しました。ハンガーがお客様の気持ちにどのような良い変化をもたらすかという、「情緒的価値」を重視したのです。

── ハンガーにおける「情緒的価値」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

中田 たとえば、大切な洋服をかけるときの高揚感や、クローゼットを開けたときの満足感が挙げられます。プラスチック製でも服をかけられますが、木製には天然素材ならではの温かみや高級感があります。

アパレル店舗で大切な洋服が木製ハンガーにかかっているのは、ブランドの世界観を表現するためです。質感や色、雰囲気を一定に保つことで、洋服の魅力を最大限に引き出す役割を果たします。

私たちはこの価値を家庭用、特にギフト市場へと広げました。結婚式の引き出物や卒業の記念品、企業の周年記念品など、人生の節目に贈る品としての需要を開拓しました。

また、「服をかける」ことにかけて、「幸福をかける」というメッセージを広めています。縁起の良さが支持され、この15年でギフトとしての認知が大きく高まりました。

── BtoCでのブランディングが、BtoB事業にも良い影響を与えた事例はありますか?

中田 ギフト市場での成功により、「ハンガーは縁起が良い」というイメージが定着しました。その結果、企業の記念品やプロスポーツチームのグッズとしての採用が増えました。JリーグやBリーグ、プロ野球チームの公式グッズとして、私たちのハンガーが選ばれています。

また、自動車業界からも多くの引き合いをいただくようになりました。BMWやメルセデス・ベンツ、レクサスといった高級車ブランドの限定グッズも手がけています。さらにはアーティストの物販グッズなど、ファッション業界以外の取引先が増えました。

現在は、自分たちが何の業界にいるのか一言では答えられないほど、活動の幅が広がっています。自動車、スポーツ、エンターテインメントなど、多岐にわたる分野とつながっています。

── 単なる備品としてのハンガーではなく、ブランド価値を高めるアイテムとして認められたのですね。

中田 自分たち独自のビジネスモデルを確立できたと感じています。歴史を大切にしながらも、新しい意味付けを行うことで、市場は無限に広がると証明できました。

職人のクラフトマンシップをベースに、現代のニーズに合わせた付加価値を載せる。このサイクルがうまく回ることで、利益率の高い健全な経営を実現しています。

既存のお客様との関係を大切にしながら、新しい領域へ本気でチャレンジする。このバランスを保つことが、中小製造業が生き残るためのカギとなります。

伝統企業が守るべきものと変えるべきもの

── 中田社長が事業を承継するまでの経緯について、教えてください。

中田 私はアメリカの大学を卒業後、ニューヨークで就職しました。

家業を継ぐことを強く強要されたわけではありませんが、どこかで自分がやるべきだと感じていました。

とはいえ、いきなり地元の豊岡に戻ることには正直なところ抵抗があったので、当時の取引先が東京中心だったことから、東京に営業拠点をつくることを提案しました。

それが現在の青山にあるショールームです。ショールームをつくる際、何屋かわかるように「NAKATA HANGER」というブランドを立ち上げました。

入社後の10年間は、ブライダル業界や百貨店へのアプローチなど、必死にマーケティングを行いました。現場でハンガーの知識を深めながら、新しい市場を一つずつ開拓しました。

── 先代から受け継いだ文化と、新しく変えた部分はどこでしょうか。

中田 「新しいもの好き」という父の気質は、会社の文化として残っています。1996年という早い段階で独自のドメインを取得し、ウェブサイトを自社で運営し始めたのも父です。

自分たちでやれることは自分たちでやるというDIY精神は、今も社員の中に息づいています。現在のウェブサイト運営も、外部に丸投げせず自社のスタッフで行っています。

一方で、変えなければならないと感じたのは「働き方」の部分です。以前はアパレル業界のサイクルに合わせ、繁忙期には深夜まで残業することが当たり前でした。

しかし、量や時間でカバーするモデルでは、将来的に限界が来ると考えました。そこで、付加価値の高いビジネスにシフトし、残業に頼らずに利益を上げる体制を目指した経緯です。

英チャールズ国王にハンガーを届ける

── 組織づくりにおいて、特に注力していることは何ですか?

中田 まず、「人」こそが経営においてもっとも重要だと考えています。どんなに良いものをつくっても、それを支えるのは一緒に働く「人」だからです。

2019年からは、ジェンダーギャップの解消にも本格的に取り組み始めました。木工の現場なので男性が多い傾向にありましたが、女性が活躍できる環境づくりを推進しています。さらに男性の育児休暇取得を促すなどは、最初は現場で戸惑いも見られましたが、時間をかけて浸透させました。

また、外国籍の社員や障害のある方の雇用も積極的に行っています。

違いをネガティブにとらえるのではなく、それぞれの個性に光を当てて磨くことが大切です。多様な人材がインクルーシブ(包み込まれる)な状態で働くことで、組織の力は何倍にも膨らみます。

── 外部環境の変化、たとえばコロナ禍などは組織にどのような影響を与えましたか?

中田 コロナ禍ではファッション業界も大きな打撃を受け、弊社の売上も2割以上減少しました。しかし、このピンチを働き方やビジネスモデルを磨くチャンスととらえて取り組みを行っています。

たとえばリアルな活動が制限される中で、デジタルを最大限に活用する体制を整えました。また、腰を据えて組織の課題に向き合い、社員同士のコミュニケーションを深めることができました。

困難なときこそ、メンバー同士が声をかけ合い、助け合える雰囲気があるかどうかが問われます。数字だけを追うのではなく、働く人の雰囲気を良くすることが、長期的な成長につながります。

── 今後の事業展開や、新たな投資領域について教えてください。

中田 現在もすでに行っているのですが、海外展開を強化します。イギリス、イタリア、香港、シンガポール、ニューヨークなど、可能性は無限にあると考えています。

「世界一のハンガーブランドになる」という意志を持ち、挑戦を続けたい。実際にイギリスのチャールズ国王にハンガーをお届けする機会に恵まれるなど、成果も出ています。

また、昨年からは「オープンファクトリー」という取り組みも始めました。ものづくりの現場を公開し、私たちの考え方や働き方に触れてもらう場をつくっています。

さらに、私たちのユニークなマーケティングやブランディングへの興味が、おかげさまで高まっています。情報を発信することで、一緒に成長できるような関係を他の企業と築きたいです。