本記事は、小井土 正亮氏の著書『「教える」を手放す 人とチームの自律を引き出すコーチング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。

「教える」を手放す 人とチームの自律を引き出すコーチング
(画像=Chanelle_Peopleimages-AI/stock.adobe.com)

強い組織にする人を選ぶ・育てるマネジメント

試合メンバーの選び方

たとえば、現サッカー日本代表では、森保一もりやすはじめ監督のなかで、ある一定の指標(ヨーロッパでプレーしている、常時試合に出ている、突出した武器があるなど)があるように思います。ただ、最終的に最も重要な選考基準は「一緒に戦いたいか、どうか」といった個人的な感情なのではないかなと想像しています。

少なくとも私自身が、試合のメンバーを決める際には、「このメンバーであれば、仮に負けたとしても納得できる」というメンバーを選んでいます。
試合前から負けることを想定するのは少し変な話ですが、自分と同じ想いで戦ってくれたのであれば、負けても後悔はないと思えるメンバーと心中したいと多くの監督は考えているものです。
もちろん戦術的な狙いや選手同士の組み合わせの相性などもあります。
しかし、サッカーのような複雑なスポーツにおいては、作戦ボード上(頭のなか)では完璧な組み合わせであったとしても、実際ゲームが始まってみれば、その通りに事が進むことなどほぼありません。
そうなると最後、ギリギリの判断に迫られたときには直感が大切になりますし、そのモヤモヤを振りきるのは思考ではなく、感情になっていくものです。

逆の立場から考えてみると、選手の一番の関心事が、「試合に出られるかどうか」ということであれば、意思決定者(サッカーでいえば監督、会社であれば上司)からどう見られ、評価されているのか、ということを行動基準に組み込むべきだと思います。
それは決してこびへつらうということではなく、自分が所属している組織において、自身が求められていることを正しく理解して、自分がすべきこと、求められていることについて真摯に取り組むことができることを意味します。決して自分本意で、自分のものさしのみで行動基準を決めないということです。
しかし、選手は意外とその点には目が向かず、自分のパフォーマンスさえよければ試合に出られるものだと考えがちです。それはある面では事実ですが、それだけではないこともまた事実です。チームとしての戦い方があるなかで、その選手のパフォーマンスがマイナスに作用することも往々にしてあります。意思決定者の思考のクセや大切にしている信念のようなものまで汲み取れると、必要な振る舞いをすることができるのではないかなと思います。

世代交代を力に変えるマネジメント

学生スポーツの一番難しいところが、毎年毎年、人が必ず入れ替わることです。
そういったなかで、私が意図的に行っている(行わせるように仕向けている)のが、新シーズンを迎える前の徹底的な話し合いです。
最も大切なことは「自分ごと」として、部の運営に携わることができるか。それには最上級生である4年生が強い意志で関われるかどうかだと考えています。キャプテン、主務、副務、その他各局の局長など役職を決めるだけでなく、それぞれの部署ごとに、新シーズンは前シーズンの反省を踏まえて、何を変えるのか、または「あえて」変えないのかを明確にさせるように話をします。

チームを代表するキャプテンは、最上級生のなかから互選により選出され、監督に報告するというスタイルをとっています。プロクラブであってもその選出の仕方はさまざまで、監督から人の指名制を採用しているクラブのほうが多いようです。
私が着任して10年以上の間には「彼で大丈夫か……?」と次期キャプテンとして不安に思う名前を挙げてくるときもありました。しかし、そのようなときであっても、まずはどのようなプロセスを踏んで選出したのか、立候補、決意表明、投票…… その後の副キャプテンの選出など、彼らがどのように考えて選出してきたのかを確認します。
監督である自分から指名されて「やらされる」より、仲間に対して自分の言葉でその決意を宣言して、仲間に承認されて始めたほうが自覚もより強く持ってくれるなと感じています。

組織のマインドセットを身につけるフレッシュマンコース

毎年、卒業して出ていく者がいれば、入ってくる者もいます。
2025年度は64名の新入部員が門を叩いてくれました。
彼らを一律に扱い、そのまますでに構成されているチームに能力別に配属するということはしません。
一定期間(通例だと1か月半〜2か月程度)1年生だけで活動する期間を設け、その期間をフレッシュマンコースと称し、そこでの活動を非常に重視しています。

このコースのメインの目的は、この組織で活動するとはどういうことなのか、そのマインドセットを形成することです。
まずその特徴は、コースの内容ではなく、この教育期間の運営をすべて現部員(2〜4年生)が取り仕切ることです。
このコースにおける私の担当セッションは、組織の歴史的な経緯とその使命、そして、私が監督として大切にしていることの講義1回だけです。それ以外の、日々のトレーニングはもちろん、部のヴィジョンやミッション、各局活動、地域の子どもたちへの普及活動、スポンサー活動とその意義など、部として大切にしていることは、講習会などを通してすべて現部員が伝授します。

このコースの運営に関わる者は部員の有志で構成されるのですが、すべて立候補制です。
例年20〜30名の現部員が何かしらの形で関わり、後輩となる新入部員の面倒をみてくれています。そこでは一人ひとりの面談も行われ、自身の先輩としての想いを伝えたり、入部希望者の不安を聞いてあげたり、学生同士がお互いに納得して始められる下準備が行われています。

「教える」を手放す 人とチームの自律を引き出すコーチング
小井土 正亮(こいど・まさあき)
1978年岐阜県生まれ。筑波大学体育系准教授。筑波大学蹴球部監督。
岐阜県立各務原高等学校卒業後、筑波大学体育専門学群に進学。在学中は大学3年、4年と全日本大学サッカー選手権大会で準優勝を経験。筑波大学大学院に通いながら、水戸ホーリーホックに入団。1年間プロ選手生活を送った後、現役引退。2002年に筑波大学蹴球部ヘッドコーチに就任。大学院修了後、柏レイソルのテクニカルスタッフ、清水エスパルスやガンバ大阪のアシスタントコーチなどを経て、2014年に筑波大学体育系着任。翌年から蹴球部の監督に就任。
サッカー日本代表の三笘薫選手をはじめ、多くのプロ選手、指導者を輩出。2025年には関東大学サッカーリーグ優勝、全日本大学サッカー選手権大会優勝と45年ぶりの二冠に導く。

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