本記事は、岩澤 脩氏の著書『だからベンチャーキャピタルはやめられない 投資家だけが知っている 起業とお金のリアル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。
プレバリューとポストバリューの両方を意識する
出資金額や株式シェアの交渉に関する話をするときによく登場するキーワードが、「プレバリュー」と「ポストバリュー」です。ここで押さえておきましょう。
プレバリューとは出資前の企業価値のことです。1株あたりの株価×出資前の発行済株式総数で算出できます。
一方、ポストバリューとは出資後の企業価値のことです。プレバリューに出資金額を加えたもので、1株あたりの株価×出資後の発行済株式総数で算出されます。
VCにとって望ましくないのは、ポストバリューが高く、出資金額の割に株式シェアが小さくなることです。また、むやみにポストバリューを上げることは、次の資金調達のときにダウンラウンドになってしまうリスクを高めます。
一方、スタートアップにとって問題なのは、交渉でプレバリューを下げられることです。プレバリューが低くなると1株あたりの株価も下がり、資金調達する時に多くの株式をVCなどに渡すことになります。
さらに、プレバリューが低いのに、VCから多くの資金を調達すると、株式が大きく希薄化します。つまり、創業者の株式シェアが低くなることを意味します。
たとえば、プレバリューが10億円で、株式発行数は1万株。株式はすべて創業者が保有しているとしましょう。その場合、1株あたりの株価は10万円になります。そこから2,000株を新たに発行して資金調達すると2億円を調達することができ、ポストバリューは12億円になります。この場合、創業者の株式保有比率は83.3%になります。
しかし、プレバリューが5億円で、株式発行数が同じ1万株だったらどうでしょうか。調達前の1株あたりの株価は5万円。同じ2億円を調達しようとすると、4,000株を新たに発行する必要があります。すると、ポストバリューは7億円、創業者の株式保有比率は71.4%に下がります。
VCとスタートアップは、プレバリューとポストバリューの両方を意識しながら、最適な出資金額や株式シェアを交渉で決める必要があります。
「100億円を調達」と「100億円で調達」、どう違う?
このプレバリューとポストバリューの概念を理解していると、スタートアップの資金調達に関するニュースを正しく理解できるようになります。
資金調達のニュースでよく見かける表現に、「○○億円を調達」と「○○億円で調達」の2つがあります。
助詞の「を」と「で」が違うだけですが、実は意味がまったく違ってきます。
「100億円を調達」と書かれている場合、これはシンプルに、新たに入ってくる資金、つまり「調達金額」が100億円であることを意味します。
一方、「100億円で調達」と書かれている場合、これは「バリュエーション(企業価値)」が100億円と評価されたうえでの調達を意味します。
この2つを組み合わせた具体例で考えてみましょう。
「100億円を1,000億円で調達した」というニュースがあった場合、その内訳は以下のようになります。
- 調達前の企業価値(プレバリュー):900億円
- 調達金額(今回集めたお金):100億円
- 調達後の企業価値(ポストバリュー):1,000億円
- VCの株式保有比率:10%
つまり、「1,000億円で調達」とは、調達後の企業価値(ポストバリュー)が1,000億円になる、という意味です。
VCから見ると、ポストバリューが1,000億円の企業の株を100億円分手に入れたことになりますから、株式保有比率は10%になります。
ニュースを読む際は、その数字が「調達金額」なのか「企業価値」なのかを意識するだけで、その資金調達の規模感をより正確に理解することができます。
ファーストライト・キャピタル株式会社 代表取締役
1982年、埼玉県川越市生まれ。慶應義塾大学理工学研究科修了(工学修士)。学生時代、偶然が重なりベンチャーキャピタルのインターンとして2年間勤務。卒業後、リーマン・ブラザーズ証券に入社し、株式調査部で株式アナリストとして勤務。在籍中にリーマンショックを迎え、勤務先の経営破綻を内側から経験する。その後、野村総合研究所に転じ、金融危機の余波で経営が傾いた地方企業の事業再生を担当。2011年、創業初期のユーザベースに参画。経済情報プラットフォーム「Speeda」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」を展開する同社の執行役員としてSpeedaの事業開発を指揮。2013年、単身で香港に渡り、アジア事業をゼロから立ち上げる。アジア事業統括執行役員として香港・シンガポール・上海・スリランカの4拠点・約100名の組織を率い、アジア11カ国のユーザーに支えられる事業へと育てる。2016年の東証マザーズ上場では、執行役員として上場の鐘を鳴らした。
2018年、ファーストライト・キャピタル創業。「人口減少社会の新産業創出」をテーマに、日本の基幹産業の生産性向上と新産業創出に取り組むスタートアップに投資する。重点領域はAI・SaaS・フィジカルAI・地域インフラ・危機管理。主な投資先にワンキャリア(東証グロース上場)、コミューン、モノグサ、PeopleX、フライルなど。全国の地域金融機関とともに「地域課題解決DXコンソーシアム」を設立し、スタートアップと地域経済をつなぐ取り組みも進める。
ポッドキャスト「VIVA VC〜だからベンチャーキャピタルはやめられない〜」のMCを務める。
Xアカウントは、@osamuiwa
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