
2020年7月、コロナ禍の逆境の中で実弟とともに株式会社doubleを設立し、わずか5年強で全国75店舗以上、売上高100億円に迫る急成長を牽引しているのが、代表取締役社長の松井勝也氏だ。
基幹ブランド「餃子のかっちゃん」を中心に、徹底した標準化と高回転・客数重視の収益モデルを確立し、圧倒的なコストパフォーマンスで顧客の支持を集める。SNSでのトレンドをいち早く察知する集客目線の業態開発や、独自の店長ライセンス制度をはじめとした人材育成システムも、同社の躍進を支える原動力だ。
学歴に関係なく、誰もが本気で挑戦できる組織を目指す松井氏に、スケールする飲食モデルの核心と今後の展望を聞いた。
SNSを起点に業態をつくるという発想
── 創業からわずか5年強で全国75店舗以上、売上高も100億円に迫る勢いです。この異例の出店スピードを支える、スケールする飲食モデルの核心について教えてください。
松井氏(以下、敬称略) 当社は弟と二人で立ち上げました。現在は二つの戦略を並行して進めています。弟は特定のエリアを集中的に攻めるドミナント戦略の担当です。私は単一の業態に絞り、勝てる場所で勝つ戦略を推進しています。
ドミナント戦略のカギは、マーケットやエリアへの深い理解です。特定の場所に人が集まる仕組みを構築すれば、多店舗展開は難しくありません。
一方で単一業態の戦略は、業態そのものを深く理解することが重要です。どこで勝てるかが明確になれば、場所を問わず全国へ発信できます。
この二つの戦略を組み合わせていることが、当社の強みです。社名の「double」も、この二人三脚の体制に由来しています。
また、コロナ禍というタイミングも影響しています。居抜き物件をローコストで確保できたため、出店を加速するための資金を確保でき、戦略も築けました。
── 2020年の創業時はまさにコロナ禍の真っ只中でした。あえてその時期に、集客が難しいとされる肉バルなどの業態でスタートした意図は何でしょうか?
松井 私たちはもともと、InstagramなどのSNSを活用した集客に強みを持っていました。集客目線で業態をつくるという発想で出店しています。世の中のトレンドをSNSでいち早く察知し、それに応じた業態を投入するものです。関西や東京のグルメ情報を常に注視し、アンテナを張っています。
たとえば以前、展開した寿司業態も、ブームが来る直前のタイミングで出店しました。SNSの反応を見極め、波に乗るスピード感は非常に速いです。
ただ、流行を追い続けることには限界もあります。そこで、自分たちのパッケージを確立し、それを広める方向にシフトしました。
その結果として誕生したのが「餃子のかっちゃん」です。自分たちが得意とする客単価とサービスを、最も効率的に提供できる形を追求しました。
会計の金額以上の価値を感じられる顧客満足度がKPI
── 「餃子のかっちゃん」は直営・フランチャイズ(FC)合わせて60店舗以上に拡大しています。これほどまでにスケールした要因はどこにあると考えていますか?
松井 最大の要因は、徹底した標準化です。餃子という商材は、自動調理機器やOEMの活用により、誰でも同じクオリティーで提供できます。現場での再現性を高めることで、運営のハードルを下げました。これが、社内の営業部やFCオーナーが取り組みやすいパッケージにつながっています。
また、バックオフィスの内製化も早期に進めました。飲食業界の中でも、運営を支える事務機能の構築はかなり速いほうだと自負しています。
── 物価高や人手不足が深刻化する中で、99円ハイボールなどの驚異的な価格を維持できるのはなぜでしょうか? その仕組みを教えてください。
松井 店舗数が増えたことによるスケールメリットはあります。しかし、本質となるのは高回転・客数重視の収益モデルを確立していることです。薄い利益を、圧倒的な客数で回転させることによって、全体の利益を確保します。繁盛し続けることが、このモデルを成立させる絶対条件です。
そのため、家賃比率などのコスト管理は厳格に行います。売上設定に対して適切な家賃の物件を選定することが、経営のスタートラインです。
同時に、顧客満足度(CS)が最重要のKPIです。安さだけでなく、サービスの質を担保することがリピートにつながります。私たちは、お会計が2000円台であっても3500円相当の価値を感じてもらえるサービスを目指しています。それが、私たちの提供する価値です。
創業から2年ほどは、とにかく客数を追うことに必死でした。
しかし、それでは自分たちの仕事にやりがいを感じられなくなります。そこでたどり着いたのが「三方よし」の考え方です。お客様、従業員、そして会社。すべてが満たされる状態を追求するようになりました。
スピーディーな店舗展開を支える人材育成システム
── 急成長を支えるのは「人」ですが、20代が中心という管理職の意欲をどのように引き出し、理念を浸透させているのでしょうか?
松井 当社は完全な実力主義です。20代前半で店長になることも珍しくありません。結果を出した人間が正当に評価される環境を整えています。
理念の浸透については、理念ブックの配布や理念テストを継続的に実施。また、店舗ミーティングの参加率も重視しています。
現在は、新しい役割として「オンボーダー」という役職を新設する方針です。これは、新入社員やアルバイトの初等教育に特化したポジションとなります。飲食店は忙しさのあまり、教育が後回しになりがちです。そこを仕組み化し、会社の意図と働き方をしっかり伝える体制を構築します。
具体的には、入社後の3ヵ月間で定性・定量の両面から教育を行います。技術面だけでなく、会社の想いを理解してもらうための期間です。
── 出店スピードが速いと、店長の育成が追いつかないという課題も出るかと思います。その点についてはどのような対策を講じていますか?
松井 まさにそれが最近の課題です。店長が未熟なまま出店すれば、ブランド価値が落ち、お客様に迷惑をかけてしまいます。
そこで「店長ライセンス」制度を導入します。出店が決まってから店長を探すのではなく、あらかじめライセンス保持者を育成しておく仕組みです。店長としての基準をクリアした人材をプールしておくことで、クオリティを落とさずにスピーディーな展開が可能になります。
また、社内では「やる気を出しても恥ずかしくない環境」を大切にしています。本気で頑張る人間を冷笑するような文化は、一切ありません。
今の時代には合わないかもしれませんが、飲みニケーションも重視しています。仕事について熱く語り合う時間は、決して無駄ではありません。たとえ翌日、詳しく覚えていなくても、一緒に熱い時間を過ごしたという感覚は残ります。それがチームの結束力や、明日への活力につながります。
コロナ禍だからこそ自力で乗り越えるために起業
── 松井社長が飲食業界で起業し、これほどまでに情熱を注ぐ原動力は何でしょうか? ご自身の原体験とあわせて教えてください。
松井 私は中卒ということもあり、社会へ出たときにやれることが限られていました。その中で、唯一自分を表現できたのが飲食の世界でした。飲食なら、学歴や生い立ちに関係なく、チームで一つの目標に向かえます。
アルバイト時代、よい売り上げを出せて仲間と喜んだ経験が、私の原点です。どんな人とも対等に、一丸となって働ける。この業界の素晴らしさを、より価値のあるものにしたいと考えています。
市場価値を高めるというよりも、誰もが本気で取り組めて、やりがいを持てる場所をつくりたい。それが私の使命です。
── コロナ禍という逆境での創業も、その強い信念があったからこそ決断できたのですね。
松井 当時は15人ほどの仲間がいました。彼らを守るためにも、すべての責任を自分で背負いたかった。人のせいにしたくないという想いが強かったです。「上にいわれたから」という言い訳をして、かっこよくない決断をしたくありませんでした。自分の足で立ち、自分の責任で勝負したかったのです。
── 今後の展望として、2030年までに「餃子のかっちゃん」200店舗という目標を掲げています。その先の未来、株式会社doubleが果たす役割をどう描いていますか?
松井 店舗数は一つの指標ですが、無理に拡大することだけが目的ではありません。大切なのは、人が育つ環境を維持し続けることです。飲食を軸に、不動産や精肉、コンサルティングなど多角化を進めているのも、従業員の活躍の場を広げるためです。
会社を支えたいと思ってくれる仲間と、新しい物語をつくりたい。その結果として、社会のプラットフォームになれれば最高です。
私が好きな言葉に「守破離」があります。まずは会社の型を理解し、その上で自分のやりたいことを実現してほしいと伝えています。「これをやってくれたら評価する」という基準を明確に示すことは、経営者の責任です。頑張り方を提示し、ステップアップを支援し続けます。
大手チェーンと呼ばれるような規模になっても、今の楽しい環境や熱量を忘れない。そんな唯一無二の企業グループを目指して、これからも走り続けます。