
家業の民事再生という過酷な経験を経て、ホテル運営のプロフェッショナルとして数々の実績を積んできた、株式会社レアル代表取締役の反保宏士郎氏。2021年、同氏はコロナ禍で同じく民事再生に至った株式会社レアルの代表に就任した。
同社は京都で京町家を保全・活用し、小規模な宿泊施設をエリア内に点在させる「分散型ホテル」を展開。地場の不動産ネットワークを駆使した仕入れ力という強みを持つ一方、運営ノウハウの不足により巨額の赤字を抱えていた。
反保氏はそこに「ホテル屋」の視点を持ち込み、施設のクオリティ向上や販売戦略の見直しを断行。結果として、売り上げを以前の3倍に引き上げる、驚異的なV字回復を果たした。同社の強みである開発と運営の仕組みから、今後の事業拡大戦略まで、反保氏に聞いた。
家業が民事再生というどん底を経験
── 現在の会社の前にも、経営に携わっていたそうですが、その経緯を教えてください。
反保氏(以下、敬称略) 私の経歴は少し特殊かもしれません。
22歳の時に音楽業の会社を立ち上げ、その後、諸事情により実家がある北海道釧路市に戻ることになります。家業は、地元でそれなりの規模を誇るホテル経営でしたが、中に入ってみると深刻な経営状態でした。
バブル期に建設された地方のホテルは、バブル崩壊やリーマンショックの影響もあり、どこも壊滅的な状態でした。私は20代後半から経営に参画しましたが、よく見れば見るほど「このままでは根腐れしてしまう」という危機感を抱いたのです。2013年、私は父から会社を整理するため代表権を引き継ぎました。
釧路のホテルは北海道のホテル運営会社に吸収され、そのグループのオーナー直轄で開発業務に従事しました。
そこで手がけたのが、函館にある「センチュリーマリーナ函館」です。朝食のおいしいホテルとして多くのメディアに取り上げていただき、全国的な知名度を得られました。ファイナンスの組成からホテルの立ち上げまで一連のプロセスを完結させたことが、現在の私の基盤となっています。
"ガリガリ"の不動産会社ながらポテンシャルは高かった
── その後、どのような経緯でレアルの代表に就任したのでしょうか?
反保 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、ホテル業界は前年比マイナス95%という未曾有の危機に直面しました。一方で、同じ時期に多くの開発案件やホテルの情報が市場に出てくるようになります。私は函館のプロジェクトから離れ、新しい事業の可能性を模索していました。
その際、かつて自分の会社の民事再生を担当してくれた大阪のチームから、レアルの民事再生の話を聞きました。これが私とレアルの接点です。レアルは2013年に設立した不動産会社で、京都で京町家の保全と活用を目的とした宿泊事業を展開していました。
半年間のデューデリジェンスを経て、民事再生のスポンサーとなることを決めました。
事業計画の策定から交渉までを中心となって担いました。そして、スポンサー側から「民事再生の経験がある君が社長をやるのが一番だ」と任されました。こうして、弊社の代表取締役に就任した次第です。民事再生を申し立てた側の人間が、同業種でスポンサー側に回るというのは珍しい事例だと思います。
── 当時のレアルはどのような課題を抱えていたのでしょうか?
反保 もともとは、根っからの不動産会社でした。ホテルの運営会社というより、不動産のプレイヤーとしての色合いが濃い会社だったのです。
レアルはインバウンド需要の急増に伴い、京都の宿不足を解消するために京町家を仕入れ、宿泊施設として再生して投資家に販売し、自社で運営を引き受けるというビジネスモデルです。
しかし、当時の経営陣は不動産のプロではあっても、ホテルの運営に関しては素人でした。供給過多による競争激化に加え、コロナ禍でキャッシュフローが途絶え、民事再生に至ったという経緯です。私がデューデリジェンスしたとき、宿泊運営部門だけで年間数億円もの赤字を出している状態でした。
── 数億円の赤字ですか。そこからどのように立て直しを図ったのですか?
反保 私はレアルのビジネスモデル自体には、非常に大きな魅力を感じていました。京都という市場において、土地の仕込みから建築、そして運営までを自社で完結できるポテンシャルがあったからです。
京都の不動産市場には、独特の商習慣があります。良い情報は、まず地元のネットワークの中で回り、その後に大手企業へと届く。そういうケースが多いのです。私たちはこの3年で、そのネットワークをさらに強くしてきました。加えて、ホテル運営の実績(トラックレコード)が積み上がったことで、良質な情報が優先的に集まる体制も整いつつあります。他社が手を出せないような希少な物件を確保できるのは、その積み重ねがあるからです。
── 不動産事業者としての強みはあったものの、ホテルの運営能力が追いついていなかったのですね。
反保 その通りです。私は「ホテル屋」としての視点を持ち込み、運営体制を根本からつくり直しました。以前のように“不動産を売るための商品”としてホテルを位置づけるのではなく、まず宿泊客に選ばれる魅力的なホテルをつくる。運営で確かな収益を生むホテルであってこそ、不動産としての価値も最大化する——その順番で事業を組み立て直したのです。
分散型ホテルで高収益を図るための仕組み
── レアルが展開する「分散型ホテル」について、詳しく教えてください。
反保 現在、私たちは開業予定も含め443室を74棟に分けて運営しています。1棟で数百室ある大規模ホテルではなく、街の中に小さな宿泊施設が点在する形態です。これを私たちは「分散型ホテル」と呼んでいます。
京都では、100室以上のホテルを建てられるような広い土地はめったに出てきません。
しかし、100坪程度の土地を地元のネットワークを駆使して確保することは、可能です。私たちはエリア内にドミナント展開することで、スタッフの配置やリネンの配送などを効率化し、小規模施設でも採算が合う仕組みを構築しました。
── 小規模な施設を多数運営するのは、管理コストがかさむイメージがありますが。
反保 たしかに通常のオペレーションでは困難です。
しかし私たちは、エリア全体を一つのホテルとしてとらえ、人的リソースを最適化しています。施設を一定エリアに集めるドミナント戦略によって、スタッフの配置に無駄が出ず、一人が複数施設・複数業務をこなす多能工化も進めやすい。さらに、清掃や設備管理といった運営の根幹までを外注に頼らず自社で完結させているため、品質を保ちながらコストを抑えられます。こうして、25〜30室程度の規模でも十分に利益を出せる体制を整えました。
また、私たちの強みは「ダブルゲイン」を得られる構造にあります。土地を仕込み、価値のあるホテルを開発して投資家に売却する「開発利益」と、その後の運営を引き受けることで得られる「運営利益」の両方を享受できます。
── 開発から運営までを一気通貫で行うメリットは、他にもありますか?
反保 キャッシュポイントが多岐にわたる点です。通常のホテル運営事業は、開業までに2年から3年の歳月を要し、その間はキャッシュインがありません。
しかし、私たちは開発段階で売却益を得られるため、資金の回転率が非常に高いのです。
さらに、運営者としての視点を開発段階から反映できることも、大きな利点です。どのような設計にすれば稼働率が上がり、単価を維持できるのか。ホテル運営のプロとして、投資家に対しても説得力のある事業計画を提示できます。
1泊20万円でも稼働率は50%
── 社長就任から、具体的な数字としてどのような変化がありましたか?
反保 コロナ前、旧体制で運営していた頃と、同じ月・同じ部屋数で比較すると、売り上げは3倍にまで伸びています。1室あたりの売り上げで見ると、330%の成長です。これが「不動産屋の運営」と「ホテル屋の運営」の決定的な違いです。
── 3倍以上というのはすさまじい数字ですね。具体的に何を変えたのでしょうか?
反保 まず挙げられるのが、販売戦略の徹底的な見直しです。需要予測に基づいたダイナミックプライシングの精度を高め、適切なターゲットに適切な価格で届ける体制を構築しました。 また、施設のクオリティそのものにも徹底的に投資しました。以前のレアルは、せっかく良い物件を仕入れても、内装やサービスの質が伴っていませんでした。
そこで新体制になってから、新たに開発したフラッグシップが「HITOTOSEシリーズ」です。設計デザインからサービス内容まで一切妥協せず、世界的なデザインアワードを4つ獲得。1泊20万円という高価格帯ながら、50%の稼働率を維持しています。
── スタッフの意識も変わったのではないでしょうか?
反保 そこが一番苦労した点であり、最も時間をかけた部分です。
私は外から来た人間ですから、最初から私の言葉が響くわけではありません。経営者がどれほど「こうすれば良くなる」と説いても、結果が出なければ誰もついてきません。
実績を積み上げ、売り上げが出て、お客様からの評価が目に見えて変わる。そのプロセスを3年かけて共有することで、ようやく組織が一枚岩となって動き出しました。今では、スタッフ一人ひとりが「自分たちはプロのホテルマンである」という誇りを持って業務に取り組んでいます。
京都での事業拡大と他地域への横展開を目指す
── 今後の成長戦略について教えてください。
反保 まずは2029年までに、京都市内での運営規模を700室にまで拡大することを目指しています。現在、契約ベースでは目標の7割程度まで進捗しており、今期中には8割から9割を確定させる計画です。
京都では、施設を増やすフェーズから、モデルそのものを深める段階に入っています。いま開発を進めているのが、宿泊に朝食やサロンといった付帯価値を掛け合わせた新しい形態です。朝食には、函館で全国的な評価を得た朝食のノウハウを取り入れることを構想しています。開発面では、すでに複数の大手デベロッパーや鉄道系企業と組み、私たちは運営に集中する体制を築いています。こうした“京都モデルの進化系”を、複数並行して進めています。
また、京都で培った「分散型ホテル」のモデルを、他の都市へ展開することも視野に入れています。たとえば地方の中核都市のような、土地の確保が難しく、かつ観光需要が高い都市であれば、私たちのモデルは非常に有効です。大規模な投資リスクを抑えつつ、着実に収益を上げられる仕組みを横展開します。
── 京都以外の都市でも、レアルの強みが発揮できると。
反保 はい。さらに、函館で培った、朝食とスパに特化した高付加価値なホテルモデルの他地域への展開も検討しています。世帯年収800万円から2000万円程度の層をメインターゲットとしています。初期投資は大きくなりますが、確実な需要があるマーケットです。
── 投資家に対しては、どういった部分をアピールしたいですか?
反保 私たちは、民事再生という苦境を乗り越え、組織として非常に筋肉質な体質へと生まれ変わりました。いまのレアルには、不動産を仕込む開発力と、宿泊客に選ばれるホテルをつくる運営力——その両方が備わっています。この二つを一社で握れる会社は、そう多くありません。
そして、京都で確立した「分散型ホテル」のモデルは、土地の確保が難しく観光需要の高い都市であれば、他の街でも通用するものです。私たちは京都を実証の拠点としながら、このモデルを他の観光都市へと広げ、事業をさらにスケールさせていきます。1泊8,000円のカジュアルな宿から1泊20万円の高級宿まで、幅広いラインアップと、開発から運営までの一気通貫の強みを活かし、新しい価値を生み出す挑戦を続けてまいります。