この記事は2026年7月17日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「政治的要因で波乱含みのブラジル通貨、中銀政策が安定へのカギ」を一部編集し、転載したものです。
昨年初から通貨高傾向が続いていたブラジル・レアルが、今年5月頃から弱含んでいる(図表)。レアル安の背景には、中東情勢の緊張緩和によるコモディティー価格の下落のほか、現職のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領が今年10月に予定されている大統領選挙の世論調査で優位なことが挙げられる。
ブラジルの通常選挙の公示は8月であり、正式な候補者が判明するのはこれからだが、市場では現職のルラ大統領と、ボルソナロ前大統領の長男であるフラビオ・ボルソナロ上院議員の一騎打ちが有力視されている。左派のルラ氏有利はレアル安、右派のフラビオ氏有利はレアル高となる構図だ。こうしたなか、5月にフラビオ氏とスキャンダルの渦中にある銀行家との会話が報道されてから、ルラ大統領の支持率はフラビオ氏を上回っている。
前回のブラジル大統領選挙は2022年で、その年のレアルの変動性は高かった。同年2月にはロシアがウクライナに軍事侵攻し、エネルギー価格が不安定だったことがレアルの変動性を高めた。加えて、ボルソナロ前大統領とルラ大統領の争いとなった同選挙では、燃料補助金などバラマキ政策が選挙期間中に発表されてレアルが不安定化した。ルラ政権は26年春にも、中東情勢悪化を背景に燃料価格抑制政策を相次いで発表している。エネルギー価格の不透明さは、レアルの先行きを暗示しているようにも映る。
しかし、最近のレアルの動向を振り返ると異なる側面も見えてくる。24年の大幅なレアル安局面は、歴史的な干ばつ被害による水力発電不足とルラ政権の財政規律喪失懸念が要因だった。同政権の予算案に示された財政赤字は市場の想定を上回り、財政規律を逸脱する内容だった。しかし25年は天候要因が解消に向かい、ルラ政権も財政規律重視の姿勢を示したため、一転してレアル高に転じた。足元でもルラ政権は、財政規律をひとまず尊重する姿勢がうかがえる。
そしてより重要だったのは、中央銀行のレアル安抑制に向けた引き締め姿勢だ。ブラジル中銀は24年9月に利上げを開始し、ピーク時には政策金利を15%にまで引き上げた。今年3月にはレアル安定とインフレ鈍化を受けて利下げに転じたものの、4月と6月も0.25%の緩やかな利下げとしている。最新の声明文では、足元のレアル安を意識してなのか「今後の金融政策はデータ次第」とする慎重ぶりだ。
大統領選挙の年でもあり、政治への警戒心はまったく解けない。しかし、ブラジル中銀が高金利政策を継続するならば、レアルの変動は前回の大統領選挙の時よりは小幅となる可能性もあるとみている。
ピクテ・ジャパン シニア・ストラテジスト/梅澤 利文
週刊金融財政事情 2026年7月21日号