RIZAPグループ株式会社

パーソナルジムの「RIZAP」で知られ、低価格の無人のコンビニジム「chocoZAP」を急拡大させているRIZAPグループ。

2026年には、chocoZAPの大量出店で培った知見を強みに「RIZAP建設」で建設業へ本格参入するなど、事業領域を大胆に広げ続けている。その歩みは、かつて積極的なM&Aで拡大し、2018年に一度はM&A戦略の凍結を宣言して立て直しを図った経験の上に立っている。

数々の買収と再生をくぐり抜けてきた創業者の瀬戸健社長にとって、M&Aとは何なのか。

「買収は、相手を変えるためではなく、自分たちを変えるための手段だ」と語る瀬戸氏に、実験と学習を軸とする独自のM&A観と、失敗から得た教訓を聞いた。

瀬戸 健(せと・たけし)──代表取締役社長
1978年福岡県生まれ。2003年に、健康食品の「豆乳クッキーダイエット」の通信販売を主とする健康コーポレーション(現・RIZAPグループ)を設立。2006年には札幌証券取引所「アンビシャス」に上場を果たす。2012年からパーソナルトレーニングジム「RIZAP」を手がけ、2022年7月よりコンビニジム「chocoZAP」を展開。
RIZAPグループ株式会社
2003年4月、健康コーポレーション株式会社として設立。2016年7月に持株会社化に伴いRIZAPグループ株式会社へ改称。「結果にコミットする。(R)」のキャッチフレーズで知られるパーソナルトレーニングジム「RIZAP」を中核に、美容・健康・アパレル分野へのM&Aで事業を拡大。近年は低価格フィットネスジム「chocoZAP」を47都道府県に展開し国内2000店舗を突破するなど、急速な拡大を続けている。 企業サイト:https://www.rizapgroup.com/
本企画について「M&A新時代 〜荒波を越える成長戦略〜」
予測困難な時代の荒波が押し寄せる今、自社の可能性を広げる一つの選択肢として「M&A」を活用する企業が増えています。本企画では、外部とのシナジーを自社のエンジンに変え、次なるステージへ挑むリーダーにインタビューを実施。M&Aという選択をした背景や、実際に進める中で感じた葛藤をどう整理し、今の形に繋げてきたのか、その一歩一歩のプロセスに焦点を当てます。 本企画は、買い手企業支援に特化したM&Aアドバイザリーを展開するByside株式会社との共同企画です。同社の知見も交えながら、企業がどのようにM&Aを成長へ繋げているのかを紐解く連載として構成いたします。
Byside株式会社企業サイト:https://byside.co.jp/

目次

  1. M&Aは「相手を変える」のではなく「自分たちを変える」手段
  2. 実験と学習──小さく試し、痛みから学ぶ
  3. 「任せっきり」はやらない──当事者になりきる
  4. なぜ建設業なのか──強みを社会課題に生かす
  5. リスクは「試験管の中」で──限定して、猛烈にやる

M&Aは「相手を変える」のではなく「自分たちを変える」手段

── M&Aで最も大切にしている考え方を教えてください。

瀬戸 M&Aというと、買った会社を変えて成長させる、というイメージが強いと思います。

でも、私たちの発想は逆なんです。対象となる会社を変えるのではなく、自分たちが変わるための手段としてM&Aをとらえている。我々に欠けているミッシングピースや足りない機能を取り込んで、より良くなるために、その会社に活躍してもらう。そういう考え方です。

もちろん、我々の強みやアセットを対象会社に提供することで、対象会社の発展にも寄与し、結果両社にとってシナジーを最大化できる関係が理想ととらえております。

相手を変えるというのは、本当に大変なんです。価値観も、行動様式も、それぞれにメンタルブロックのようなものもある。

だから「あなたを変えます」ではなく、「あなたの力を借りて、私たちを変えてほしい」と考える。手段が結果をつくるものなので、その手段を徐々に磨いてより良くする。ただし、実験台になるのは、いつも自分たち自身なんです。

正直に言えば、かつては「広げること」自体が前提になってしまっていた時期もありました。いまはそこを反省して、仮説だけで進めるのではなく、そのM&Aを通じて対象会社も私たちも本当に成長できるのか、実行できるのか、というところまで検証してから踏み出すようにしています。

実験と学習──小さく試し、痛みから学ぶ

── 事業を広げる中で、経営者としての視点が変わったと感じたことはありますか。

瀬戸 私たちがやっていることは、突き詰めれば「実験」なんです。実験を通して結果を得て、それを学習して、自分たちのデータベースにする。子どもが、ありがとうと言えば喜ばれ、悪いことをすれば怒られる、と経験から学んでいくのと同じです。

本を読むことも大事ですが、自分で失敗して、痛い思いをして学んだことは、身に刻まれる。強いデータベースになるんです。だから私たちは、とにかくやってみる。やれば、学習できる。

しかも、いきなり大きなことをやるより、小さなものを積み重ねて学習していったほうが、成功率は高い。いろいろなデータがそう示しています。大きな一発に賭けるのではなく、一歩踏み出して経験から学び、また次の一歩を踏み出す。この繰り返しです。

頭で描いた仮説がそのまま通ることはまずありませんから、やってみて、痛い思いをして、修正する。その回転をどれだけ速く、どれだけ多く回せるかが勝負だと思っています。事業を広げる手段としてのM&Aも、まったく同じ価値観の延長線上にあります。

「任せっきり」はやらない──当事者になりきる

── 過去のM&Aを振り返って、今後は「これだけはやらない」と決めていることはありますか。

瀬戸 一部だけ出資して、口を出さずに任せっきりにすること。これは、もうやりません。

過去にうまくいかなかったのは、たいてい任せっきりだったからなんです。こちらは構造も分かっていないから、口を出そうにも情報がない。ほうっておけばおくほど、ますます口を出しづらくなる。悪循環です。

もちろん、たとえば10%程度の少数出資で、相手のオーナーが主体的にどんどん改善してくれる、という形が機能する場合もあります。オーナーが株を持ち続け、自分の事業として頑張る。その動機づけが担保されているケースですね。

逆に、100%買い取ってしまって、当事者意識のない人に任せるだけでは、なかなかうまく回らない。一番お金を出しているのに口を出さない、という環境をつくってしまった会社こそ、伸びていないんです。だから私たちは、当事者として、プロとして深くコミットしないといけないと考えています。

不思議なもので、こちらが本気で入り込んでいくと、相手も「そこまでやってくれるのか」と、より応えてくれるようになる。お金を出しただけの関係とは、そこが決定的に違うんです。

2026年に『RIZAP建設』を立ち上げて建設業へ参入しましたが、この取り組みでも、相手の会社に私たちが乗り込んでいくのではなく、技術を持った職人さんたちに、むしろ私たちの側へ出向してもらっています。他社の中に入り込むことは難しいですから、まず私たちが実験台になって構造を理解し、生産性が上がることを自ら体験する。そのうえで「これでどうですか」と示す。

相手が出す結果は、結局その人たちが持つ手段や価値観と連動していますから、いきなり「生産性を1.5倍にしてください」と指示しても、最適な指示にはならない。

だからこそ、まず自分たちが当事者になることが重要なんです。徐々に、2割、3割と生産性を上げていって、身をもって「こうすればもっと良くなる」と体験する。その積み重ねの先に、相手にとっても納得のいく成長がある。少しずつ、しかし確実に、というやり方です。

なぜ建設業なのか──強みを社会課題に生かす

── フィットネスから、なぜ建設業だったのでしょうか。

瀬戸 人間でも会社でも、自分の強みが生きる領域で戦うのが基本ですよね。よくあるSWOT分析のように弱みに焦点を当てても、あまり意味がない。長距離ランナーに、重量挙げのトレーニングばかりさせるようなもので、効率が悪い。

それより、得意なこと、培ってきた強みに焦点を当てて、それを生かしたほうがいいに決まっています。会社の強みも、経験によって裏づけられ、強化されるものですから。

私たちはこれまで、4000人を超えるトレーナーを育ててきました。それぞれに職人的なこだわりを持つ一人ひとりを、理念のもとで束ね、お客様に寄り添うという共通認識のもとで、手段を標準化し、教育し、組織としてマネジメントしてきた。そこに強みがあるんです。

ただ、トレーナーが一人ひとりに寄り添うには物理的な限界がある。時間もかかるし、それは価格にも跳ね返り、限られた方にしか届けられない。

そこでchocoZAPでは、デジタルの力で場所や時間、人の制約から解放しました。入会から退会までアプリで完結し、無人で24時間使える。トップトレーナーの指導はオンデマンド配信で届ける。そうやって、金銭的にも物理的にも心理的にも、ハードルを一つずつ外してきたんです。

その延長線上に、建設業があります。教育や標準化、DXといった私たちの強みは、目には見えにくいけれど、凝り固まった業界の課題にこそ効く。建設業界は、人手不足や高齢化という大きな社会課題を抱えている。

そこを、破壊すると言うと上から目線に聞こえてしまいますが、これまでのやり方をいい意味で壊しながらイノベーションを起こす。厳しいご意見もたくさんいただきますが、それを受け止めながら前へ進める。

これだけの規模で、リスクを背負いながら推進できるのは、私たちの価値だと思っています。正直、これは私たちにしかできないんじゃないか、と思えるくらいです。

だから私たちは、何でも自前でやります。chocoZAPも、まず自分たちで店舗をつくり、海外でも、法規制がない限りは100%自前で、直営・無人でやってみる。登録の仕組みまで全部、自分たちで組む。すると問題が山のように出てくる。それを全部つぶして、ちゃんと儲かる形にし、改善点まで洗い出したうえで、初めてフランチャイズを募集する。

儲かる前にFCを募集するのは、順番が違うと思うんです。自分たちで手を動かして構造を理解しないと、発注先にも適切なことは言えないし、監督もできない。丸投げでは、改善などできませんから。

── その根っこには、どんな目標があるのでしょうか。

瀬戸 私たちが目指しているのは、突き詰めれば、社会を良くすること、人を幸せにすることです。健康や自己実現といった「自己投資産業」の領域で、世界一になりたい。そう本気で思っています。

ただ、そのための手段は一つではなく、いくらでもある。あるときはchocoZAPという形で現れ、あるときはRIZAP建設という形で現れる。目の前の事業や手段そのものが最終目的なのではなく、その先にある「人を幸せにする」という一点に、すべてがつながっているんです。

だから、業界としてはまったく違うように見えても、私たちの中では地続きなんですよ。

リスクは「試験管の中」で──限定して、猛烈にやる

── 拡大と再生の両方を経験して得た、一番大きな教訓は何でしょうか。

瀬戸 全体の絵は描きます。でも、そこにとらわれない。思った通りにいかないことなんて、山ほどありますから。大きな絵を持ちつつ、その時々の社会が抱える課題に対して、自分たちが培ってきた強みを生かせるポイントはどこか、を常に探している。状況は変わり続けるので、そこはアジャイルに動く。

根っこにあるのは、社会を良くしたい、人を幸せにしたいという思いで、そのための手段はいくらでもある。いまはRIZAP建設に欠けているミッシングピースを埋めることと、成長領域に投資すること。この二つを軸に考えています。

挑戦にはリスクがつきものですが、私たちの実験は「試験管の中」でやるようにしています。理科の実験と同じで、限定された環境の中に収めるんです。M&Aでも、対象会社に何もかも保証してしまって、後から出てきた問題が本体にまで及ぶ、ということは避ける。本体ときちんと切り離し、最悪の場合でも、その会社が立ち行かなくなって、出したお金がなくなる──そこまで、リスクの最大値を最初にきちんと計測しておく。その範囲の中でなら、あとはやり続ける。猛烈にやります。

多少の間違いは、当然ありますが、やらなければ絶対に成長しない。むしろ皆さん、リスクを恐れてやらないことのほうが多いのではないでしょうか。それでは成長しない。

だから私たちは、最悪の事態だけは想定しておいたうえで、これからも失敗を恐れずに実験を重ね、そこから学び続けていきます。慎重にリスクを測ることと、大胆に踏み出すこと。この二つは、矛盾しないんです。

── これからM&Aに取り組む経営者も多いと思います。数々の経験を重ねてこられて、いま率直に感じていることはありますか。

瀬戸 結局、買収そのものが目的になってはいけない、ということだと思います。M&Aは、自分たちがやりたいことを実現し、自分たちが変わるための手段でしかない。相手を変えようとするのではなく、相手の力を借りて、自分たちが当事者として変わる。

もちろん、私たちが持つ強みやアセットを提供することで、相手の課題解決や成長に貢献できるかを検討することは大前提です。

そして、リスクは限定したうえで、思い切って踏み出す。うまくいかないことも当然ありますが、その一つひとつが学習になり、次の糧になる。恐れずに、けれど無謀にはならずに。その両立を大事にしながら、挑戦を続けることなのだと思っています。

氏名
瀬戸健(せと・たけし)
社名
RIZAPグループ株式会社
役職
代表取締役社長