この記事は2026年8月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ECBは9月にも利上げへ、エネルギー価格上昇の影響に注視」を一部編集し、転載したものです。


ECBは9月にも利上げへ、エネルギー価格上昇の影響に注視
(画像=Fokke Baarssen/stock.adobe.com)

エネルギー価格の急騰によるインフレ率の加速を受けて2026年6月の理事会で利上げに踏み切った欧州中央銀行(ECB)は、続く7月23日の理事会では追加利上げを見送った。ただし、公表された声明文や理事会後の会見は、追加利上げの可能性を強く示唆する内容となった。

声明文では、エネルギー価格急騰のインフレ率への影響はまだ完全には表れていないとの見方が示され、これを注意深く監視していくとされた。ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は、6月29日から7月1日にかけて開催された「ECBフォーラム」で、6月理事会時点に比べてインフレ率の上振れリスクと、経済の下振れリスクが縮小したとの見解を示していた。しかし、7月の理事会後に開いた記者会見では、その後のエネルギー価格の再上昇を受けて「7月の理事会時点でのリスクバランスは6月理事会と同様の評価に戻った」と言及し、自らの見解を修正した。

同氏は会見で「金融市場がECBの政策反応関数をよく理解している」とも述べた。これは、金融市場の追加利上げの織り込みを暗に認めたと解釈できる。7月理事会の時点で、OIS(翌日物金利スワップ)市場が織り込む9月理事会での利上げ確率は90%を超えていた。エネルギー価格が急低下するなどの変化が起こらない限り、ECBは9月に追加利上げを実施する可能性が高い。

では、ECBはその後、どこまで利上げを続けていくのか。金融政策を判断する上で最大の注目点は、乱高下を続けるエネルギー価格の動向になるだろう。もっとも、7月の声明文にも記述されたとおり、インフレ率への直接的な影響のみならず、間接的影響や二次的影響にも注目していく必要がある。

とりわけECBが重視する中長期的なインフレ率の安定を考える際に、二次的影響、すなわち物価から賃金への波及が重要になる。エネルギー価格上昇による直接的、間接的なインフレ率の押し上げは、エネルギー価格の上昇が続かない限り、いずれ逓減していく。一方、エネルギー高をきっかけとした高インフレ率が賃金に波及すれば、賃金との連動性が強いサービス価格を押し上げ、スパイラル的にインフレ率が上昇する可能性が高まる。仮にそうなれば、ECBはより強力な金融引き締めが必要になるだろう。

ラガルド総裁は7月の理事会で、賃金交渉の状況をまとめた「Wage Tracker」やECBによる企業へのヒアリングを引き合いに出し、二次的影響は見られていないと断言した(図表)。その意味では、現時点で追加利上げを極端に急ぐ状況ではない。

それでもエネルギー価格の上昇ペースがさらに速まる、あるいは上昇が長く続けば、二次的影響が広がる可能性が高い。仮にエネルギー価格が落ち着いたとしても、これまでの上昇の影響がタイムラグを伴って表れるリスクもある。賃金動向や二次的影響に対するECBの評価がどのように変化していくかに注目したい。

ECBは9月にも利上げへ、エネルギー価格上昇の影響に注視
(画像=きんざいOnline)

大和総研 ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト/橋本 政彦
週刊金融財政事情 2026年8月11日号