この記事は2026年8月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日銀の利上げ路線を支持する企業のインフレ予想の変化」を一部編集し、転載したものです。


日銀の利上げ路線を支持する企業のインフレ予想の変化
(画像=shironagasukujira/stock.adobe.com)

(日本銀行「全国企業短期経済観測調査(短観)」)

前回は、日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)」で、企業マインドを確認した。本稿では、引き続き日銀短観を用いて、日銀の金融政策を見通す上で重要な要素の一つである「企業の物価観」を取り上げる。

日銀は金融政策の判断において、一過性要因を含まない「基調的な物価上昇率」を重視している。この基調的な物価上昇率を捕捉することは容易でないが、一時的な変動要因とみなされる品目を除外して物価指数を計算する手法や、家計や企業などの経済主体の中長期的な予想インフレ率を参照する手法が代表的である。

なかでも、消費者が購入するモノやサービスの価格決定の主体である企業の中長期的な予想インフレ率の動向は、基調的な物価上昇率の先行きを見通す上で重要だ。そして、その代理変数となるのが、日銀短観で調査される「5年後の物価見通し(前年比)」である(図表)。

全規模・全産業ベースの5年後の物価見通しは、2026年6月調査で3月調査よりも0.1ポイント拡大し、調査開始以来最も高い2.6%の上昇となった。22年9月調査で2%に到達した後は、2%台の推移が続いており、緩やかに上昇が加速する方向にある。日銀が掲げる2%の物価安定の目標に対し、上振れ方向の乖離が徐々に広がっている状況だ。

金融政策においては、インフレ予想が物価目標から漂流せずに、目標付近でつなぎとめられているかが重要だ(このため「アンカー」という言葉が用いられる)。企業の物価見通しが2%台後半まで上昇している現状は、企業のインフレ予想が物価目標にアンカーされているかどうかの判断をいっそう難しくしている。

ただし、今回の物価見通しの上振れは、中東情勢混迷による原油価格上昇が大きく影響しているとみられることに留意する必要があろう。中東情勢の帰趨はなお予断を許さないが、筆者は、中東情勢が収束に向かえば、企業の物価見通しのさらなる上振れは回避され、日本銀行が利上げペースを従来よりも上げる理由にはならないと想定している。

もっとも、企業の物価見通しの2%超えが定着していることは、デフレ期に根付いた物価が上がらないことを前提とする企業の物価観が相当程度転換していることを裏付ける動きといえる。今後の日銀の物価目標達成の判断をサポートする材料になるだろう。

今回の短観は、企業の積極的な価格転嫁スタンスが今後も継続する公算が大きいことも示唆した。既往の原油価格上昇の影響もあり、当面のインフレ高進リスクは大きいと考えられる。堅調な企業マインドのみならず、企業の物価観の面でも、日銀の利上げ路線の継続を後押しする内容といえるだろう。

日銀の利上げ路線を支持する企業のインフレ予想の変化
(画像=きんざいOnline)

SBI新生銀行 グループ経営企画部 金融調査室 シニアエコノミスト/森 翔太郎
週刊金融財政事情 2026年8月11日号