株式会社Another works

かつてはタブー視されることも少なくなかった「複業」という働き方。その常識を覆し、日本社会に新たな雇用インフラを築こうとしているスタートアップがある。株式会社Another worksだ。

代表の大林尚朝氏は、新卒で入社したパソナグループでの原体験をもとに、2019年に複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を立ち上げた。業界の常識を覆す「月額定額モデル」を導入し、現在では累計2,500社以上の民間企業、そして累計250を超える自治体の複業採用を支援するまでに急成長を遂げている。

人口減少が進む日本において、なぜ彼らは「複業」にこだわり、社会の価値観を揺り動かすことができたのか。

令和の幕開けとともに決意した創業の原点や、Netflixから着想を得たという独自のビジネスモデルの秘密に迫った。

大林 尚朝──株式会社Another works代表取締役
1992年、大分県生まれ。早稲田大学卒、パソナグループに入社。ビジョナル株式会社での新規事業立ち上げを経て、2019年に株式会社Another worksを創業。業界初、複業したい個人と企業や自治体を繋ぐ総合型マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を開発。2026年8月時点で累計2,500社・250自治体以上の複業採用を支援、複業希望者が10万名登録。東京都など複数自治体にて起業家メンターを担当。令和の新しい働き方を創るトップランカー。
株式会社Another works
2019年5月創業。Mission「複業の社会実装を実現する」、Vision「挑戦するすべての人の機会を最大化する」の実現に向け、本業だけでなく複数の居場所を持ち、金銭報酬やスキルアップ、キャリアアップ、自己実現など複数の目的を達成できる「複業」が社会に欠かせない働き方であると確信し、日本全国で推進。主力サービス・複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」は総登録タレント(登録者)数10万人、累計導入数2,500社、累計導入自治体数250自治体を突破(2026年8月時点)。企業サイト:https://anotherworks.co.jp/

目次

  1. 令和の幕開けとともに決意した「働き方の再定義」
  2. Netflixに学んだ月額定額モデルへの挑戦
  3. 大手企業の課題を解決する伴走型支援「プロウィズ」
  4. 250以上の自治体へ。地道なヒアリングで築いた信頼
  5. 行政のDXとマーケティングを加速させる複業人材の力
  6. 日本社会の「人的資本OS」として目指す未来

令和の幕開けとともに決意した「働き方の再定義」

── 雇用形態にとらわれず人が活躍できる社会を目指し、複業をテーマに起業した経緯を教えてください。

大林氏(以下、敬称略) 会社を設立したのは2019年5月7日で、元号が令和に切り替わるタイミングであり、非常に貴重な節目だと感じました。

大きな変化が起きるときには、象徴的な出来事があるものです。新しい時代の幕開けとともに、令和の新しい働き方や人生のあり方を再定義したいと考えました。

当時26歳でしたが、自分のキャリアや人生そのものを問い直し、起業を決意しました。

── なぜ「複業」を選んだのですか?

大林 新卒で入社したパソナグループでの経験が大きく影響しています。2015年当時は、まだフリーランスという働き方すらも珍しい時代でした。その中で、正社員以外の業務委託人材を紹介する新規事業に携わりました。

そこで大きな価値観の変化がありました。例えばエンジニアを正社員で採用できない企業が、週3日の業務委託人材によって救われる、ハイスキルなマーケターを正社員で採用できない企業が週1日の業務委託人材によって変わる、そんな場面を多く見たからです。

フルタイムの雇用だけが求められる時代は終わる。20代前半でそのような感覚を持つことができました。これが複業というテーマにたどり着いた原体験です。

── 人材紹介という既存のモデルではなく、プラットフォームを選んだ理由は。

大林 人材紹介はどうしても一人あたりの紹介手数料が高額になる世界観です。これでは、どうしても資本力のある会社にばかり人が集まってしまいます。

しかし、人手不足に悩んでいるのは大手企業だけではありません。

インターネットの力を活用すれば、人材の流動化をさらに加速できると考えました。資本力の有無にかかわらず、多くの企業と個人の出会いを最大化したいという思いがあります。そのため、最初から複業・業務委託にITを掛け合わせたプラットフォームビジネスを構想しました。

2019年の創業から現在まで、一度もピボットせずに「複業クラウド」を運営しています。この一貫した姿勢が、現在の実績につながっています。

Netflixに学んだ月額定額モデルへの挑戦

── 人材業界では成功報酬型が一般的ですが、なぜ月額定額制というモデルを採用したのでしょうか。

大林 実は創業当時は、まったく受け入れられないビジネスモデルでした。手数料ビジネスの方が利益を出しやすいため、周囲の99%からは反対されたことを覚えています。

しかし、既存のモデルを続けていては世界観を変えることはできません。

業界を改革するには、真逆のことをやるしかないと考えました。そのときに着想を得たのが、私が大好きな「Netflix」というサービスです。レンタルビデオの返却期限を気にしていた時代から、月額制で見放題の世界を作った革命です。

この仕組みを人材ビジネス、特に業務委託の領域にアジャストしようと考えました。当時25歳で社会を深く知らなかった分、恐れずにスタートできたことが幸いしました。共同創業者のCTOも20代前半であり、二人で迷いなく突き進みました。

── 月額定額制にすることで、具体的にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

大林 採用コストの構造を根本から変えることができます。人材紹介の場合、営業担当者はどうしても予算の大きな企業を優先しがちです。手数料100%の案件と35%の案件があれば、効率を考えて前者を選ぶのは自然な流れです。

しかし、その都合によって個人や企業の挑戦機会が失われるべきではありません。

月額定額制であれば、企業はコストを気にせず何度でもスカウトを送ることができます。現在は10万人以上の登録タレントがおり、企業は自らデータベースにアクセス可能です。

気になる人材がいれば直接アプローチし、面談を経て契約を結ぶことができます。本来なら高額にかかる紹介手数料が、月額料金内で完結する点が最大のバリューです。この透明性の高いモデルが、多くの企業に支持されています。

大手企業の課題を解決する伴走型支援「プロウィズ」

── 「複業クラウド」とは別に、プロ人材と共にチームアップし経営課題に伴走する「プロウィズ」というサービスも展開していますね。

大林 「プロウィズ」は、より深く企業の課題解決に踏み込むサービスです。大手企業の場合、フリーランスと直接契約を結ぶ際にセキュリティや損害賠償の懸念が生じます。日本の商習慣では、個人のケイパビリティ(能力・強み)を評価しても契約が難しいケースが多々あります。

そこで私たちが間に入り、プロジェクト管理を行うPM(プロジェクトマネージャー)を務めます。私たちが責任を持ってプロジェクトを完結させる仕組みが「プロウィズ」です。プロの知見を活用し、クライアントの課題を確実に解決します。

── 具体的にはどのようなチームを編成するのですか。

大林 課題に合わせたプロフェッショナルチームを構築します。

たとえば、ヘルスケア領域で新規事業を立ち上げたいとします。その場合、まずは業界に明るいヘルスケア領域に強い専門家をアサインします。さらにLP制作のプロや、PoC(概念実証)に長けた人材を組み合わせ、課題解決に伴走できるプロフェッショナルチームを構築するのです。

一対一のマッチングではなく、複数の専門家によるチームで伴走できるのが特徴です。ヒアリングから要件定義まで、私たちが伴走するため課題を爆速で解決するための最適な布陣を整えます。

── このサービスも、顧客の要望から生まれたものなのですか。

大林 おっしゃるとおりです。「複業クラウド」を運営する中で、自らスカウトする時間がないという声を多く聞きました。課題を言語化し、求人票に落とし込む作業すら難しいという切実な悩みです。

「すべてをAnother worksに任せたい」というニーズに応える形で誕生しました。

プラットフォームと伴走型支援、この二つの柱によって幅広い企業の課題に対応しています。顧客の声に真摯に向き合うことで、サービスの幅を広げてきました。

250以上の自治体へ。地道なヒアリングで築いた信頼

── 民間企業だけでなく、250以上の自治体にも導入されている点は驚きです。

大林 自治体領域の開拓は、相当地道に足で稼いできました。行政は前例主義で保守的だと思われがちですが、自力で変えられるという自信がありました。

創業初期、最初の1,000人の登録者は私とCTOがイベントを回り、自らの手で集めた人々です。

自分たちの足と頭を使えば、世の中を1ミリでも変えられるという感覚を持っていました。自治体というお堅い組織であっても、誠実に向き合えば道は開けます。その確信を持って、一つひとつの自治体にアプローチしました。

── 自治体への展開を決めたタイミングに、何かきっかけはあったのでしょうか。

大林 新型コロナウイルスの流行が大きな転換点となりました。コロナ禍によって、これまでの行政サービスの定義が大きく変わると直感しました。前例のない事態に直面し、職員の方々だけでは解決できない課題が噴出すると考えたのです。

民間の知見を持つ複業人材が行政に関わる市場が、必ず生まれると確信しました。2020年8月から本格的にスタートし、約6年をかけて累計250自治体まで拡大し、行政が民間から複業人材を採用するという、新しい文化をつくれたと思います。

── 行政特有の予算サイクルや稟議の壁は、どのように乗り越えたのですか。

大林 ひたすら謙虚になり、現場の職員の方々にヒアリングを重ねました。行政の仕組みや作法を徹底的に理解することに努めました。営業の手順を熟知しているからこそ、ベンチャー企業であっても信頼を得られたのです。

大手企業だから行政案件を取れるというわけではありません。現場の課題を深く理解し、適切な手順で提案できるかどうかが勝負です。このギャップを埋めることが、私たちの勝ち筋となりました。

行政のDXとマーケティングを加速させる複業人材の力

── 実際に自治体では、どのような領域で複業人材が成果を上げているのでしょうか。

大林 直近でもっとも顕著なのはDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域です。

たとえば、給付金の申請に関する問い合わせ対応などは、典型的な課題です。電話で同じ説明を繰り返すのは非効率であり、職員の負担も大きくなります。

そこで、LINEを活用した申請フォームの設計ができる人材を複業で採用します。住民がスマートフォンでポチポチと操作するだけで申請が完了する仕組みです。こうした設計や業者選定ができるプロの存在は、行政にとって非常に貴重です。

── マーケティングの視点も、自治体は必要としているようですね。

大林 ふるさと納税の事例がわかりやすいでしょう。同じ返礼品であっても、写真の撮り方やキャッチコピー一つで納税額は大きく変わります。

しかし、職員の方々がマーケティングの専門知識を持っているケースは稀です。

そこに、元楽天や元サイバーエージェントといったプロ人材が複業で入ります。民間視点での訴求を行うことで、納税額が何倍にも跳ね上がることもあります。行政には、解決すべき課題が無限に眠っています。

── 複業人材の活用が、社会的な貢献に直結しているのですね。

大林 間違いなく大きな貢献ができていると自負しています。「行政の仕事は公務員もしくは大手企業の支援でしか前に進まない」というイメージを払拭できたことは大きな成果です。素直に現場の声を聞き、一つひとつ課題を解決してきた結果です。

こうした成功事例を積み上げることで、自治体側の意識も確実に変わってきました。複業人材が行政のパートナーとして当たり前に存在する。そのような未来が、すぐそこまで来ていると感じます。

日本社会の「人的資本OS」として目指す未来

── 今後の展望ついて教えてください。

大林 現状の実績には1ミリも満足していません。

企業や自治体が何かに挑戦したいとき、常にそばにいる「OS」のような存在になりたいです。スマホのOSのように、あらゆる活動の基盤となることを目指しています。

結局、物事を動かすのは「人」です。課題を正しく認識し、解決までのロードマップを描ける人材を日本で一番抱える会社にします。

── 地方企業への展開も、重要なテーマになりそうですね。

大林 首都圏以外の地方には、挑戦したいけれど人材が足りない企業がたくさんあります。そうした場所に、私たちのプラットフォームを通じてプロ人材を届けます。

現在、自治体のシェアは約15%に過ぎません。日本には1,788の自治体があり、まだまだ開拓の余地は広大です。すべての自治体において、複業人材の活用を当たり前にしていきます。

── 現在、最大の課題は何ですか?

大林 日本に根強く残る「自前主義」の文化をアップデートすることです。

人的資本経営の考え方を、社会全体でバージョンアップさせる必要があります。人を「コスト」ではなく「資本」として捉える価値観を浸透させなければなりません。

雇用形態に関係なく、正社員も業務委託もすべては貴重な資本です。この常識を作り上げるまでのロードマップを、いかに早く描き実行するかが鍵です。社会的な価値観との向き合い方は、私たちが乗り越えるべき大きな壁です。

── 10年後、20年後の日本社会において、どのような役割を果たしたいですか。

大林 人口減少が進む日本において、商売を支えるのはどこまでいっても「人」です。AIが発達しても、課題を解決し、復興や成長を牽引するのは人の力です。能登の震災時、私たちは即座に複業人材による復興支援のモデルを作りました。

何が起きても人を救い、課題を解決できるインフラになりたい。私はこれを「人的資本OS」や「自治体OS」と呼んでいます。地道な啓蒙活動と営業活動を続け、その過程として上場を実現します。