株式会社NEXT ONEの代表取締役社長である斉藤徹氏は24歳で起業し、新電力事業などの生活インフラ領域を中心に会社を成長させてきた。
順調な拡大のさなか、電力市場高騰により1ヵ月で最大8億5000万円の巨額損失、さらに債務超過という絶体絶命の危機に直面するも、社員との強固な絆と「先義後利」の精神で短期間のうちに再建。2024年からは人生の後半戦として社会への恩返しを掲げ、生産性を生み出すスマート農園型の障害者雇用支援事業「めぐるファーム」に注力している。
巨額損失を乗り越えた経緯や独自の経営哲学、社会課題解決に懸ける想いについて聞いた。
企業サイト:https://nx1.co.jp/
目次
社名はチャップリンの名言から
── 外資系企業で支店長を務めた後、24歳で起業しました。安定したキャリアを捨てて独立を決断した背景には、どのような想いがあったのでしょうか?
斉藤氏(以下、敬称略) 私自身の経験として思うのが、努力の仕方がきわめて重要だということです。努力の方向性を間違えると、どれほど時間を費やしても成長にはつながりません。たとえば、水泳でも我流で練習するのとプロのコーチに習うのでは、上達のスピードに圧倒的な差が生じます。
仕事やマネジメントも同様です。私は前職で、正しい努力の仕方を習得したことで、短期間で自分自身の能力を高められました。この経験を通じて、人生はこれほど劇的に変わるのだと自覚したことが、起業の大きなきっかけです。
自分と同じように、他の人たちの人生も変えるきっかけをつくりたい。方法を知らずに人生を終えてしまうのではなく、成長の機会を提供できる会社をつくる。そう決意して、24歳のときに札幌でスピンアウトし、株式会社NEXT ONEを創業しました。
── 通信会社時代にトップセールスを記録したそうですね。もともと営業が得意だったのでしょうか?
斉藤 元々営業が特別得意だったわけではありません。ただ、成果には再現性があることを前職で学びました。
正しい考え方、正しい努力、そして挑戦できる環境があれば、人は大きく変われる。その経験が『社員の成長を通じて社会に価値を提供する』という現在の経営思想につながっています。
── 社名の「NEXT ONE」には、どのような意味が込められているのでしょうか?
斉藤 チャールズ・チャップリンの言葉に由来します。
記者から「あなたの最高傑作は何ですか?」と問われた際、彼は「Next One(次作だ)」と答えました。現状に満足せず、常に高みを目指し続ける経営者でありたいという決意を込めています。
巨額損失の発生から会社を再構築した経緯
── 順調に事業を拡大していたところ、巨額の損失が発生する経験をしたそうですが、何が起きたのでしょうか?
斉藤 2019年から電力事業を開始しました。当時は自社で営業組織を持ち、販売力には絶対の自信がありました。
しかし、電力ビジネスは仕入れの構造がきわめて複雑です。卸売市場の価格変動や、発電事業者との相対契約など、緻密な仕入れ戦略が必要でした。当時の私たちは営業力という強みに頼りすぎていました。企業が次のステージに進むには、強みを伸ばすだけではなく、リスク管理・仕組み・ガバナンスを同時に進化させなければならない。そのことを痛感した出来事でした。創業から14年ほど経過したころのできごとです。
一時は3億5000万円の債務超過に陥り、銀行からの融資も困難な状況となりました。毎日、口座から3000万円が消えていく光景は、経営者として筆舌に尽くしがたい苦しみでした。しかし、この危機を11ヵ月で脱出しています。
── 債務超過という厳しい状況で、社員の反応はどうでしたか?
斉藤 驚くべきことに、債務超過という厳しい状況の中でも、多くの社員が会社に残り、再建に向けて力を尽くしてくれました。むしろ、会社が潰れるかもしれないと危惧した社員たちが、泣きながら私に掛け合ってくれました。「会社を潰したくない。自分たちにできることがあれば何でもいってほしい」と。
彼らの言葉に、私自身が大きな勇気をもらいました。最も身近な存在である社員から見捨てられないという経験は、私の経営観に大きな影響を与えました。会社とは単なる事業モデルや数字だけではなく、同じ価値観を共有し、困難な時にも同じ方向を向く人の集合体なのだと学びました。
── 危機を乗り越えるために、どのような判断を下したのでしょうか?
斉藤 電力の仕入れを100パーセント固定価格に切り替え、リスクを最小限に抑えました。同時に、電力の営業担当者を元の通信事業へ配置転換し、収益の柱を再構築もしています。追加の資金調達も行い、全社一丸となって債務超過の解消に奔走しました。
「先義後利」の実践で会社を繁栄させる
── 社員がそこまで一丸となれる理由は、どこにあるのでしょうか?
斉藤 経営理念に「社員の成長」を掲げていることが大きいと考えています。私は、表面的な優しさは本当の優しさではないと定義しています。本質的な優しさとは、社員を成長させることです。
知らないことで選択を誤り成長が阻害されることこそが、最も酷で厳しい結果を招きます。したがって、私は社員に対して、あえて厳しい指導を行うこともあります。それは、彼らが社会で自立し、自らの力で人生を切り拓けるようになってほしいと願うからです。
── 厳しい指導と信頼関係の両立は、どのように実現しているのでしょうか?
斉藤 当たり前のことを当たり前に徹底することです。予習や復習、事前準備を怠らないといった、子どものころに習った基本を突き詰めます。相手と向き合う誠実さは、こうした細部へのこだわりに宿るからです。
また、私は「クライアントファースト」を最優先にしています。社員を成長させるためには、まずお客様を大事にしなければなりません。お客様から対価をいただくことの重みを知ることで、プロとしての自覚と成長が芽生えます。
── 「先義後利(せんぎこうり)」という言葉も大切にされているそうですね。
斉藤 先に義を貫く者は、後から栄えるという意味です。利益を追う前に、まずなすべきことをなす。この順番を間違えないことが、持続可能な経営には不可欠です。社員にもこの価値観を共有し、誠実な仕事を求めています。
障害者雇用を「数合わせ」から「価値」へ昇華させる
── 2024年から開始した「めぐるファーム」について、始めた背景を教えてください。
斉藤 40歳という節目を迎え、人生の後半戦は社会に恩返しをしたいと考えるようになりました。日本の社会課題を俯瞰したとき、労働人口の減少、地方の過疎化、食料自給率の問題が浮き彫りになります。一方で、障害者手帳を持つ方は約1000万人おり、その多くが就労の機会を得られていません。
現在の障害者雇用においては、法定雇用率への対応に加え、働く方が安心して継続できる環境づくりや、一人ひとりの成長につながる仕事の設計が重要だと考えています。私は、障害のある方が自分の仕事に意義を感じ、企業にとっても継続可能な形で雇用を支えられる仕組みをつくりたいと考え、農園型の障害者雇用支援事業を立ち上げました。
── 「めぐるファーム」の特徴はどのような点にありますか?
斉藤 単なる雇用の場の提供ではなく、きちんと利益を出し価値を循環させる仕組みです。障害者の方々が農作物をつくり、それを社会に流通させます。自分たちがつくったものが誰かを笑顔にするという実感が、彼らの生きがいや成長につながります。
農園では、LEDを活用したハウス栽培など新たなテクノロジーを導入し生産性を高めました。働く方々は自分の区画を宝物のように大切にし、創意工夫を凝らして栽培に取り組んでいます。「母の日にカーネーションを贈りたい」といった個々の目標が、働く意欲の源泉となっています。
── 千葉大学との共同研究も進めているとうかがいました。
斉藤 四季を通じて収穫可能な「四季なりイチゴ」の苗を共同開発しています。これには数千万円規模の先行投資を行っています。障害者の方でも安定してつくれる農作物を開発することは、私たちの重要な役割です。一人ひとりが安心して働き、力を発揮できる土台を、企業として責任を持って構築します。
父の死で意識した「今日という一日を全力で生き抜く」こと
── これからの10年、20年で、どのような役割を果たしたいと考えていますか?
斉藤 電力などのインフラ事業も障害者雇用支援も、共通点は「社会を支える」ことです。今後も社会に必要とされる事業を創造し、その規模を拡大します。特に障害者の方々が社会参加できる仕組みを構築することは、喫緊の課題です。
企業として利益を出しながら、同時に社会課題を解決する。この両立を高い次元で実現する企業を目指します。当たり前のことが当たり前にできる社会の実現に向けて、投資と挑戦を継続します。
── 斉藤社長が経営、仕事の中で大切にしていることは何でしょうか?
斉藤 私は一昨年に父を亡くし、死生観を強く意識するようになりました。人間には必ず終わりが来ます。だからこそ、今日という一日を全力で生きることが、亡くなった方々への供養にもなると考えています。
「君がなんとなく生きた今日は、昨日死んでいった人たちがどうしても生きたかった大切な明日だ」。私の部屋に飾ってあるこの言葉を、常に胸に刻んでいます。自分のコップが満たされたなら、その溢れ出た水を社会のためにどう使うか。
お金や時間の使い道について、利他の精神を持つことが、人生の豊かさにつながると信じています。NEXT ONEという社名の通り、私たちは常に『次』を創り続ける会社でありたい。生活インフラ、障害者雇用支援、そしてこれから生まれる新しい社会課題に向き合い、100年後にも必要とされる企業を目指して挑戦を続けます。
- 氏名
- 斉藤徹(さいとう とおる)
- 社名
- 株式会社NEXT ONE
- 役職
- 代表取締役社長

