本記事は、大神 千穂氏の著書『小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか
(画像=健_板澤/stock.adobe.com)

厳しくても優しくてもダメ…… 人材育成はどんどん難しくなっている

社員との接し方がわからない

「人が育たない」リーダーの特徴は、実は昔からよく指摘されてきたものです。それでも昔のほうがまだ結果として人が育っていたと思います。良くも悪くも、社員はどんな環境下であれ「そこでやるしかない」面があったからです。
仕事のスキルや考え方は、続けていたら自然と身に付いていたり、さまざまな経験が折り重なった末に「そういうことか」と腹落ちしたりすることがたくさんあります。
しかし近年は、我慢して続けるより、自分に合った環境を選び、柔軟に変えていくことが重要になっています。
「5年も続けていればわかるよ」といったような、確証のない話は若い人材にとっては不安です。「そのうちわかる」というのは実感があるから言えることであって、若い人が他人にそう言われてもリアリティがありません。
ならば「3年でわかりそう」な環境へ移ろうとするのが、今の時代は普通です。
しかも、売り手市場である今、若手が新しい環境に移るのはそれほど難しいことではありません。

つまり人が育ちにくい原因には、時代の変化も影響しているということです。
時代の変化という意味で、ハラスメントも近年の部下を持つリーダーに共通する悩みのひとつでしょう。人が育たないという社長の中には、そもそも「社員にどう接したらいいのかわからない」と嘆く人も少なくありません。
人の入れ替えが簡単ではない小さな会社にとっては、ハラスメントと抗議されて辞められることが、ものすごく大きなダメージです。
ひとたび“ハラスメント社長”“ブラック企業”などという悪い評判が出回ると、入社を希望する人もどんどんいなくなってしまいます。

社員に注意したり、指導したりすることに対しては、ナイーブにならざるを得ません。ハラスメントに厳密な線引きはなく、相手の受け取り方次第では、どんな言動もたちまちハラスメントになるリスクがあるからです。それだけでなく、知らぬ間にメンタルを病んでしまう怖さもあります。
とはいえ、社員の顔色をうかがいながら、おそるおそる気をつかってまで話をするのは、正直にいって面倒だと感じられてもおかしくありません。ならば、できるだけコミュニケーションをとらない、という選択をする人もいるでしょう。

「ゆるブラック」と「静かな退職」

さらに追い打ちをかけてくるのが、「ゆるブラック」問題です。
社員や部下に配慮しすぎると、「何も教えてくれない」「成長できるとは思えない」など、「ホワイトすぎる」ことを理由にやはり若い人が辞めてしまいます。最近は、そうした職場はホワイトでもブラックでもない「パープル企業」といわれることもあるようです。

若い人たちは会社に人生を預けるのではなく、自分の力で、自律的にキャリアを築いていかねばならない危機感を秘めています。ただし「成長」といってもその中身はまだ漠然としていて、はっきりとした欲求があるわけではありません。
そんな中で、会社で難易度の低いルーチンワークばかりやっていたり、あまりにも負荷が低かったりすると、なんとなく成長できない恐怖に襲われます。
また、SNSでは同世代の活躍がことさら誇張して語られたりもしますから、それと自分を比較して焦りも感じるでしょう。そして売り手市場の今、転職は割とカジュアルな選択肢なのです。

厳しくすればハラスメントといわれ、配慮すればぬるいといわれる。
もちろん若い世代の全員がそうであるわけがないのですが、時代背景から考えれば、このややこしさも理解できなくはありません。それだけに、人材育成は難しくなるばかりです。

付け加えるなら、「静かな退職」を選ぶ人の存在も、マネジメントを困難にしています。
こちらは先ほどとうって変わって、会社の仕事に自己成長や自己実現を望んでいない人たちです。人生の軸をその職場以外に定めているので、命じられた仕事をこなして、それに見合った給料をもらえれば、それで十分だという価値観を持っています。
積極的に「静かな退職」を選ぶ人もいれば、会社での頑張りが正当に評価されないために自己防衛的に選ぶ人もいます。いずれにせよ、仕事をきちんとこなしているならば、「静かな退職はいけないことだ」と第三者が否定する道理はありません。生き方の問題です。

このような多様な価値観があると理解すればするほど、誰に、どのように接するべきか、上司の悩みは深まります。

デジタル資産とWeb3
大神 千穂(おおがみ・ちほ)
株式会社ワンストップHOP取締役。一般社団法人成長企業研究会理事。一般社団法人相続診断協会相続診断士アンバサダー。相続診断士。
静岡県出身。東北福祉大学社会福祉学部福祉心理学科を卒業後、高校教員、一般企業勤務を経て独立。2010年よりこども教育事業、2015年より人材育成事業に携わる。
2018年1月より、HOPグループにて組織変革を担当。2020年には同グループにて成長企業診断®サービスをリリースし、組織開発コンサルティング部門を設立。同年、一般社団法人成長企業研究会の理事に就任。現在はHOPグループ取締役として、人が入れ替わる現実を受け止めつつも、一人ひとりの可能性を引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化する経営の仕組みづくりを支援。採用・人材育成・事業承継といった中小企業の経営課題に伴走している。
2023年、『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』(小川実著、アスコム刊)の企画・監修。
趣味はピラティスとゴルフ。2匹の愛犬(ミニチュアダックス)とともに暮らす。

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小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか
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