本記事は、大神 千穂氏の著書『小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

会社を「人が育つ環境」に変える

人事考課制度は人を育てる仕組み

レバレッジ経営には人を育ててチームの力で成果を出せる「2人材」が不可欠だと述べました。
しかし小さな会社の現場は、「2人材」になりにくい環境になりがちです。
まず、個人で成果を出した社員がリーダー職になるものの、依然としてトッププレイヤーとして成果を追わねばならず、部下の不足分を自分の奮闘で補っているケースが多々あります。
部下の育成に関しては、考え方も手段も属人的になってしまい、部下が育つかどうかは相性次第ということが珍しくありません。
社長は上司と部下の関係性や、上司の指導方法に改善点を見出そうとしますが、そもそも会社における「人が育つ」とはどういうことかが共有されていないため、どこまでいっても上司の育成センスに左右されることになります。

ところが、トッププレイヤーのもとで人が育つとは限らないことは、あなたにも思い当たるところがあるかもしれません。
結局、成果を出すことと人材育成の両方を一手に担うのは難しく、「忙しくて十分に面倒を見られなかった」とか「教えたのに伸びなかった」というような、あいまいな結論を繰り返してしまいます。

こうした構造的な問題を解決するのが、評価制度です。
評価制度というと、公平・公正な査定がいちばんの目的のように思われるかもしれません。もちろん、それも重要な役割ですが、私は人が育つことを第一に考えています。
評価制度は、評価項目を設定し、その評価を数値化し、給与や賞与、昇格などに反映する人を育てる仕組みです。社員は「どれだけ頑張れば、どれだけの報酬が得られるのか」目標が明確になるため、成長につながるといわれます。
この人材育成の機能により強くフォーカスした評価制度が、成長考課制度です。

管理職の罰ゲーム化を防ぐ

近年は「罰ゲーム」といわれるくらい、管理職になりたくない人が増えています。
2023年に日本能率協会マネジメントセンターが実施したアンケート調査では、約1,100人の一般社員のうち77.3%の人が「管理職になりたくない」と回答しています。
中間管理職が大変なのは昔からです。会社と部下の板挟みにあうとか、プレイングマネージャーとしての忙しさは、昭和・平成の管理職も味わってきたはずです。ではなぜ、今よりいっそう嫌がられるようになってしまったのでしょうか。

理由はさまざまだと思いますが、あえて一言でいうなら「コスパの悪さ」が目立ちすぎなのではないでしょうか。
先のアンケートでは、「管理職になりたい」人も当然いるのですが、その理由の多くは「報酬のため」でした。管理職は大変だけど給料も高い。そうあるべきですし、昔はそうでした。
ここで問題なのは、コストがパフォーマンスに見合わない点です。たしかに管理職になれば給料は上がるかもしれませんが、給料の増加分よりも、仕事量やストレスの増加分のほうがずっと大きいと思われているのです。

お金を稼ぐのなら、転職の他、副業や投資という手段があるので出世にこだわる必要はありません。
労力と収入のバランスを考えて、管理職がそれに見合わないと思えば、引き続きプレイヤーの道を選びます。そのほうが会社に役立っている「自己効力感」もわかりやすく得られるでしょう。

また、社員にとっての報酬はお金だけではありません。自分の市場価値がどう上がるのか、この先どういうキャリアを積んでいけるのかといった、自己成長の期待がなければ管理職になりたいとは思えません。

こうした社員側の不安感、不満感を軽減するのが評価制度です。報酬もキャリアもやるべき仕事も明確になっていれば、少なくとも交渉にはなります。

評価制度のない小さな会社でありがちなのは、ある程度長く在籍してくれている社員や、プレイヤーとして成果を出した社員を、「そろそろどうかな」という社長の感覚で管理職へ登用することです。
「来期からリーダーとして引っ張っていってもらいたい。課長職になってもらって、基本給は月額5万円アップだ。あなたのやり方でチームを盛り上げてくれないか。期待している」
社長としては本音なのですが、言われた社員のほうは認められてうれしいものの、いまいち腑に落ちません。具体的に何を求められているのか、自分の働き方がどう変わるのか、キャリアにプラスになるのか。いろいろな疑問が浮かびます。
納得がいかなければ、「昇格してからだと辞めにくいから、今のうちに転職しようか」と考えてもおかしくありません。
社長は、より高いモチベーションで、自分で考えてマネジメントしてほしいと願っているのかもしれませんが、言葉があいまいだと残念ながら相手には届きません。意気に感じて奮闘してくれる社員がいるとしたら、それはとても幸運なことです。
社員にかける社長の熱い思いも、社員にはたくさんある選択肢のひとつに過ぎない。
少し寂しいですが、そのくらいに思って真剣に言葉を交わしたほうがよいでしょう。

評価制度は、ただの面倒な仕組みではありません。
管理職に何を期待しているのか、どんなビジネスパーソンになってほしいのか、それが本人にとってどれほどの価値があることなのか。あなたが胸に秘めたメッセージを伝えるものでもあるのです。

デジタル資産とWeb3
大神 千穂(おおがみ・ちほ)
株式会社ワンストップHOP取締役。一般社団法人成長企業研究会理事。一般社団法人相続診断協会相続診断士アンバサダー。相続診断士。
静岡県出身。東北福祉大学社会福祉学部福祉心理学科を卒業後、高校教員、一般企業勤務を経て独立。2010年よりこども教育事業、2015年より人材育成事業に携わる。
2018年1月より、HOPグループにて組織変革を担当。2020年には同グループにて成長企業診断®サービスをリリースし、組織開発コンサルティング部門を設立。同年、一般社団法人成長企業研究会の理事に就任。現在はHOPグループ取締役として、人が入れ替わる現実を受け止めつつも、一人ひとりの可能性を引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化する経営の仕組みづくりを支援。採用・人材育成・事業承継といった中小企業の経営課題に伴走している。
2023年、『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』(小川実著、アスコム刊)の企画・監修。
趣味はピラティスとゴルフ。2匹の愛犬(ミニチュアダックス)とともに暮らす。

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小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか
  1. 厳しくも優しくもできない、悩めるリーダーの人材育成
  2. 人件費を投資に変える、小さな会社の評価制度の作り方
  3. 査定だけで終わらせるな、社員を育てる評価制度の使い方
  4. なぜ社員は成長意欲を失う? 会社の向かう先が見えていないから
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