本記事は、大神 千穂氏の著書『小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか
(画像=Mongkol/stock.adobe.com)

どの仕事にどれだけの値段をつけられますか?
人の成長と事業成長を数字で結びつける

定食屋さんでフレンチのコース料理を出せば赤字になる

業務を言語化していくと、社長がプレイヤーを続けることが会社にとってマイナスになっていることにも気づきます。
先ほど仕事を細分化すると、キャリアが浅い社員でもできること、ベテラン社員だからできること、社長にしかできないことなどに分かれると話しました。それぞれの仕事に値付けをすると考えると、キャリアの浅い社員ができる仕事より、社長にしかできない仕事のほうが高い値段になります。人件費が高いのですから、当然です。
つまり、キャリアが浅い社員ができる仕事をベテラン社員や社長がやると、それだけ利益は薄くなるということです。
だからといって、ベテラン社員や社長がやっているからもっとお金をくださいとは、お客さまには言えません。
その状況で利益を増やすとしたら、働く時間を増やすしかありません。社長をはじめとする社員全員が若い頃なら頑張れるかもしれませんが、それでも限界があります。
そもそもそんな環境で働きたいとは誰も思わないでしょう。

人の成長とともに役割が変わっていく。これが、人の成長を会社の成長に結びつける正しい流れです。しかし、社内での業務ならスムーズに変われますが、社外対応となると簡単ではありません。
HOPグループで、ベテラン社員から若手社員にスイッチすることで実際に起こったのは、お客さまから「誰なの、彼? 前はここまでやってくれたのに」。お客さまに喜んでもらえなくなるどころか、クレームが入るようになったのです。
HOPグループのような無形サービスを提供する会社は要注意です。
HOPグループの税理士の顧問料は20年くらい前から5万円です。当時は平均3〜4万円の時代だったので、少し割高の価格設定でした。その代わり、きめ細かなサービスを提供することを売りにしていました。
ホスピタリティを売りにしていることもあって、お客さまに喜んでいただこうとすると、お客さまの要望にはできるだけ応えようとします。サービスが当初想定していた内容より広範囲になれば別料金が発生してしかるべきなのですが、価格は5万円のままでした。
これでは、お客さまとの付き合いが長くなるほど、実質的な利益は目減りします。
しかも、担当している社員の給与は高くなっているのですから、働けば働くほど利益は薄くなります。
同じ価格で社長やベテランか、それとも若手かと言われれば、お客さまはもちろん社長やベテランを選びます。これでは、定食屋さんでフレンチのコース料理を出しているようなものです。
社長やベテランが対応するなら、フレンチのコース料金をいただかなければ割に合いません。社長に限らず、ベテランの社員がお客さま対応をすればするほど、こうした状況が生まれやすくなります。

業務細分化でわかる、社長の「裏メニュー」

価格が据え置かれたままになってしまったのは、自分たちの商品(サービス)の定義を言語化していなかったからでした。
サービスを提供したら対価をいただく。これは、ビジネスとして当たり前です。しかし、提供しているサービスを、「これはいくら、これはいくら」とサービス内容ごとに細分化して言語化していないと、正しい値付けはできません。
ちなみに、それまで5万円という顧問料の中で対応していたコンサルタント業務は、今はコンサルタント部門で30万円〜という価格で提供しています。しかも、お客さまを担当しているのは、新しく入社してきた人たちです。
ベテラン社員が提供していたサービスは、それだけ価値のあるものだったのです。
どうしてお客さまの要望が税務相談の範疇を超えるのかというと、税理士は会社の数字を見ることができるので、経営相談をしやすいからです。中には、労務の相談までしてくる社長もいます。それはもはや社労士やコンサルタントの仕事です。
業務を言語化すると、税理士の資格がなければできない仕事と、なくてもできる仕事に分けられます。実は、税理士でなければ受けられない仕事は税金のことだけです。
税理士の使命は、適正な納税申告をすることだからです。
私たちの責任でもありますが、税理士事務所が業務の言語化をできていれば、今の状況はなかったと思います。物価の優等生といわれた卵の値段さえ高騰する時代に、数十年前から価格がほとんど変わらないのはおかしな話なのです。
あなたも、お客さまから「これもやってくれない、あれもやってくれない」と言われて、いただいている料金に含まれない仕事まで請け負っていませんか。業務を細分化すると、社長の「裏メニュー」まで明らかになります。小さな会社の社長ほど、ありがちな話です。

デジタル資産とWeb3
大神 千穂(おおがみ・ちほ)
株式会社ワンストップHOP取締役。一般社団法人成長企業研究会理事。一般社団法人相続診断協会相続診断士アンバサダー。相続診断士。
静岡県出身。東北福祉大学社会福祉学部福祉心理学科を卒業後、高校教員、一般企業勤務を経て独立。2010年よりこども教育事業、2015年より人材育成事業に携わる。
2018年1月より、HOPグループにて組織変革を担当。2020年には同グループにて成長企業診断®サービスをリリースし、組織開発コンサルティング部門を設立。同年、一般社団法人成長企業研究会の理事に就任。現在はHOPグループ取締役として、人が入れ替わる現実を受け止めつつも、一人ひとりの可能性を引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化する経営の仕組みづくりを支援。採用・人材育成・事業承継といった中小企業の経営課題に伴走している。
2023年、『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』(小川実著、アスコム刊)の企画・監修。
趣味はピラティスとゴルフ。2匹の愛犬(ミニチュアダックス)とともに暮らす。

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