高名な国際政治学者であった高坂正堯氏の名著「文明が衰亡するとき」(新潮選書)に、次のような警句がある。

「衰亡は、避けなくてはならないという気持ちをへたに持つと、かえって破局が早くやってくるというところがある。」

日本の財政再建も同じだと考えられる。目先の帳尻合わせに拘って、増税などを推し進めると、企業や消費者の意欲が削がれ、経済が低迷し、財政が目的に反してより悪化してしまうこともある。増税を推し進めるのなら、企業活動の強い活性化策(例えば、規制緩和、政策減税、法人税率引き下げなど)とカップリングでなければいけない。  高齢化への対処も同じだ。高齢化を過度に恐れてしまうと、緊縮財政を含めて過剰貯蓄に陥ってしまうことになる。高齢化の進行以上に、貯蓄が大幅に前倒されることは、短期的には強いデフレ圧力につながってしまう。

これまでも、このような前倒しの過剰貯蓄が、総需要の破壊による雇用・所得環境の悪化とともに、消費者心理も悪化させ、内需を更に縮小させ、デフレ圧力を更に強めてしまったと考えられる。

その恒常的なデフレ圧力が、企業の意欲を削ぎ、雇用・所得環境と家計のファンダメンタルズを更に悪化させ、家計貯蓄率の低下が更なる財政不安につながり、増税と社会保障負担の引き上げが更に家計のファンダメンタルズを悪化させ、総需要の低迷が企業の意欲を更に削ぐという、悪循環になっていたと言える。

企業の意欲が衰えると、イノベーションと資本ストックの積み上げが困難になるとともに、若年層がしっかりとした職を得ることができず、急なラーニングカーブを登れなくなり、高齢化に備えるためにもっとも重要な生産性の向上が困難にとなってしまう。そうなると、高齢化による「破局」(低成長と高インフレ、そして財政逼迫)が「早くやってくる」リスクが大きくなる。

アベノミクスの前の経済政策は、「衰亡は、避けなくてはならないという気持ちをへたに持つと、かえって破局が早くやってくるというところがある」という警句をそのまま突き進んでいた感があり、今でもその名残がまだ残っているように思われる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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