転換
(写真=Thinkstock/Getty Images)

経済財政運営と改革の基本方針2015(6月30日に閣議決定)では、これまでの名目GDP成長率=前提・プライマリーバランス黒字化(財政健全化)=主目標から、名目GDP成長率(デフレ完全脱却・経済再生)=主目標・プライマリーバランス黒字化=副次的目標へ、政策哲学は大きな転換をしたと考えられる。

「経済再生なくして財政健全化なし」の理念がそれをよく表している。

「今回の計画は、計画策定段階においてデフレ脱却が視野に入り、経済再生に向けた進展がみられる点、プライマリーバランス赤字の対GDP比半減が見込まれ点等で従来とは異なる」と、明確にこれまでとの相違が指摘されている。

これまでは2020年度のプライマリーバランス黒字化が主目標のようになっており、副次的な目標である名目GDP成長率が前提として置かれた。控えめな税収弾性値(名目GDPが1%上昇する時に、何倍の税収増加があるのか)を置き、2020年度のプライマリーバランス黒字化を達成するためには、大きな歳出削減や増税が必要であると試算し、歳出削減策と増税策が進められた。

歳出削減策と増税策を推し進めると、名目GDP成長率を押し下げ、前提条件が変わってしまうと論理の矛盾があった。しかし、歳出削減策と増税策による緊縮財政は、「安心効果」により名目GDP成長率をそれほど押し下げないという理論が補強し、その論理の矛盾を消していた。

将来の財政破綻がリスクとみられているため企業は金利高騰を恐れ投資をせず、家計も社会保障制度の不安があり消費をしていないと説明されてきた。歳出削減策と増税策で財政が安定化したと考えれば、企業は安心して投資をし、家計も安心して消費をするはずだというのが「安心効果」だ。

しかし、2014年4月の消費税率引き上げにより、家計の負担感が大きくなり、消費活動は押し下げられ、そのような「安心効果」はほとんどないことが確認された。

厚生労働省の2014年の国民生活基礎調査では、生活が苦しいと感じている世帯が62.4%となり、調査を始めた1986年以降最も高くなってしまっている。「安心効果」が否定されてしまうと、名目GDP成長率と低い税収弾性値を前提として、2020年度のプライマリーバランス黒字化を達成するのに必要な歳出削減策と増税策を実施するという政策哲学は現実的ではなくなってしまう。

よって、財政政策の哲学が、プライマリーバランス黒字化重視からデフレ完全脱却・経済再生重視には大きな転換をしたと考えられる。新たな哲学に基づいた計画で、財政緊縮が景気拡大の妨げとなるリスクが減じ、デフレ完全脱却・経済再生の可能性は高まったと考える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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