ソルベンシーII
(写真=PIXTA)


欧州年金基金の健全性、これまでの経緯~2011年頃から検討が始まる

欧州では、ソルベンシーⅡの発効を2016年1月に控え、各国・関係機関・保険会社で準備が進められているところである。そうした中で今回は、同じ欧州における「ソルベンシーⅡの年金基金版」とでも言うべき規制の動きを報告する。

ことの発端は2011年4月、EU委員会が、EIOPA(欧州保険年金監督機構)に対して、IORPs(Institutionsfor Occupational Retirement Provision:職域年金を表すEU独自の用語法。以降、年金基金と呼ぶことにする。)の健全性規制のための定量的影響度調査について諮問したところから始まる。EIOPAは、調査方法を提言し、それに基づく実際の調査が2012年10~12月にかけて行われた(*1)。

この調査は、各年金基金が様々な市場環境シナリオのもとで、「包括的バランスシート」(簡単にいうと、各年金基金の資産・負債を時価ベースで評価したもの)を作成し、その結果でてくる純資産を、別途リスク量を計算したところから出てくるSCR(ソルベンシー資本要件)やMCR(最低資本要件)と比較して、どれだけ余裕があるかを見るものである。

これはソルベンシーⅡと同じ考え方といってよいが、対象が年金基金であることから、保険会社とは異なり、例えばいざというときのスポンサー企業による資金援助や、各国における年金保証制度からの援助といったものをどう評価するかなど、別の難しい問題もでてくることになる。

2013年以降、各国毎に集計した調査結果が公表され、同時に、実際に作業を行なった年金基金の意見なども公表された。この時点での年金基金サイドからの意見は、・作業の負荷が相当重く、実施可能性が疑問視される。

・責任準備金の(時価)評価方法について、考え方には賛同するとしても、(非常に低い水準の)リスクフリーレートを使用した評価は、負債が大きくなって厳しすぎる評価である。

・そういった厳しい評価などがなされることになると、多くの基金はリスク負担の高いDB(確定給付年金)をやめてDC(確定拠出年金)に移行していくだろう。また、移行しないまでも、運用資産をリスクの高い株式から、安全な国債などにシフトすることになろうが、株式市場などにとって、本当にそれでいいのか。

などというものであった。(前回調査結果については、拙文保険年金フォーカス2013.5.28「欧州年金基金の健全性規制」(*2)もあわせてご覧頂きたい。)

包括的バランスシート

2014年10月に、年金基金のソルベンシー規制の発展についての市中協議文書(*3)が公表され、2015年1月までに、さらに意見募集を行なった。この間、保険会社に対するソルベンシーⅡ自体において、内容の変更やスケジュールの遅れがあり、2016年の導入がやっと決まったものの、細部取扱においては、まだ各国で混乱も続いているようでもある。

そもそも保険、年金などを問題にする以前に、欧州ではギリシャ危機などもあり、それどころではないという状況でもあったかもしれない。ソルベンシーⅡ同様の考え方を持ち込もうとする年金基金の健全性規制の検討も、当初のスケジュール通り運んでいるとも思われないが、やっとまた定量的調査などが動き出しているところである。