中国のふたつの二極化と日本企業

以上の経済指標を総括すると、中国ではふたつの二極化が同時進行しているといえるだろう。ひとつは"第2次産業の伸び鈍化"と"第3次産業の堅調(横ばい)"という二極化である。中国では経済のサービス化が進行中で、3年ほど前から第3次産業の成長率が第2次産業を上回るようになってきているが、今年7-9月期にはその傾向がより鮮明になった(図表-16)。

第2次産業は人件費の上昇や人民元高の進行で競争力が低下してきており、今後も伸びの鈍化は避けられそうにない。一方、第3次産業にはまだ成長余地が多く残っており、引き続き8%前後の高い伸びを維持している。中国政府の政策スタンスを見ても、第3次産業を第2次産業に代わる新たな雇用創出の柱に育てようとしている。

もうひとつは"投資の伸び鈍化"と"消費の堅調(横ばい)"という二極化である。これまで投資主導で経済成長を遂げてきた中国だが、消費主導への成長エンジンの切り替えに挑戦中である。GDP統計を見ると、昨年に続いて今年1-9月期も最終消費の寄与度が総資本形成を上回った(図表-17)。

月次統計を見ても、固定資産投資(除く農家の投資)の伸び鈍化に歯止めがかからない一方、個人消費の代表指標である小売売上高は上向いてきている。中国政府の政策スタンスを見ても、製造業の過剰設備・過剰債務・過剰雇用の解消を図るとともに、投資主導から消費主導へと構造転換しようと最低賃金の引き上げなどを進めている。

ふたつの二極化が同時に進行する中で、日本企業への影響も二極化してきている。中国で第2次産業の生産が落ち込んだことを受けて、鉱物資源の"爆買い"は影を潜め、工業部門で使うために輸入してきた化学素材や部品などの需要も減って、それらを輸出していた日本企業の業績にも影響がでてきた。

一方、消費の堅調を背景に、中国では食品・酒類や美容化粧スキンケア品などの輸入が急増、中国本土からの旅行者による"爆買い"も続いており、これらの輸出やインバウンド消費で恩恵を受ける日本企業が増えている。

このふたつの二極化は、その背景に経済の構造的な変化があることから、一過性のものではなく今後も長く続くことになるだろう。また、消費の中身自体も店頭販売からネット販売へのシフトが起きており、投資の中身も製造業(設備投資)や住宅建設から環境対応や地下開発へのシフトが起きている。

従って、今後の中国ビジネスを考える上では、経済成長率といった全体の動きだけを見るのではなく、経済構造の大きな潮流の変化に注目することが肝要と思われる。

中国経済14

(*1)中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、月次の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には"(推定)"と付して公表された数値と区別している。

三尾幸吉郎
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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