2016年は申(さる)年だ。株式相場の世界には、「辰巳天井、午尻下がり、未辛抱、申酉騒ぐ、戌は笑い、亥固まる、子は繁栄、丑はつまずき、寅千里を走り、卯は跳ねる」という格言がある。これによれば2020年の東京オリンピックイヤーは子(ね)で繁栄となる。ひょっとしたらこの格言は不動産市場にもあてはまるのかもしれない。そこで、今回は「申酉(さるとり)騒ぐ」の2016年の不動産市況について、その見通しを探ってみることにしたい。
2015年の不動産市況を振り返る
2015年を振り返ってみると、「未(ひつじ)辛抱」というほどの年ではなかったと思われる。J-REITも金利の上昇に反応し、一時期時価総額が下落し、今後の見通しについて不透明感が漂ったが、その後、順調に回復してきている。また心配された上海株の下落も、中国から日本への不動産投資に悪影響を及ぼすと予想されたが、今のところ、中国人投資家の動きが目立って落ち込んでいる様子はないようだ。
2015年10月には三井不動産レジデンシャルが販売した横浜のマンションの傾きが発覚し、大きな話題になった。旭化成建材以外にも業界全体への問題として波及が危ぶまれていたが、そこまでの影響は生じなかった。連日NHKの報道でかなり騒がれたが、今となっては、のど元を過ぎた感じになってきている。しかも2015年11月の高級マンションの販売価格は平均で6000万円を超え、1991年のバブル時代の価格を突破した。マンション市場において杭問題は、ほとんど影響を与えなかったと言えるのではないだろうか。
このように2015年は確かにバッドニュースもあったかもしれないが、総じて不動産市況は堅調であった。「未(ひつじ)辛抱」という感じでもなかっただろう。この勢いで行けば、申(さる)では、かなり騒ぐことになるのかもしれない。
2016年の不動産市況はバブルへ?
2016年も不動産市況が勢いづくと思われる理由としては、2014年あたりからキャピタルゲイン狙いの不動産投資が増え始めたことが挙げられる。投資家の舵がインカムゲイン狙いからキャピタルゲイン狙いへ徐々に切り替わっているのだ。
特に、アジアを中心とした海外投資家は、キャピタルゲイン狙いの投資が多い。都内の収益物件は、良い物件であればNOI(ネットオペレーティングインカム)利回りが2~3%台に突入しており、もはや金利が低いという理由だけでは説明のつかない価格帯に突入している。いわば、不動産がバブルと言って良い現象だ。
そもそもインカムゲインを目的とした不動産投資であれば、今は土地価格が上がる理由はない。オフィス賃料は回復基調にあるとはいえ、まだまだ都心の一部にしか見られない現象であり、全国の商業地の土地価格を押し上げる明確な要因になっているとは言い難い。
しかも建築費に関しては、業界における慢性的な人手不足もあり、高止まりしたままだ。そうすると、賃料はあまり高くなっていないのに、建築費が高くなっているのであれば、利回りから計算すれば、土地価格は落ちるはずである。少なくとも純収益を利回りで割った不動産価格を出す収益還元法の考え方では、土地代が上がる理屈はない。利回りを下げれば別であるが、この1年で投資家の期待利回りを押し下げるほど金利は下がっていないはずである。
不動産がバブル状態に入ると、このように収益還元法的な考え方が破たんする。市場参加者がインカムゲインではなく、値上がり益のキャピタルゲインを期待して不動産を購入する。そのため、賃料や利回り、建築費など、本来、収益物件に影響する価格形成要因の影響は弱くなっていくのだ。
実際、バブル時代には、不動産の鑑定評価において土地建物価格のコストから積み上げて価格を求める原価法による価格と、収益物件の利回りから価格を求める収益価格との間に大きな乖離があった。今もその傾向は強くなり、不動産価格が理屈では説明できない領域に入ってきている。
2016年の不動産価格は投資家マインドが左右する
理屈では説明できない世界に入ってくると、今度、重要になってくるのは投資家マインドだ。株と同じで上昇局面では、価格は投資家たちの集団心理に影響される。「まだ上がるだろう、もっと上がるだろう」という根拠の薄い投資家マインドによって、購入が増え、価格が上昇していく。2016年もかなりの人がまだ日本の不動産は上昇すると、考えている人は多い。
その理由を明確な理論で説明できる人はもはや少ないのではないだろうか。今、不動産市況を支えられているのは「東京オリンピックまでは日本の景気は明るいだろう」という、根拠の薄い集団心理である。
2016年の不動産市況を占ううえで、まだ低金利が続くからとか、円安も続くとか、あり得そうな理由を述べて、不動産価格の上昇を説明することは可能なのかもしれない。
しかしながら、2015年の時点で、既に理屈による説明は難しくなっている。2016年は申年なので、騒ぐだろうと言っても、そのまま当たってしまう可能性は高いのだ。投資家マインドに冷や水を差すようなことが起きなければ、2016年も「騒ぎ」は続くだろう。(ZUU online 編集部)
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