相続税,生命保険,非課税枠
(写真=PIXTA)

生命保険といえば死亡時の生活費、葬儀代や入院費などの万が一での経済補填の保障を思い浮かべるのが一般的である。しかし、意外と知られていないが生命保険は相続対策にも使えるのだ。そして生命保険の使い方を知っているか知らないかで相続にも大きく影響してくるのだ。自分自身が親になってみると子供に何をどのように残せるのかなど考えるようになるものだが、ここで気になってくるのは親からの相続だ。

果たして自分の親は自分に何を残してくれるのか、最近相続税の非課税枠も縮小されたがもしかしたら相続税がかかるのでは、など親の相続に関しては不明確なことが多い。そこでせめて親がきちんと生命保険を有効活用しているかどうか確認が必要になってくるのだ。

生命保険の非課税枠を活用しよう!

生命保険には相続時の非課税枠がある。生命保険の保険金を法定相続人が受け取った場合「500万円×法定相続人の人数」が非課税になる。

例えば、法定相続人が4人いた場合で相続財産が1億円の場合、相続税の基礎控除「3000万円+600万×4人」で5400万円を除いた分の4600万円に相続税がかかることになる。

しかし、1億円のうち生命保険の非課税枠(4人なので500万円×相続人の数=2000万円)分の保険に加入していた場合はどうだろう。相続の基礎控除5400万円に加えて2000万円が非課税になるため相続税の課税対象額が2600万円になるのだ。仮に各相続人の相続税の税率が10%だったとしよう。生命保険未加入の場合は、460万円の相続税の納付が必要になるが2000万円が保険金の生命保険に加入していた場合、相続税の納付額は260万円になり何と200万円もの差が生じるのだ。税率が高ければその差はより大きくなる。

相続対策で有効な生命保険の種類は?

上記のような生命保険の非課税枠を使う場合の保険は、「一時払い終身保険」に加入するのが一般的だ。上記の例でいうと、1億円のうち、預貯金2000万円で保険金2000万円の生命保険に加入するのだ。単純に預貯金から保険に移転する形だ。ただし解約する場合は2000万円より低い金額になってしまうので注意も必要だ。読者の中には、親は高齢で病気もしているので生命保険加入は難しいと心配する人もいるだろう。最近では相続対策用として健康告知不要のものや85歳を超える高齢者でも加入可能のものもある。

健康であれば普通に告知をする一般的な終身保険を検討するのも良い。もし、親が健康で家族に現金で2000万円を残そうとしていたら終身保険の加入を勧めてみよう。なぜなら2000万円の保険金を残すために、75歳の父親であれば1900万円程度の保険料で済むため差額は自分自身で使えるからだ。若い年齢での契約や外貨建ての終身保険であればさらに保険料と保険金額に開きがでるため使えるお金が増えることになる。終身保険の情報が思いがけない親へのプレゼントになるかもしれないのだ。

保険金の受取人指定でピンポイントに渡せるメリット

相続の際、預貯金は遺言書がなければ、「誰が」「どれだけ」相続するかを相続人で話し合う。つまり預貯金額はわかっていても誰がどれだけもらうかは決定されていないのである。しかし生命保険の場合は、保険金の受取人の指定ができるため誰にいくら相続させるかが事前に決定される。そして保険は「みなし相続財産」となるため、万が一保険金受取人になっている相続人が相続を放棄しても保険金だけは受け取れる。保険金は受取人固有の財産になるのだ。相続させたい人にピンポイントで渡せるのが保険金のメリットではある。

だが注意点もある。受取人を変えなくてはならないのにうっかり変え忘れていていたとしても受取人へ財産が渡ってしまうという点だ。また受取人が死亡してしまっている場合もややこしくなるのだ。受取人の確認は必ず必要だ。

また、相続税がかかる財産が土地などの不動産ばかりで支払う現金がない場合、親が月払いや年払いの終身保険に加入していてくれれば、保険金を相続税納付資金に使うことができる。土地や不動産の財産はもらったが、相続税や固定資産税が払えないのであってはかえって重荷になるだけであるため、その財産を維持するための資金も親には考えてほしいものだ。

相続税を削減するために相続財産を減らす手段として贈与がある。年間110万円までであればもらう人が贈与税を払わなくてもいいため、財産を親から子へ移転するためには有効だ。ただし、単純にお金をもらうだけではなく、もらった現金で親を被保険者に生命保険に加入すれば保険料以上の保険金が受け取れる場合もあるため生命保険契約を視野に入れるのも良いであろう。

親の相続対策に合った生命保険を

保険の相続評価についてだが、保険契約者が死亡した時点での解約返戻金になる。契約者が親、被保険者が子の保険の場合、親が亡くなった時点の解約返戻金がこれまで支払ってきた保険料より低ければそれが相続財産になるため、財産評価が下がり相続税の減税につながる。保険料支払い期間中は解約返戻金がほぼないが、支払が終われば支払保険料同等額が戻ってくる保険がある。

契約者が親、被保険者が子で契約した場合、保険料支払い期間中に親が死亡すれば解約返戻金がほとんどなく、相続財産評価もほぼゼロのため相続税額が下がる。その後、契約者を子に変更し、子が継続して保険料を支払い終わったら、親と自分が支払った保険料分を受け取るという仕組みだ。生命保険会社によって保険商品や契約ルールが様々なため、親の相続対策に合う保険を見つけるための情報入手をする努力は必要であるが、保険選びで相続税や贈与税に個人差がでるのは間違いない。

高額な保険金が相続の負担になることも

生命保険は相続対策で有効な面があるが、高額な保険金のものに加入していればかえって相続財産を増やす場合もなる。例えば、もともとの財産が1億円の時、月払いや年払いで5000万円の保険に加入しすぐに亡くなってしまえば、財産は1億5000万円になる。どんなに生命保険の非課税枠があっても逆に財産を増やしてしまい相続税も増えてしまうという結果になりかねない。財産とのバランスや保険以外の相続対策の兼ね合いも考えて保険加入を検討することが重要である。案外、資産家であっても生命保険での相続対策の有効活用に気づいていないことが多い。

現在親がどのような保険に加入しているのか確認してみること、そして相続対策の観点から親の生命保険の活用を検討してみることを始めてはいかがだろうか。相続が起こる前の対策が非常に重要だ。

廣木智代 ファイナンシャルプランナー(CFP)
結婚後、家業のスナックで手伝いをしていたが母の引退と共に廃業。家計の苦しさを埋めるための我が家の保険の見直しをきっかけに、お金に賢くなるお手伝いをするべくCFP資格を取得。心と体とお金の健康バランスを軸に、個別相談、セミナー、執筆を展開中。 FP Cafe 登録FP。