2017年1月に米国大統領に就任したトランプ大統領は、大統領になった際の経済対策として、大型減税や巨額インフラ投資、規制緩和などを打ち出している。それにより、米国経済が刺激され、しいては長期間停滞している世界の経済成長率が上昇するという楽観的なシナリオを抱いている市場関係者は多い。
このトランプ大統領の経済政策「トランポノミクス」は、米国第40代大統領ロナルド・レーガンの経済政策「レーガノミクス」と比較されることが多い。トランポノミクスが、米国経済や世界経済に与える影響について、レーガノミクスと比較しながら考えてみよう。
トランポノミクスとは何か
トランポノミクスとは、米国大統領のドナルド・トランプ氏とエコノミクス (経済学) をかけ合わせた造語だ。大規模なインフラ投資、法人税の引き下げ、所得税の引き下げ、相続税の廃止、金融規制改革法 (ドッド・フランク法) などを廃止する規制緩和が、主な柱となっている。
トランポノミクスは、拡張的な財政政策であることが特徴だ。所得格差が広がり、中低所得層の不満がくすぶっている米国では、このような政府主導の財政出動によって、経済成長率を上昇させ、現状への閉塞感を打破することが期待されている。
しかし一方で、歳入が減少する減税と、歳出が増加する投資を併せて実行することで、財政赤字の拡大が進むことが懸念されている。米財務省が発表した2016会計年度は約61兆円の財政赤字であった。これがさらに拡大するとなると、米国債への売り圧力が増し、想定以上の米国長期金利の上昇による経済混乱も起こりかねない。
トランポノミクスと比較されるレーガノミクスとは
レーガノミクスは、1980年代にレーガン大統領が行った経済政策だ。
景気低迷 (スタグネーション) と物価上昇 (インフレーション) が並存するスタグフレーション、そして生産性上昇率の鈍化に苦しむ米国経済の再建に取り組むことが、レーガン政権の最重要課題であった。レーガノミクスで行われた経済政策は、主に4つある。
・ 軍事力拡大のために国防費こそ増大したものの、その他の歳出についての大幅な削減
・ 個人所得税の減税
・ 自由化を促す規制緩和
・ 金融政策によるインフレ抑制
レーガノミクスについては、インフレを低下させ米国経済を再建したという評価がある一方、財政赤字・経常赤字という「双子の赤字」を生み、1987年の「ブラック・マンデー」を引き起こしたり、長期的なドル安の遠因になったりしたという評価もある。
インフレを抑えるためにFRBは政策金利を一時20%まで上げ、米国への資金流入によりドルは高騰、経常収支は急速に悪化した。ドル高に耐えきれなくなった米国はプラザ合意により、ドル安誘導にシフトすることになる。
実際に、1981年のレーガン大統領就任時に200円を超えていたドル円為替レートは、1989年の退任時には140円ほどとドル安円高に振れている。なお経済の体温計ともいえる株価 (NYダウ) は同期間、1,000ドル前後から2,000ドルを超える水準まで上昇している。
それぞれの共通点と違い
トランポノミクスとレーガノミクスの共通点は、減税による拡張的な財政政策と規制緩和によるサプライサイド (供給力の強化) の改革だ。停滞する需要を刺激し、市場を活性化させるという狙いは一致している。
一方でトランポノミクスでは、インフラ投資による全面的な歳出拡大を掲げているのに対し、レーガノミクスは国防費の支出を増大させたものの原則は歳出の削減をうたっていた。かいつまんで言えば、レーガン氏は「小さな政府」を目指し、トランプ氏は「大きな政府」を目指していると解釈できるかもしれない。
経済環境の違いがどう影響するか注目
トランプ氏が大統領選挙戦で掲げた「Make America Great Again」は、レーガン氏が掲げていたスローガンとほぼ同じで、「強いアメリカ」の威信を取り戻したというポジティブな印象から、大統領選後には急激なドル高と金利上昇、株価上昇が発生した。
ただし、経済状況と世界情勢は、レーガン政権時とは異なっている。レーガン政権時は高インフレ、高失業率、高金利であったが、現在のアメリカはその逆だ。こうした状況のなかで、トランポノミクスが財政赤字の拡大をどう乗り越え、経済成長を達成するのか、注視する必要がある。(提供: 大和ネクスト銀行 )
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