日本では、会社に長く滞在し働く長時間労働は「善」とされ、それが当たり前と見なされてきた。しかし、その働き方は世界の視点から見れば今や時代遅れともいえ、むしろ長時間労働が引き起こす弊害が注目されるようになっている。また、非正規雇用の増加などの問題は、賃金格差をもたらす要因ともなり、処遇についての格差問題として浮かび上がってきている。
こうした「働くこと」に対する問題に対して、政府も本腰となって改革を進めようとしている。一体、どんな改革が行われようとしているのだろうか。また、その働き方改革により経済に与える影響とはどのようなものが想定されるのか。働き方がもたらす経済的な影響について解説しよう。
3つの問題が働き方改革を促している
働き方改革が声高に叫ばれるようになった背景には、日本の雇用情勢がある。特に3つの問題を解決する目的があるともいえる。その3つとは、 (1) 長時間労働の是正、 (2) 働き手不足の解消、 (3) 生産性向上である。
1つ目の問題としてこれまで日本では、残業するのは当たり前の風土があり、長時間労働や仕事のストレスが自殺や過労死といった問題を生じさせてきた。長時間労働が当たり前になれば、ワーク・ライフ・バランスの実現が困難であるし、働くことに対する生きがいや楽しみは二の次となってしまう。長時間労働が女性の出産や子育ての両立を難しくしている側面もある。こうした状況を変えることで、働きやすい生きがいのある環境づくりを目指すことが求められている。
2つ目に、労働力人口の減少が働き手不足を引き起こす点を挙げることができる。すでに日本の人口は減少に転じてきており、労働力人口の減少は経済の活力を奪いかねない。そこで労働力人口を確保するために働き方改革が必要といえる。
3つ目に、労働生産性の低さを挙げることができる。公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2016年版」によれば、2015年の日本の労働生産性 (就業者1人当たりの名目付加価値) は74,315ドル (783万円) 。OECD加盟35ヵ国中22位となっており、米国121,187ドル (1,276万円) と比較するとなんと6割程度しかない。日本は先進7ヵ国中最下位となっている。長く働けば良いわけではなく、いかに時間当たりの生産性を上げるか、付加価値の高い働き方を行うかが課題となっているのだ。
生産性向上が投資にも貢献する
こうした3つの問題に対処するために、時間外労働の上限規制を設ける、副業や兼業など柔軟な働き方を広げる、高齢者の就業促進、病気の治療や子育て・介護と仕事の両立、賃金引き上げ、働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備などが検討されている。
こうした検討材料が一つ一つ決定されていくことで、今後の日本の働き方が大きく変わる可能性は十分あるといえ、働きやすい環境が整っていくことになるかもしれない。そして、1人当たりの労働生産性の向上にも寄与することだろう。
労働生産性が向上すれば、企業も恩恵を受けることになる。なぜならば、生産性向上により企業の利潤が増えることにつながるからである。また、利潤の増加に伴い、更なる成長のため、生産性向上のために設備投資に資金をかけることになるだろう。こうした流れが日本経済の活性化をもたらし、さらなる日本の成長に寄与するといった大局的見地も描けることになる。
労働生産性は家計にも恩恵を与えることになるだろう。長時間労働が是正され、賃金上昇も見込めることができれば、余裕時間ができることになる。また、同一労働同一賃金により非正規雇用の改善が見込めることができれば、格差是正にもつながる。
賃金上昇などの影響によりデフレ払拭にも寄与することになるだろう。デフレ脱却が鮮明になれば、資産価値の目減りを防ぐためにインフレに強いとされる株式や投資信託、外貨への投資が拡大することも想定される。いわゆる貯蓄から投資への動きが鮮明となってもおかしくはない。余裕時間ができればなおのこと、投資への流れが促進する可能性がある。
生産性向上は日本経済復活のカギとなる
働き方改革は、企業、家計ともに恩恵をもたらす経済復活のための特効薬である。日本経済へのプラスの影響はもちろんのこと、家計においてもワーク・ライフ・バランスの早期実現を可能とするだろう。今後の政府の動きに注目していこう。 (提供:大和ネクスト銀行)
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