相場の格言に「人の行く裏に道あり花の山」というものがある。人と同じことをやっていたのでは、成功は難しいという戒めだ。投資の世界においても、あふれる情報の中から「真実」と「嘘」を見分け、自分なりの相場観に基づいて正しい投資判断を下すべきなのだが、それは万人にとって「言うは易く行うは難し」だ。

そうしたなか、相場師として、大成功の天国も没落の地獄も見た「ウォール街のグレートベア」こと、ジェシー・リバモア (1877~1940) の鋭い観察眼や分析力に注目したい。大成功と大失敗の両方を知るリバモアは自戒を込めて「嘘を見破る方法」を書き残している。

己の弱さに勝つ投資道

伝説の相場師,リバモア,嘘,見破る
(写真=PIXTA)

リバモアは、世界大恐慌の引き金を引いた1929年10月24日の「暗黒の木曜日」に向けて空売りを行い、1億ドル (現在の日本の貨幣価値で約6,700億円) を超える利益をあげた伝説の投機家だ。その生涯で4回の破産と不死鳥のような再起を繰り返し、63歳で自ら命を絶った。その成功と失敗から得られた投資哲学は、自己を過信することを戒めていることに特徴がある。

リバモアは自己を律するなかで市場の法則性を発見し、投資のアルゴリズムを編み出していった生真面目な人物だといえる。彼の分析は、世の中の主流の言説に流されなかった。そこには、まず自分を疑ってかかる強い意志があった。彼の以下の格言は味わい深い。

「情報はすべて危険である。情報はあらゆる形態を装い、採用をもちかける。自分の知る世界に専念せよ。投機家の最大の敵は自分の中にいる。人間の本性として、人は希望と恐れとは無縁ではいられない。相場に勝つ必要はない、勝つべき相手は自分自身だ」

この箴言をリバモアが実践したのが、暗黒の木曜日に至る日々だ。彼は1920年代の株価高騰がバブルであることをすでに見抜いていたのだが、当時は株相場が下がる可能性など誰も想像していなかった。「投機王」と呼ばれたリバモアは、暗黒の木曜日の1ヵ月前の9月26日に英国が利上げを行った際に、「マネーは米国から英国に流失し、米株式は近いうちに下がる」と見抜いた。だが、熱狂する他の投資家にはそのシンプルな法則性が見えず、「これからも上がる」として買い続けた。

リバモアは、成功に酔いしれて買い増しを続ける世の中に逆らい、巨額の逆張りを敢行した。並大抵の勇気ではできない。その孤独な時に、彼は自分の中の「世の中に流されやすい自分」がつく嘘を信じず、勝負を挑んでいた。リバモアは、自己の内面の弱さに直面することで、市場の嘘を見抜いたといえる。

失敗から得られる冷静さ

リバモアは、こうも述べている。

「すべきではないことを学ぶには持てるもの一切を失うのが一番だ。失わないためには何をすべきでないかが分かった時、相場で勝つのに何をすべきかがようやくわかり始める」

大きな失敗を重ねたからこそ見えるものがある。それは自己の弱さだ。弱点を見つめれば、「一歩突き抜けた場所」に到達できる冷静さが身につく。規律や規則を持たない市場参加者との違いだ。業績や水準ではなく、値段の変化率に注目し、勢いがある銘柄を取引するモメンタムトレードを得意としたリバモアは、失敗から得られる冷静さ、動じない胆力を持っていたため、高いリスクを伴う取引で成功できた。莫大な儲けの裏には逆説的に、常に自己を疑う姿勢が存在する。

投資の極意は不変

世の中で言われていることは本当に真実なのか。半分は本当でも、半分は嘘かもしれない。リバモアは、そうした点を見抜くのがうまかった。彼は、こうも言い残している。

「自分自身の相場観と判断は、市場のアクションで確認できるまで信頼するな」

リバモアが大活躍したのは、細長い紙テープに企業名と株価などを高速で印字するティッカーテープを使用していた時代だった。当時から世界は激変し、今やコンピュータシステムが株価や出来高などに応じて、自動的に株式売買のタイミングや数量を決めて瞬時に注文を繰り返すアルゴリズム取引の時代である。

しかし、時代は変わっても投資で成功する秘訣は変わらない。世の中で言われている投資の教えをただ鵜呑みにせず、市場がどのように動いているのかを分析し、法則性を見つけられて初めてその教えが信頼できるものと判断できる。リバモアの教えは普遍的で、今日でも学ぶべき点は多いといえるだろう。(提供:大和ネクスト銀行

【関連記事 大和ネクスト銀行】
専門家も知っておきたい外貨準備高を読み解く方法
FEDとFRBって何が違うの?世界が注目する金融政策
何か起これば円高 ? 「有事の円買い」はなぜ起こる ?
「ドル建て日経平均」に着目すると違う景色が見えてくる ?
外貨預金をする際に気にしたい IMM通貨先物ポジションとは