世界的に長期にわたる景気拡大局面が続いている。しかし、そろそろ各地域で景気後退 (リセッション) 入りを示唆する声が出始めた。ここでは、その「リセッション」の定義や現象について述べてみたい。
景気はどうして良くなったり悪くなったりするのか
学校の授業でも習ったように、資本主義社会の経済活動は、景気循環と呼ばれる波動を描きながら推移している。簡単にいえば、景気はよくなったり悪くなったりを繰り返しているわけだ。
経済活動が活発化して景気の拡大が続き、それがピークに達した地点を「景気の山」と呼ぶ。その後、経済活動が低調となり、最も不景気になった地点が「景気の谷」。景気拡大期とは、「景気の谷」から「景気の山」へと向かう局面のことを指す。反対に、「景気の山」から「景気の谷」に向かう局面が景気後退期である。
そもそも、景気はどうしてこのような循環を繰り返すのだろうか。それは、人々の経済活動に周期的な動きが見られるからである。
周期的な動きの中でより長期の波動が、「コンドラチェフの波」と呼ばれる景気サイクルである。約 50年周期の景気循環で、旧ソ連の経済学者だったコンドラチェフが発見、提唱した。鉄道や工場などの建設需要がこのサイクルで増えたり減ったりを繰り返していることがその要因と言われる。約50年前の施設が老朽化して新たな建設需要が生まれることで、景気に循環が生じるということだ。米国の経済学者シュンペーターは、技術革新のサイクルがこの長期の景気循環をもたらすと説いている。
中期の景気波動として知られるのが、「ジュグラーの波」。こちらはフランスの経済学者ジュグラーが発見したもので、その周期は9~10年である。この循環は、やはり老朽化などに伴う設備投資需要の変動がもたらすと考えられている。
さらに短期の波動では、米国の経済学者キチンが発見した「キチンの波」がある。こちらは平均40ヵ月の短期的な景気循環で、企業の在庫調整に起因しているとされる。
欧米と日本では「景気後退」を判断する指標が違う
メインテーマの「景気後退 (リセッション) 」は「景気の山」を下り始めたところが起点となるわけだが、その判定はどうやって行っているのか。景気のピークやボトムは、あくまで後から振り返ってみて初めて確認できるものであり、その瞬間瞬間では判断が難しい。
実は、リセッションを迎えたか否かの判定は、各国によって異なる。欧米では、「GDP (国内総生産) が2四半期連続でマイナス成長に陥った」段階でリセッションとみなすケースが一般的だ。これに対し、日本でその目安とされているのが「ディフュージョン・インデックス (DI) 」と呼ばれる景気動向指数である。内閣府が毎月公表しており、過去の推移から景気拡大局面では50%を上回り、景気後退局面では50%を下回るという傾向があるようだ。つまり、これが50%を下回る状況が続けば「リセッション入り」と判定されるわけである。
「景気減速」と「景気後退」は違う
ところで、経済ニュースなどでは「景気減速」という言葉もよく用いられる。「景気減速」も「景気後退」もほぼ同じような意味で受け止めている人もいるかもしれないが、実際にはまったく異なるもの。「景気減速」は景気拡大期にのみ見られる現象だ。景気の拡大は続いているものの、そのペースが鈍ることを「減速」と表現している。一方の「景気後退」は、すでに拡大が完全に止まっていて、減少期に突入している状態を意味する。
景気判断に関して、日本銀行は独自の見解を示している。景気循環とは、①回復、②拡大、③減速、④後退の4つの局面から構成されているというのが日本銀行の捉え方だ。そのうえで、景気が4つのどの局面にあるのかを判断する目安として定めているのが「需給ギャップ (需要と供給の差) 」の“水準”と“方向”だという。
政府と日銀で景気判断の元となる指標が違うわけだから、当然、景気に対する見通しにも相違が生じうる。つまり、政府はリセッションではないと判断し、日銀がリセッションと判断する可能性もあるということ。
これらを念頭におきつつニュースに耳を傾けることで、現状の景気に対する理解度が多少は変わってくるだろう。(提供:大和ネクスト銀行)
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