ペアローン,生命保険
(写真=PIXTA)

家計のリスク対策として、夫が死亡したときの死亡保険を十分に備えている家庭は多い。しかし、妻が死亡した時の保険はどうか。共働きの場合は夫以上に妻の保険が重要となるのだが、あまり知られていないのが現状だ。意外と見落としがちな妻の保険についてみてみたい。

夫の死亡保障だけでは不十分?共働きA子さんの驚き

A子さん(33歳、会社員)は夫B雄さん(35歳、会社員)と長男(6歳)の3人家族。長男が小学生に上がるのをきっかけに夫の生命保険を見直してみようと考え、ファイナンシャル・プランナー(FP)を訪ねた。FPからは「B雄さんが亡くなった時の死亡保障は十分であるが、共働きのA子さんが亡くなった時のリスク対策が必要」とアドバイスされ驚いた。

住宅ローンの返済を見てみると…

3年前に4500万円を借りて購入したマイホームはB雄さん名義。住宅ローンには団体信用生命保険を付けているためB雄さんが死亡しても住宅ローンは完済されることから特に心配はしていなかった。FPはこう指摘する。「共働きのA子さんが亡くなるとB雄さんの収入だけで住宅ローン返済と子育て費用、生活費を負担していくのが少し大変ではないか」

B雄さんの税込年収は600万円、A子さんは400万円。住宅ローン返済は年間180万円だが二人の収入を合わせれば返済負担率(年間返済額/年収×100)は18%と低く問題は無い。返済負担率とは、銀行が住宅ローンを貸し出す際の判断基準の数値であり、概ね35%以下であれば良いとされている。

B雄さんだけでも180万円/600万円×100=30%であり問題はないが、あくまでもローン借入額の審査目安である。実際には「借りられるか」ではなく「払えるか」で考えるため、手取り年収で計算してみる必要がある。

B雄さんの手取り年収は約480万円(年収の80%)であるため返済負担率は37.5%になる。つまり生活費や貯蓄として使えるのは給料の約6割である。FPは手取りに対する住宅ローン返済の負担が大きすぎることを指摘したのだ。

ペアローンでそれぞれ団信保険に加入

もしB雄さんが亡くなった場合は団体信用生命保険(以下、団信保険)により住宅ローンは完済される。民間金融機関で住宅ローンを借りる際はほとんどが団信保険への加入が条件であるため心配はなく保険料は金利に含まれるため負担感もない。

フラット35では団信保険の加入が任意のため、毎年負担する保険料を嫌って加入していないケースも多い。

また、ローンを借りる段階でリスク対策をしておくこともできる。収入合算とペアローンの違いで対策は変わってくる。収入合算では主となる借入人(一般的には夫)に団信保険は付けられるが連帯保証人となる合算者には付けられない。フラット35で収入合算するのであれば夫婦用の団信保険「デュエット」を活用すると良い。

夫婦それぞれの名で借りるのがペアローン。この場合はそれぞれが団信保険に加入できるためリスク対策ができる。

A子さんのリスク対策は「生命保険」

では、A子さんが死亡した場合の住宅ローンリスク対策を考えてみたい。繰り返しになるがA子さん死亡後にB雄さんの手取り収入だけで家計を維持していくのは少し大変である。子供を預ける費用負担もかかるであろう。そこで、A子さんも生命保険に加入するのがリスク対策となる。

この場合の保険は、住宅ローン残高の減少に合わせて保険金額も減少していくよう「収入保障保険」や「逓減定期保険」が良いだろう。ローン残高の全てを保険で補おうとすると保険料負担が多くなるため、ローン残高の半分やB雄さんが支払っていける額を残すように保険金額を決めると良いだろう。

遺族年金にも違いがある

遺族年金は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがある。2014年3月までは母子家庭と父子家庭で遺族基礎年金に大きな差があったが現在は解消されている。しかし遺族厚生年金は父子家庭に不利な面がある。

遺族厚生年金は厚生年金に加入している人が亡くなった場合などに支給される。当然のことながら厚生年金に加入していない専業主婦やパートの妻が亡くなっても夫や子供に遺族厚生年金はないが、会社員の妻が亡くなると子(18歳の年度末に達していない子)が居るかいないかで変わる。

遺族厚生年金を受給できる権利は1番目に配偶者と子である。ただし夫が遺族厚生年金を受給できるのは妻死亡時の夫の年齢が55歳以上でなければならない。

先ほどの会社員のA子さんの例で見てみよう。A子さんが亡くなるとB雄さんの遺族年金はどうなるのか。遺族基礎年金は長男が18歳の年度末をむかえるまでの12年間は年間約100万円が受給でき、遺族厚生年金は長男に支給される(年金額は個々により異なる)。一見するとB雄さん死亡時と変わりないように見える。

しかし問題はその後だ。実は「妻」が遺族のときは「中高齢寡婦加算」を65歳まで年間約58万円受給できる。A子さんに当てはめると長男が18歳を超えたあと65歳になるまで21年間で1,218万円も受給できるのだが、この中高齢寡婦加算が「夫」にはない。

妻のリスクマネジメント

共働き世帯で住宅ローン返済を互いの収入でやり繰りしている家庭は多く、団信保険に加入しているか否かでリスク対策が変わる。また、会社員の妻が亡くなった場合では「中高齢寡婦加算」に大きな違いがある。

今や共働き世帯は全体の半数を超え「一般的な世帯像」になりつつある。互いが互いの収入を頼りにしている家庭では、今までのような夫を大黒柱として据えた「一般的」とは異なるリスク対策を講じる必要があるだろう。

中谷俊雄 FPオフィスライズ 代表
個人相談、法人の福利厚生メニュー「FP相談室」、各種マネーセミナーを開催、FP技能士資格の取得講座は累積2000時間を超える。著書に『ズバリわかる!FP技能検定3級』(ナツメ社)がある。帯広コア専門学校・札幌学院大学非常勤講師。