「老後に必要な額は最低3000万円」
「豊かな老後を暮らすために必要な額は1億円」
老後の資金について調べてみると、さまざまな意見が述べられておりどれが本当なのか分からない。そもそも「豊かな老後」の定義も人それぞれなのだから、いくら他人の意見を参考にしても将来への不安は拭えない。
ファイナンシャル・プランナーの前野彩さん(CFP、株式会社Cras代表取締役、FPオフィスwill代表)は「結果だけ知ろうとして、メディアの情報だけ取り入れるから不安感が募るんです。自分の場合はどうかを知る方法を知っておいた方が、さまざまなパターンをシミューレーションでき、自分の力になる」と話し、シミュレーションする大切さを強調する。
自分が思う「豊かな老後」を過ごすにはいくら必要で、定年までに毎月いくら貯めておけばよいのか。今回は、前野さんの講演をもとにその計算法を紹介する。講演は2016年3月12日、東京都内で開かれたセミナー「プチリッチな老後生活を送るための貯め方&増やし方」(Money&You主催)で行われた。
定年までに貯めておきたい老後資金の計算法
前野さんによると、定年までの積立金額を知るステップは6つ。
①60~65歳の収支総額を求める
②65~87歳の収支総額を求める
③大きな支出予定の金額を概算
④大きな収入予定の金額を概算
⑤1~3を足し、総額から4を引く
⑥5で求められた金額を60歳までの年月で割る
①、②については予想される1カ月の収入と1カ月の支出の差分を求める。65歳の前後で計算を分けているのは、年金をもらえるのが65歳以降であるためだ。
アラサー独身のZUU online編集部員は、60~65歳は株式投資か不動産投資を行って副収入を得たいという願望を交えて1カ月の収入を「3万円」、65~87歳は年金と副収入を合わせて「15万円」と見積もった。1カ月の支出については、少し余裕を持って「20万円」としてみた。
③については「リフォーム」「車・旅行代などの総額」「医療介護」の3つを足すとよいそうだ。ここについては、持ち家か賃貸か、はたまた将来車がほしいのか、旅行をどれくらいしたいのか、といった個人の事情によって左右される。ZUU online編集部員は、リフォーム代の平均が500万円、医療介護費は約400万円というデータを参考にした。
④は大きな収入予定である。「退職金・企業年金」「個人年金保険などの受取総額」「その他 老後のために準備できているお金」を足し合わせる。
いよいよ⑤の段階に入ると、①〜③を合わせた金額から④を差し引いて「退職金や年金を除いて、定年までに貯めておきたい金額」を算出する。ZUU online編集部員の場合は約3500万円。さらにこれを60歳までの年月で割ると、およそ月々に貯めておきたい金額は7万円ということになった。思っていたより少ない、というのが実感である。
※詳しい計算方法は前野さんの著書『
本気で家計を変えたいあなたへ
』(日本経済新聞出版社)参照。
将来もらえる年金はどう考えればよいか
前野さん曰く、ポイントは「正確でなくてもいいのでまず書いてみること」。前野さんは「几帳面な人ほど書けないんです。間違ったらどうしようとか考えてしまうから。でも、将来のことなので正解なんてないんです。あくまでシミュレーションなので、他に気になることがあれば何パターンでもやればいい」とアドバイスする。
それにしても、このようなシミューレーションをやるとき、不安になるのが年金だ。現在のシニア層がもらっている額で計算しても大丈夫なのだろうか?
これについても前野さんは、「年金制度が急に変わることはありません。今ある制度を活用した上で、今の老後のイメージだったらどう考えるか、をまずやってみてほしい」と説く。確かに、一度いまの制度でシミュレーションをしておけば、だいたいのイメージがわく。制度が変わったらそのときにまた計算し直せばよいのである。
「平均」に惑わされない
前野さんは、あくまで「『自分の』年金・老後環境を知る」ことの大切さを強調していた。
例えば、老後に必要な生活費について、総務省家計調査(2014年)では2人以上の世帯は平均約29万円、70歳を過ぎると約24万円としている。メディアに出てくるのはここまでだが、ここが「要注意なんです」と前野さん。このデータを見ると、各世帯の持ち家率は約94%で、住居費が月額1万5000円程度となっている。賃貸住まいにしてみると、まったくアテにならないデータなのである。
「データを耳にした時、なんかおかしいと思ったら根拠をシッカリ確認してほしい。そうすることで不安が解消したり、準備すべき金額が見えたりしてくる。平均だけ知っていたって誰も助けてくれない。生活スタイルによって必要なお金は違う。だからこそ、自分にいくら必要か計算してほしい」(前野さん)
ZUU online編集部員は、60歳までに必要な積立額を自分でシミュレーションし「意外と少ない」と感じた。それまで必要以上に心配していたのだな、と気づくことができた。「平均的に必要な額」ではなく、「自分にとって必要な額」をシッカリ知ることの大切さを再認識した。(ZUU online 編集部)