マルチ商法,ネットワークビジネス
(写真=PIXTA)

マルチ商法は中国人向きだと思う。自己主張と交渉に長け、ここぞという時には、「厚かましさ」すら感じるほどの行動力。不法行為を恐れない、踏み込みの良さにはいつも驚かされる。勧誘活動、派閥活動は元来得意とする。しかし他人は容易に信じないが、身内の言うことなら簡単に引っかかる、意外なセキュリティー脆弱性も合わせ持っている。

いかにも中国という事象が2015年5月に起きた。世界をあ然とさせた中国企業・天獅による、6400人が参加した欧州大社員旅行である。この会社は健康関連商品(漢方に基くサプリメント)を世界中に「お届けする」ために設立された。日本にも進出を果たしている。日本版ホームページによれば、世界110カ国に400万人の会員がいる。会社案内には、還元率55%、累積ボリューム、ディストリビューターなどとあり、用語からして明らかにマルチである。ところが中国はマルチ商法を禁止している。実態はどうなっているのだろうか。

ねずみ講もマルチも禁止、政府規制下の“直銷”に一本化

日本では、ねずみ講とマルチ商法の違いは、商品または役務の提供があるかどうか、有限か無限(トップが末端まで吸上げ)か、会費の有無にあるという。

日本でねずみ講(無限連鎖講)防止法が施行されたのは1979年だった。中国では18年遅れて1997年、「傳銷管理弁法」が施行されている。これは商品経済の熟成度の差をそのまま表している。ただし中国における“傳銷”(ピラミッドセリング)の概念には、ねずみ講とマルチの差はなく、社会経済秩序を乱すものとしてどちらも禁止された。

これ以降マルチ会社は廃業するか、“直銷”という商務部の認めたネットワークビジネスの範囲内で続けるか、2者択一を迫られた。直銷品目は化粧品、健康食品、健康機材、清潔用品、小型調理器具、の5種に限定された。資格を得た直銷員以外、販売活動に携わることができない。企業は直銷員を直接雇用することもできない。直銷員が固定の営業所で、または家庭訪問で販売する。また資本金8000万元、保証金2000万元など資格要件も厳しく、参入のハードルは高い。

がんじがらめ“直銷”の限界

現在公認されているのは31社である。安利(Amway)、雅芳(Avon)マイ琳凱(Mary Kay)など世界大手の中国法人が入っているが、安利は業界トップ、雅芳は撤退と早くも明暗が分かれている。40代の中国人女性数人にイメージを聞いたところ、いずれもすでに落ちぶれた化粧品ブランド、と一刀両断にされてしまった。

この直銷の市場規模は、2015年、公認31社トータルで2051億元、前年比△25.01%の伸びだった。2015年の小売総額は△10.7%、うち化粧品は△8.8%、日用品は△12.3%(国家統計局資料)なので、非常に良い伸び率に思える。安利は首位で、中国系トップの「完美」が2位、この2社が売上高200億元を超えている。マイ琳凱は100億元クラスで第2集団、先の天獅はその下の第3集団で、例の欧州旅行に比べ、会社名は周知されていない。そしてほとんどの国民は、これらの会社に対し、うさん臭さを感じている。また昨今の売上増には通常のネット販売が大きく寄与しているはずで、規制でがんじがらめの従来の直銷スタイルは、もう発展性に乏しいだろう。

最近の“新方式”傳銷トラブル

その結果、天獅のように海外市場へ打って出る、非合法なマルチ商法・傳銷がはびこる、という2つの現象を起こしているようだ。

傳銷トラブルは後を絶たない。まるで雨後の筍をモグラ叩きしているようだ。ネット検索すると、事件のあった地名とともに、「新手法」「陥穽」「洗脳」という言葉が目に付く。これは日本語と全く同義である。

一例を挙げてみよう。AはBの親族に近い友人で、BのAに対する信任は厚い。あるときAはBに、寧夏回族自治区K市に、年棒10〜15万元の仕事がある、行ってみないか、と誘った。Aの会社の仕事であり、内容は比較的簡単であるという。信じたBは、Aと共にK市に赴いた。ところがAは仕事を紹介せず、仲間とともに連日Bを遊びに連れ出す。すべて傳銷のチームである。頃合いを見てAはBに切り出す。「K市だけで試行されているアメリカモデルの人材育成プログラムがある。参加してみないか。もちろん断ることもできるのだが」−−。Bは簡単に陥穽に落ちた。そして洗脳コースに入る。

これが新方式である所以は、求職活動を切り口にしていること、Bの自由を保証(いつでも逃げ出せた)し、軟禁などの強制が一切ないスマートさ、にあるという。しかしこうした傳銷事件は物理的拡がりに限界があって、摘発されても地方区ニュースで終わるようだ。

中国は詐欺師天国か?

最後に傳銷の案件ではないが、全国区のニュースとなった、日本でいう出資法違反事件を紹介したい。“e祖宝”事件といい、2014年7月に立ち上げた“e祖宝”というネット金融が、わずか1年半で500億元以上の不法な集金を行っていた。被害者は31の省市区、90万人に及んだ。トップに坐っていた“美女”総裁は、5.5億元ものボーナスを得ていた。“中国市場”の大きさに改めて驚嘆させられる。

最初に述べたように中国人は、老獪なわりにセキュリティーが甘く、騙し、騙され、の修羅場を飽くことなく延々と続けている。詐欺師にとってこれ以上の有望市場はどこにもないだろう。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

【編集部のオススメ記事】
2017年も勝率9割、株価好調の中でもパフォーマンス突出の「IPO投資」(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
株・債券・不動産など 効率よく情報収集できる資産運用の総合イベント、1月末に初開催(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)