ディーゼル,軽油,エコ,大気汚染
(写真=PIXTA)

2005年、当時都知事だった石原慎太郎氏が環境確保条例を制定し、都内へのディーゼル車の乗り入れを制限した。石原氏はディーゼル車の排気から排出されるススの量が1日あたり500ccのペットボトル12万本にあたるとして、自ら真っ黒なスス入りのペットボトルを振ってみせた。この様子はTVで何度も流され、日本人にとって「ディーゼル車=悪(汚いもの)」いうイメージが増加したのは間違いない。

だがディーゼルのほうがガソリンよりも経済性が高く、EUでは16%程度の価格差がある。ディーゼルのほうが20〜30%程度、燃費は良い。2002年時点で、欧州でのディーゼル比率は40%を超え、現在では50〜60%以上のシェアとなるほど、ディーゼル車が人気だが、どんな利点があるのだろうか。

CO2排出量は少ない、だが……

「ディーゼル車は燃費が良いと述べたが、それは地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないことをも意味する。

しかし、完全燃焼状態では酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOx)を生成し、不完全燃焼すると燃料の燃え残り(粒子状物質:PM)が発生する。NOxとPMは、一方を減らせば他方が増えるため、政府の方針によってディーゼル車は増減する。

欧州では、年間走行距離が1万5000〜3万km以上と長く、燃費の良さというのは優先される事項で、さらにディーゼル車の価格が安いことも普及に拍車をかけることになった。欧州はドイツのアウトバーンをはじめ、高速道路が無料なところも多く、都市もラウンドアバウト(円形になった平面交差点。環道の交通が優先される)を利用するなど、日本のようにストップ&ゴーを繰り返す状況にない。また、速度指定も高速道路で時速100-130km程度、市街地でも時速100kmがあるなど、日本に比べて走行速度が速い傾向もあげられる。

燃費と車体価格が、欧州でディーゼル車比率が高まった原因といえよう。対して日本では、走行距離も欧州より短く、冒頭の都内への規制の強化もあり、ガソリン車の方が利便性が高いことから、ディーゼル車比率は低いままだった。

クリーンディーゼル車の人気が急速に高まる

PMには、黒煙となって排出されるススや、燃料中の硫黄分から生成されるサルフェートなど、呼吸器系疾患の原因物質や、発がん性の疑いがある物質がある。環境や健康に深刻な影響を与えるNOxとPMの削減は、ディーゼルにとって大きな課題としてあり続けていた。

だが欧州では軽油に含まれる硫黄分の含有量を制限しているほか、NOx、PMの排出量について厳しい基準を設けられている。基準を満たさないディーゼル車は走行ができないので、燃料を高圧で噴射し、微粒化するコモンレールシステムや、排出ガスを再び吸入空気と混合して酸素濃度を抑え、燃焼時の温度を低くしてNOxの発生を低減するEGR、PMの大気中への放出を抑制するDPFなどの技術対策が進化した。

そうした中で、主流となったのが大気汚染や疾患の原因物質の排出を抑えたクリーンディーゼル車だった。クリーンディーゼル車はトルクが太く、静かでスムーズな加速感もあり、燃費も良いということでクルマとしても申し分ないと考える人が多く、人気はたちまち広がっていった。

日本ではハイブリッドが主流 ディーゼルは新車販売の2%前後

日本では、2009年の排ガス規制基準、ポスト新長期規制をクリアしたものでないとクリーンディーゼル車として認められず、後の補助金・減税対象車にならないなど、欧州同様に厳しい基準が設けられていった。

だが日本では、トヨタ プリウスを筆頭にガソリンエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド車がエコカーの主流となっており、ディーゼル車は新車販売の2%前後にとどまっているのが現実だ。

いまではマツダのスカイアクティブ技術を用いたCX-5、デミオ、アクセラ、日産のエクストレイル、三菱自動車のパジェロやデリカなど、国内メーカーからもクリーンディーゼル車がたくさん販売されている。クリーンディーゼル車はエコカー減税の対象になっているので、経済性の面でも注目されるようになった。

当然ながら国産メーカーだけでなく、ディーゼル車の本家本元である欧州のクリーンディーゼル車の選択肢もぐんと増えた。メルセデス・ベンツ、MINI やアルピナを含むBMW、ボルボ、ジャガーなどのからクリーンディーゼル車が購入できるようになっており、2015年のディーゼル乗用車の販売台数は19年ぶりに10万台を超える動きがあった。

だが、クリーンディーゼル車も順風満帆というわけにはいかず、昨年のフォルクスワーゲンのディーゼル車数値偽装問題を発端として、世界的にディーゼル車を見直す動きも出てきている。(有賀香織、オート・クリティーク・ジャパン代表)