地銀の事業環境:コアの収益を伸ばすには最悪の経営環境
地銀が追い詰められている背景には3つの要素がある。第一に、以前から指摘されていた人口減少とそれに伴う地方の経済規模の縮小である。人口は15-20年頃には今より最大6%程度下落する地方もあると予想されている。
図表4では、マイナス金利による利鞘低下が今後2年程度続いた場合の経費率と人口減少度合いの影響度を示している。右下に位置する銀行は、経費率が90%程度まで上昇する可能性があり、かつ、人口減少度合いが大きいと予想されているため、収益環境は特に厳しい。
なお、現在、日銀が銀行に対する、「貸出支援基金」にマイナス金利を導入するとの思惑が高まっているが、仮にこれが実現しても、その分貸出金利が低下してしまうことから、銀行への恩恵は極めて限定的となるだろう。
加えて近年は、地方企業の需要不足や後継者不足で、企業の休・廃業率の高さが懸念となっている。例えば昨年は、景気は比較的堅調だったにも関わらず、地方圏では企業の休・廃業や解散の件数が前年比二桁増となった(図表5)。今年度は、円高傾向や景気後退で更なる悪化も懸念される。
そこに追い打ちをかけたのがマイナス金利の導入である。地銀のコア収益(=貸出と有価証券利息プラス手数料で計算)は、15bp(1bp=0.01%)金利が下落すると、一行当り平均で、数十億円ずつしか出なくなってしまう(図表6)。これは現状の2分の1以下の水準である。あと1、2年マイナス金利が続いた場合、コア収益で経費が賄えない状態が定常化する可能性がある。
このような金利環境を受け、今期開始中期経営計画をスタートした地銀のほぼ全行で、ROEは「現状以上」と言及するにとどまっている。当期利益については、増やす計画の銀行が多いものの、伸び率は年率1.5~2.5%と低い水準に留まっている銀行が多い。しかも、マイナス金利の影響を精査する前に計画を策定してしまった銀行も多いとみられるため、今後下方修正を迫られる可能性もあるだろう。
また、マイナス金利で、地方の中小企業の景況感が急速に悪化してしまったことも、想定外の逆風である。図表7の通り、地域別景況感DIは、北海道、中部、九州沖縄等の地方での悪化が目立つ。地方企業に対する設備資金貸出も減退する可能性が高い。
第三に規制の問題である。既報の通り( 16.3.29付レポート参照 )、資本規制は、国際基準行を中心に、高リスク貸出や株式などの見方が厳しくなっており、今後更に、国債の信用リスクに対する見方も厳格化される可能性がある。
尤も、これらの悪い環境については、相当程度市場には織り込まれている。逆に、今後これらの環境を打破するための施策が出てくれば、株価反転材料となる可能性が高いだろう。
前例からみる再編の効果:他の方策を取って初めて効果が出る
では、このような状況を打破するのに、銀行間の再編はどの程度の効果があるのか。2000年代初頭に大手行(都市銀行)が再編した時には、経費は圧縮できたものの、預貸率は、むしろ再編を殆ど行わなかった地銀よりも低下してしまい、これが利鞘の低下に繋がった(図表8~10)。
日本の地銀にとっても、経費については再編で改善される可能性はあるが、より深刻な運用難という問題は、再編だけで抜本的に改善されるものではない。業務の多様化など、より抜本的な改革に取り組む必要があるだろう。