サラリーマン
(写真=PIXTA)

「サラリーマンは給料の3倍を稼いで一人前」 という言葉をご存じの方も多いでしょう。

この言葉は、会社が生き残っていくためには、サラリーマンは最低でも給料の3倍稼がなければならないということを意味します。この言葉を聞いて、「自分の給料以上に稼げば会社は元をとれるじゃないか」「そもそも3倍という数字はどこから出てくるのだろう」と思う人もいるのではないでしょうか。

そこで、3倍という数値の根拠を具体的な数値を用いて検証し、この言葉の意味を掘り下げていきます。

会社があなたに支払うのは給料だけではない

給与明細の手取り額だけを見て、会社が自分のために負担しているものは給料のみ、と考える方もいるでしょう。しかし、会社は給料以外にも多くの費用をあなたのために負担しています。

代表的なものは法定福利費です。通常、従業員の社会保険料、年金保険料等の法定福利費の負担は、会社と従業員との間で折半されています。会社はあなたが負担すべき保険料の半分を毎月負担してくれているのです。ちなみに、自営業をされている人は全額保険料を自分で負担しています。

この他にも、出張のための交通費、事務所家賃、水道光熱費、福利厚生費、文房具代等、会社が負担しているものは意外と多いのです。

あなたは他者のために利益を上げる責任がある

会社が自分のためにあれこれ負担してくれているのは分かる、けれどもやはり給料の3倍稼がなければいけないというのは言い過ぎなのではないか、とまだ考える人もいるでしょう。

実は、あなたが稼がなければいけない理由は他にもあります。それは、あなたは自分のために経営判断をしてくれる社長や、事務員等の間接部門にいる人たちのために利益を上げる責任があるのです。なぜなら、あなたが営業活動に専念できるのは、このような間接部門の人たちがあなたをサポートしてくれているからなのです。このような人たちは自ら利益をあげることができないため、あなたが彼らの給料分も稼いでこないと会社は回らなくなります。

ここで、具体的な例を出して実際に金額を検証してみましょう。単純な会社を想定します。あなたは家電製造・販売業を営む小さな会社の営業マンです。社長と、あなたを含め営業マンが5人、工員が5人、給与を計算したり請求書を送付したりする事務員が1人いると仮定します。社長の役員報酬は毎月40万円、営業マン5人の給料は25万円、事務員の給料は20万円です。また、工員の賃金を含めた家電製造・販売業の製造原価率は50%とします。

会社が負担している給料以外の経費の代表的なものとして、まず法定福利費があります。月額25万円の給料をもらう人の会社負担分の社会保険料は約3万円、厚生年金保険料は約2万3,000円です。次に、毎月の交通費、事務所家賃、水道光熱費、福利厚生費、文房具代等を総額でざっくり60万円とします。1人当たり5万円(60万円 / 12人)の経費が毎月かかる計算になります。

また、社長と事務員等の間接部門の給料負担額を考慮しなければなりません。営業マン1人当たりの負担額は12万円(社長の報酬40万円 + 事務員給与20万円) / 営業マン5人)となります。

これらを加味して、会社が利益をあげるために営業マン1人が毎月稼がなければならない金額は、下記のとおりです。

月額給料25万円 + 社会保険料3万円 + 厚生年金保険料2万3,000円 + 諸経費5万円 + 社長と事務員の給料負担12万円 = 47万3,000円

ここまでで見ると、営業マン1人が稼がなければいけない利益は月額給与の約1.8倍(47万3,000円 / 25万円)となっており、「なんだ、やっぱり3倍も稼がなくてもいいじゃないか」と思われるでしょう。しかし、この金額はあくまで利益の金額です。営業マン1人が稼がなければいけない売上高を計算するためには、製品の製造原価を考慮しなければなりません。

営業マン一人が稼がなければいけない売上高は下記のとおりとなります。

4 7万3,000円(1人当たり利益) / (1 − 0.5)(利益率) = 94万6,000円

結果、営業マン1人が稼がなければいけない売上高は、月額給与の約3.7倍(94万6,000円 / 25万円)です。この金額は、収支がトントンの状態の1人当たりの売上高であり、「損益分岐点売上」とも言われます。この売上高をあげない限りは、会社にとってあなたは「赤字の人材」なのです。

まとめ・注意点

上記はあくまで単純な会社を想定した一例です。当然、業種や規模によって利益率や人件費率が異なるため、サラリーマン1人あたりが稼がなければいけない金額も会社によって大きく異なります。

また、直接売上をあげられない総務や経理などの間接部門に従事している人は、自身が提供しているサービスの価値を数値化することは難しいかもしれません。しかし、もし外部に委託した場合に、どれくらい費用がかかるのかと考えれば分かりやすいのではないでしょうか。

例えば、給与計算を自社で全て行っている場合にこれらを社労士法人に任せたらいくら費用がかかるのか、という事を考えるのです。会社から給料が支給されている以上間接部門もまた、従業員にサービスをするという視点を持たなければなりません。

「自分の給料が割に合わない」と感じる人は、自分の会社の損益分岐点をざっくりでいいので知って、自分がどちら側の人間か(黒字の人材なのか、赤字の人材なのか)を一度考えてみることをお勧めします。

「サラリーマンは給料の3倍を稼いで一人前」という言葉は、すべての従業員が会社に貢献しなければ会社は回っていくことができない、という会社存続のための前提を意味しているのです。(提供: TRUSTAX

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