地域活性化,旧産炭地,地方創生,夕張
(写真=PIXTA)

多額の借金を抱えて財政破綻した北海道夕張市で、地下に眠る炭層メタンガスの試掘が9月にも始まる。市は近く、試掘を担当する石油資源開発(東京) <1662> 、地質調査のレアックス(札幌市)、研究者団体のNPO法人・地下資源イノベーションネットワーク(札幌市)と包括連携協定を結ぶ。

夕張市は財政再生団体として重い負担を市民に強いており、急激な人口減少と高齢化の進行で市民から希望が失われようとしている。それだけに、炭層メタンガスの活用が実現すれば、地域に明るい話題を呼びそうだ。

石炭生成過程で生まれるメタンガスが豊富に埋蔵

炭層メタンガスはコール・ベッド・メタンガスとも呼ばれ、石炭層から採取される新顔の天然ガス。主成分はメタンで、採掘が盛んな豪州では液化して日本に輸出されている。

石炭は亜炭から褐炭、亜瀝青炭、瀝青炭、無煙炭と石炭化が進む過程でメタンガスを生成する。生成されたガスは石炭に開いた無数の小さな穴の中に含まれ、取り出せば燃料用のガスとなるほか、発電にも使用できる。

国内では北海道の夕張市を含めた石狩炭田、釧路炭田、福岡県の筑豊炭田、福島県から茨城県に広がる常磐炭田に豊富に存在するとみられている。このうち、石狩炭田には200億〜800億立方メートルの埋蔵量があると推計するデータもある。

新エネルギー・産業技術総合開発機構の調査では、夕張市内の炭層メタンガス推定埋蔵量は約77億立方メートル。石炭1トン当たりのガス包蔵量は豪州より多く、これをエネルギーとして活用すれば、市内4500世帯の1500年分以上となる量だ。

海外では豪州のほか、米国でも採掘されており、技術的な困難が伴うことはない。大量に水をくみ出すことから地下水に影響が出ることが予想されるが、一般の天然ガスほど深くまで掘削しなくて済むところも利点になるという。

試掘が成功すれば、2017年度からテスト生産

夕張市によると、試掘が予定されている場所は清水沢青陵町の青陵小学校跡地。国内外でガス田開発を進めている石油資源開発と、市内のガス採掘権を持つレアックスが共同で進める。深さ約900メートルまで掘削し、埋蔵量や成分、1日当たりの生産可能量などを調べる計画だ。

試掘費用はざっと2億円と見込まれている。市は財政再建中のため、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、北海道の交付金などを活用する方向で調整している。

試掘がうまくいけば、2017年度からはテスト生産に入る。採算が見合うだけの安定した生産量を確保できるかどうかが実用化の鍵を握るが、市はガスを熱源として夕張メロンのビニールハウスへの活用、ガス発電に利用することを考えている。

試掘地区では1981年、北炭夕張新炭鉱ガス突出事故が発生している。不十分なガス抜きのため、坑口から約3キロ離れた掘進作業現場で大量のメタンガスが充満、さらに火災も発生して93人の死者を出す大惨事となった。

事故の原因となったのが、今回試掘する炭層メタンガス。大惨事の元凶を逆に利用し、地域振興の新たな一手としようとしているわけだ。

財政再建で苦しむ市民にとって最後の希望

夕張市はかつて、炭鉱の街として栄え、最盛期の1960年には12万人近い人口を抱えていた。しかし、炭鉱は1990年ですべて閉山し、急激な人口減少と地域経済の低迷に陥る。市は炭鉱会社から住宅や病院などを買い取ったが、これが借金を膨らませるきっかけとなった。

市は折からのリゾートブームに乗り、観光開発に方針を転換する。しかし、進出企業が早々と撤退、身の丈に合わないリゾート施設と莫大な借金が市に残った。市は単年度決算を黒字に見せかけるため、赤字隠しの一時借り入れを繰り返していたが、2006年に財政破綻が発覚する。

当時、市が抱えていた借金は353億円。税収が8〜9億円ほどしかない市にとって、簡単に返せない額だ。国から財政再建団体(現在は財政再生団体)に指定されると、借金返済のために超緊縮財政に入った。

住民税など市民の負担は最高額に引き上げた。市職員や市議、市長らの給与、報酬を全国最低レベルにカットする。観光施設や公共施設を次々に閉鎖、他の自治体なら当然給付されている各種補助金も打ち切った。

東京23区より広い763平方キロに市内に小中学校は各1校ずつ。地域医療を担ってきた市民病院は診療所に格下げされ、171床あった病床がわずか19床に。「最高の住民負担に最低の行政サービス」というありがたくない呼び方をされるようになった。

市の職員は市外への転職が相次ぎ、260人ほどいた数が100人を切った。市職員だけでは事務をこなせず、北海道などから派遣を受け、やっと対応している状態だ。人口は今や約9000人。市のメーンストリートは昼食時でも人の気配がない。一歩、裏通りへ入れば今にも崩れそうな廃屋が並び、ゴーストタウンの様相も示し始めた。

借金の返済期間は24年。まだ半分にも達していないが、市民の我慢は限界に達し、明るさが失われようとしている。そんな中で浮上したのが、炭層メタンガスの採掘計画だ。

鈴木直道市長は東京都内の日本記者クラブで会見し「夕張市には財政再建で暗いムードが漂っている。市民が明るさを取り戻すためにも、地産地消のエネルギー源として活用していきたい」と期待感をにじませた。炭鉱時代の厄介者は夕張の明日を切り開く力となれるのだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。