富士重工業,自社株買い
(画像=Webサイトより)

富士重工業 <7270> は12日、上限1500万株(480億円)の自己株取得枠を設定すると発表した。「株主価値と資本効率の向上」を目的とするもので、取得期間は5月13日から9月30日までとなる。また、同社は「取得する自己株式は全数消却する予定」であることも明らかにした。この発表を受けて同社の株価が急伸する場面も見られた。

投資初心者のなかには、「自社株買い」という聞きなれない言葉に戸惑っている人もいるのではないだろうか。今回は自社株買いについて解説したい。

企業価値向上の効果をもたらす「自社株買い」

「自社株買い」とは、文字通り上場企業が過去に発行した株を買い戻すことである。市場に流通する株数が減少するため、1株当たりの価値が向上し、株価を押し上げる効果が期待できる。このほか、株主への利益還元やストックオプション、M&A目的での株式交換などにも利用される。

自社株買いは、かつては商法で禁止されていた。1994年の法改正で解禁されたが、企業側には制約があった。その後、2001年に再び法改正があり、現在のように使途の制限なく自社株の取得・保有が可能になった。この改正で、上場企業が長期にわたり保有できるようになった自社株は「金庫株」とも呼ばれる。

再び市場に売却せずに「消却」する企業も多い

投資家にしてみれば、自社株買いに積極的な企業は、基本的には有望な投資先と見ることができる。たとえば、企業が配当を増やした場合はその時点で株主である人しか恩恵を受けられないが、自社株買いは市場に流通する株数の減少を通じて中長期的にその株を保有するメリットが高まることになる。

そうした中長期的な視点で自社株買いに動く企業は「企業価値の向上に意欲的」と評価する投資家も多い。今回、富士重工業が明らかにした「株主価値と資本効率の向上を目的とする」自社株買いは、このケースに該当する。

ちなみに、上場企業のEPS(1株当たり利益)を計算する際には、企業が保有する自社株を除くことが一般的となっている。買い戻した自社株は再び市場で売却することも可能であるが、近年は市場に売却しない企業も増えているからだ。

このように、企業が取得した自社株を市場に売却せず、発行済み株数を減らすことを「消却」と呼ぶ。富士重工業が今回明らかにした「取得する自己株式は全数消却する予定」とはこのことを指している。

「消却」でEPSやROEが向上する効果

上場企業の純利益が変わらないと仮定すると、自社株買いで市場に流通する株数を減らすことにより、EPSは上昇する。EPSが上昇すると、株価がEPSの何倍かを示すPER(株価収益率)が低下することによって割安感が強まる。利益だけでなく、1株当たりの資産も同様に上昇する。

また、自社株買いにより、投資家が注視する経営指標の一つであるROE(株主資本利益率)も向上する。日本企業は大企業であっても、過当競争の影響などで、海外の同業他社に比べてROEが低いと指摘されている。そんな企業にとっては、外国人などグローバルで幅広い層の投資家に株主になってもらうためには、設備投資に使わない余剰資金を配当や自社株買いに充てて、ROEを引き上げることが有効な手立てとなる。

投資家が自社株買いを要求する場面もある

余剰資金が多い上場企業には、投資家から自社株買いを求められる場面もある。昨年2月には、投資会社サード・ポイントがファナック <6954> の株式取得を明らかにし、ファナックに自社株買いを求めたことが明らかになった。ファナックはその後、配当性向の引き上げと保有する自社株の消却を実施している。

企業統治の強化を官民挙げて実行する上での規範「コーポレートガバナンス・コード」は、上場企業に中長期的な企業価値の向上を求めている。このことも、自社株買いに積極的な企業を後押しする要因となっている。(ZUU online 編集部)