要旨

EUへの残留か離脱かを問う英国の国民投票まで残すところ1カ月余りとなった。

相次ぐ経済的コストへの警鐘にも関わらず、EU離脱支持率は落ちず、先行き不透明感は増している。

国民投票が残留支持多数であれば、英国は交渉で得た新条件でEUに残留する。

離脱支持多数となった場合、英国政府はEU首脳会議に離脱の意思を告知、離脱とともにEUとの新たな関係についての協定の締結作業に入る。EU条約が規定する2年以内の新協定の発効のハードルは高く、交渉期間が長期化する可能性や新協定の締結を待たずに、離脱に至る可能性がある。

英国は、欧州最大の国際金融センター、多数の多国籍企業が欧州本部を設置するEUのゲートウェイとして機能している。主要先進国の中でもとりわけ貿易・直接投資・金融面での開放度とサービス業の比重が高い。国際収支構造は経常赤字が高水準かつ拡大傾向にある。EUの単一市場との間に「壁」を作る影響が潜在的に大きい。

離脱派は、EUに委譲した主権や財源を奪還、「コントロールを取り戻そう」と呼びかける。これに対し英国財務省や英国内の研究機関、国際機関などの多くは、離脱後の英国は、EUとの間でどのような協定を締結しても、貿易・直接投資へのマイナスの影響は避けられず、残留した場合よりもGDP、所得水準は低下すると試算する。レベルの高いFTAなどでEU市場への特権的アクセスを確保しようとすれば、離脱派が嫌うEUのルールへの適合や一定の財源の拠出、ヒトの移動の自由の受け入れを求められる。

EU域外との貿易協定などでEU離脱のコストをカバーできるかも疑問が残る。日米は、英国のEU残留を望み、交渉は大市場であるEUを優先する立場を明言している。中国は、離脱後の英国とのFTAがEUとの交渉よりも先行する可能性はあるが、交渉には時間を要し、英国側が有利な条件を引き出せるかは不透明だ。

欧州の統合は、深化と拡大の局面で加盟国の国民投票でしばしば「NO」を突きつけられながら前進してきた。

英国の国民投票は、英国経済の構造から考えれば、残留が合理的な判断だが、離脱を選択する確率も決して低くはない。数々の警鐘にも関わらず離脱支持の割合が低下しないのは、「コストを払うことになっても軌道修正すべき」と考える、現状に強い不満や不安を抱く有権者が少なくないからだろう。EUの官僚主義や法規制、さらに増加する移民、終わらない財政緊縮が、現状変更を求める機運につながっているように感じられる。

英国外でBREXITの影響を最も強く受けるのはEUだ。英国経済の減速による影響や、世界経済におけるプレゼンス低下など経済面以上に、深化と拡大という第二次世界大戦後から続く欧州統合が初めて直面する有力国の離脱という政治的な意味が重い。加盟各国で反EUの機運を勢いづかせるリスクもある。直ちに離脱のドミノを引き起こすことは考え難いが、英国がどれだけ巧みに離脱プロセスを乗り越えられるかが、他国の将来の選択にも関わってくるだろう。

国民投票が残留支持多数となっても火種は残る。英国内には離脱派の不満が燻り、EU内では英国の存在がブレーキとなり、加盟国間の足並みの乱れを増幅するおそれがある。

離脱支持多数という国民投票の結果は世界的なリスクオフ再燃のきっかけとなるおそれがある。

日本経済はBREXITの直接的な影響は受けにくいが、それ故、国民投票の結果が離脱支持多数となった場合、円高圧力に悩まされるリスクがある。欧州ビジネスの拠点として英国を活用している企業は、国民投票が離脱支持多数となった場合、EUやEU域外とのFTAなどの交渉をフォローし、拠点展開を再考する必要に迫られる。