ついに「仮想通貨」に財産的価値が認められる

この2、3年、ペイメントテクノロジーへの着目に始まり、スマートフォンの普及並びに高性能化、それに合わせたモバイルアプリケーションの高機能化により、リテール金融サービスに関するユーザー体験が相当に高度化された。

それと同時に、2009年から発行が開始されたビットコインを始めとするインターネット上で流通する仮想通貨の台頭は、「貨幣とは何か」「決済とは何か」という本質的な問題の議論を呼び起こした。

そして先週5月25日、決済の場面において円やドルなどの国家が発行する法定通貨と同等の効力を持つ「財産的価値」として「仮想通貨」の存在を認める資金決済法の改正案が可決された。

多くの仮想通貨技術が基盤とするブロックチェーン技術は、分散型台帳と呼ばれる。

ブロックチェーンが持つ、中央管理者が存在せずとも通貨・有価証券の取引を確実に記録し、コスト構造・ビジネス構造を激変させる可能性は、多くの金融関係者に、インターネットに初めて触れた頃の「未来感」「期待感」(一部には「恐怖感」?)を与えている。

FinTechに対する資本市場のプロの見方

FinTechベンチャーの中には、「従来の金融機関は、技術が分からず、既得権益にしがみつき、FinTechベンチャーの新規参入を阻害しようとする頑固な人々の集まり」とのイメージをお持ちの方もいるかもしれない。

確かに、規制業種である特性からそういう人々がいるのは否定できないが、全員がそうという訳ではもちろんない。

筆者は、勤務先のマネックス証券からの参加者として、3月17日・18日、日銀で開催された決済システムフォーラム、また同じく日銀が5月12日に主催したリテール決済カンファレンスに参加した。そこにはベンチャー企業を排除しようとする既得権意識にまみれた頑固な姿はなかった。

その際に感じたのは、「FinTechが世界を変える」というようなコンセプチュアルな議論ではなく、金融実務に従事するプロフェッショナルが、テクノロジー・技術・規制を充分に理解した上で、今できること、できないこと、できていないことを整理し、どうすれば変わるのか、どうすればできるのか、建設的に議論していこうという前向きな姿勢であった。

むしろ、本当のプロであればあるほど、FinTechの持つ意味を、過大評価も過小評価もせず、等身大にとらえようとしているのが、今の資本市場の現場の姿である。

Fintechがもたらす資本市場の構造変革をリアルに予想するには

マネックス証券を始めとして、SBI証券、楽天証券、松井証券などの大手インターネット証券は、2000年代初頭のネット自体がまだ日本では充分に普及していなかった頃からサービスを提供してきた。

当初に大変だったのは、PCの使い方、インターネットの仕組みを教えるという技術的な問題もさることながら、ネットを使った証券取引というまったく新しい枠組みに対して、本人確認を含めた口座開設手続、システム障害発生時の対応方法、不公正取引に対する売買審査の手法などを、全くのゼロから確立することだった。

一社単独でなく、協調と競争の精神の下、特にコンプライアンス態勢の構築など業界横断的に協調すべきものは協調し、金融庁・証券取引所・日本証券業協会などの当局・自主規制機関とルールを協議し、ゼロからルールを作っていった。

一方、手数料競争に代表される経済条件、各種商品の商品性などでは競争し、インターネット証券取引が始まってからわずか6年近くで、個人の株式取引に占めるインターネット取引のシェアが全くのゼロから9割近くを占めるまで業界構造が変化した。

筆者には、現在のFinTechの流れは、単なるBtoCのモバイルアプリケーションのサービス競争(これはこれで大事だが)にとどまらず、インターネット証券ビジネスが始まった頃と同様の、根本的な資本市場ビジネスの構造変革をもたらす可能性があると感じている。

そして、FinTechによりもたらされる構造変革をリアルに予想するには、資本市場の構成要素ごとに分けてFinTechが与える影響を検討するのが実効性があると考える。

連載の方向性について

以上の問題意識の下、本連載では、資本市場、特に資本市場を構成する金融商品、取引主体、取引環境、規制などの構造面・実務面にFinTechが与える影響にフォーカスする。具体的には以下の内容について考えていきたい。

(1) 資本市場の取引対象である、有価証券・通貨などの金融商品がFinTechによりどう変わるのか。
(2) 個人投資家・機関投資家、金融商品取引業者、証券取引所、その他の市場関係者などの取引主体・市場参加者は、FinTechによりどのような影響を受けるのか。
(3) 口座開設手続、注文・約定方法、決済・入出金方法などの取引環境は、FinTechによりどのように変化していくのか。
(4) 金融庁、各種自主規制団体などの規制主体は、FinTechにどう向き合っていくのか。
次回以降、しばらくの間お付き合い願いたい。

三根公博、マネックス証券執行役員 この筆者の記事一覧