ひつじ不動産,ひつじインキュベーション・スクエア,シェアハウス
多数のシェアハウス情報を掲載(写真=リフォーム産業新聞)

「シェアハウスの戸数は、右肩上がりで拡大している」。そう話すのは、シェアハウス総合メディアサイト「ひつじ不動産」を運営する、ひつじインキュベーション・スクエア(東京都渋谷区)の北川大祐社長。6月7日に開催された不動産ビジネス実務学校のセミナーを再録し、シェアハウス流行の理由を探る。

増える事業者介入型

まず、シェアハウスとは何なのか。言葉の正確な定義は世の中にありませんが、私たちが考える定義は2。1つが、「入居者同士の交流を十分に楽しむことができること」。もう1つが、「屋内の共用設備を備えた住まいであること」です。

シェアハウスには、一般ユーザーが集まって運営する「DIY型」と、個人オーナーや管理会社など事業者が運営する「事業体介在型」の2つがあります。シェアハウスが増えているという報道がメディアでもなされて、実際に増えているのは「事業体介在型」。前者がおおよそ2000戸なのに対して、後者は現在2万戸以上存在します。

築古でも人気物件

なぜシェアハウスが増えているのか。それは賃貸市場において、シェアハウスが差別化住居だからです。現在、ワンルームの市場は、2割が空室の「買い手市場」。入居者はより良い部屋を探していますが、賃貸の競争力を決める要因は、ほぼ「立地」と「築年数」です。

空室になっている賃貸物件の競争力を高めるため、しばしば専有部のバリューアップ工事が行われますが、投資効率は良くない。全20戸の賃貸アパートを想定した時、専有部の水まわり設備交換などで1室50万円かかるとしたら、総額1000万円かかる。

気の利いた不動産業者は、専有部ではなく、外壁やエントランスの改修をしようと提案します。先ほどの例で言えば、外壁で300万円、エントランスで200万円かければ、専有部の費用の半分でも建物の価値はかなり向上するでしょう。

つまり投資効率を考えるなら、専有部改修より共用部の方が効果は高いということです。でも入居者の立場で言えば、そうではない。外壁やエントランスは、入居者にとって重要な暮らしの質とは関係ない、言わば商品の包み紙に過ぎないからです。

一方でシェアハウスにおける共用部改修はキッチンやリビング、浴室といった商品の一部ですから、投資効率と暮らしの質向上を両立しています。広いキッチンやリビングで、料理や映画を楽しむことは、豊かな暮らしの実現につながります。

このように、共用部を改修するシェアハウスは、企画や管理という差別化要因によって、立地や築年数といった不利を取り戻せる可能性があるということです。

商品がニーズを生む

「賃貸の床余り時代」という要因以外にも、晩婚化による単身者のニーズの変化など、マクロ的に見ればシェアハウスが求められる要因はいくつか考えられます。しかしこれらは、実際重要ではない。なぜなら、シェアハウスの流行は、技術の発展によるところが大きいからです。

シェアハウスが訴求する「楽しい家」、「人がいる家」というものは本来、時代や人を問わない普遍的なものです。しかしコミュニティ管理の難しさにより、普及が阻まれてきました。

例えば、共用部が不衛生になる、賃料の滞納が拡大する、入居者間の不和、騒音など、挙げればきりがない。シェアハウスは長い時間をかけて、「ハード」、「スキーム」、「オペレーション」それぞれの技術をブラッシュアップし、問題を細かく潰してきた。

つまり、市場ニーズによって生まれた「マーケットイン」ではなく、商品の誕生によってニーズが生まれた、言わばスマートフォンのような「プロダクトアウト」商品だと言えるでしょう。

生きがいを創出

このように、戸建てをシェアハウスに転用する技術については、それなりに体系化してきて、ちゃんと勉強すれば誰でも運営できるようになりました。そのため社会貢献、地域貢献を目的とし、シェアハウスを運営する個人オーナーも増えています。例えば、外国人向け住居や地域に若者を呼び込むシェアハウスなどです。

そして彼らが最も重視するのが、自分の居場所や生きがいを持てること。シェアハウス運営は、週末に昼食を振る舞ったり、季節のイベントを行い、入居者と関わり続けることができる。長く運営していれば、自分の家族のように、過去の入居者が遊びに来ることも珍しくありません。

このように経済的に換算できない要素によって、今後シェアハウスの需要はさらに拡大していくでしょう。現在20代後半から30代が入居者のメーン層ですが、それ以外の世代にも裾野は広がる可能性は大いにあります。

「ひつじ不動産」とは?

2005年にスタートした、シェアハウス情報、物件検索サイト。掲載物件数は、2200棟3万1000戸。月間2000~3000件の入居問い合わせが寄せられる。(提供: リフォーム産業新聞 6月21日掲載)

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