銀行と証券会社には超えられない垣根がある

私の提案をそっくり証券会社へ持っていった顧客の言い分はこうだ。

「申し訳ないが、銀行でこういう商品を買うのは不安なんだよ。結局、銀行は証券会社から商品を買って販売してるんだろ。それだけ余分な手数料を払わなければいけなくなる。こういう商品はやっぱり証券会社で買わないと不安なんだよ」

大口の契約が取れると思っていた私は唖然とした。契約が取れないばかりか、外貨預金まで流出してしまったのだ。

顧客の言い分はもっともだ。もし私が顧客の立場ならやはり同じことをしただろう。私は自分の提案が決してダメだったとは思わない。問題は、こうした金融商品において銀行は素人だと多くの人は決めつけている点だ。残念ながら、それは事実である。ほとんどの銀行員にとって外貨建の永久劣後債の提案など思いもよらない飛び道具だ。何10万ドルもの大金を素人同然の銀行の提案につぎ込むのは抵抗があるのは認めざるをえない。銀行と証券会社には超えられない垣根がまだあるのだ。

それでも銀行の優位性に変わりない

では銀行員は不利なのかというと、決してそうではない。むしろ銀行員は証券マンに対し大きなアドバンテージを持っている。それは情報と信用だ。

上述の会社がドルを持てあましていることを知ったのは、同社から頂いている決算書がきっかけだ。融資取引のある法人は決算書を銀行に提出して頂く。決算書は情報の宝庫である。会社がどこでどんな資産を有しているのか丸裸だ。

証券会社に決算書を提出する会社などどれだけあるのだろう。この点でも銀行には大きなアドバンテージがある。

そして落ちたとはいえ銀行には圧倒的な信用がある。新規訪問をしても〇〇銀行ですというだけで快く話をしていただけるのは本当にありがたい。地方銀行ではなおさら地元での信用力は圧倒的だ。銀行の看板があるからこそ商売が成り立っている部分は少なからずある。これは証券会社や保険会社には無いメリットだ。

さらに、銀行にはお客様差の口座の中身を全て見ることが出来るという、他の金融機関では真似の出来ないアドバンテージがある。証券会社ではどんなに熱心にセールスしても、最終的に「お金がない」という一言で前へ進めなくなってしまうこともあるだろう。

銀行員は、ターゲットとなるお客様に「余裕資金がある」ことを確認したうえでセールス出来る。家族構成も、勤務先も、給料振込の額も、ありとあらゆる情報が銀行の預金口座から読み取ることが可能なのだ。銀行員には下手な言い訳など通用しない。

銀行員と証券マンの勝負、トータルではまだ銀行員が有利と言える。もちろん、どちらを信用するかはあなた次第だが。(或る銀行員)