スナップチャット,ミランダ・カー
(画像=Webサイトより)

オーストラリア出身のスーパーモデルであるミランダ・カー氏は日本でも大人気だが、昨年から交際していた米ソーシャルメディア・スナップチャット(Snapchat)の共同創業者でありCEOのエバン・スピーグル氏にプロポーズを受け、婚約を発表して話題となった。

ちなみにスピーグル氏の純資産は、21億ドル(約2200億円)であり、彼が率いる非上場のスナップチャットの企業価値は200億ドル(約2兆1000億円)と評価されている。

スナップチャットは、最大10秒しか表示されずに消えてしまう写真やメッセージをやり取りする「後腐れなし系」のSNSアプリで、5年前に始まったばかりだが、毎日のユーザー数は1億人を突破し、先発の巨大SNSであるフェイスブック(同16億人)やインスタグラム(同5億人)を脅かす存在に成長中だ。

このスナップチャット、実は今、投資家の熱い視線を浴びている。どんなアプリかを解説しながら、「投資先として、ここがスゴイ」理由を見ていこう。

10代や20代の圧倒的な支持

今春に米ティーンを対象に米投資銀行パイパー・ジャフレイが行った調査によると、28%の回答者が「一番重要なSNSは、スナップチャット」と答え、初めてインスタグラム(27%)を抜いた。さらに、1億人のユーザーのうち13歳から24歳の層が60%を占めるなど、「おじさん化・おばさん化」するインスタグラムと比較して10代や20代の格好の「隠れ家」になっており、彼らの圧倒的な支持を受けている。

その最大の理由は写真や、日常をまとめた「ストーリー」を含む動画、テキストメッセージがすぐに消滅するところにある(今月に、ごくマイナーな「残す」機能も追加された)。筆者は3年前から高校生の娘に勧められてスナップチャットをしているが、「なんでも記録に残したい」「写真を整理して思い出にしたい」「連絡の証拠を残しておきたい」と考える大人としては、大変使い勝手が悪い。

たとえば、うっかり娘とスナップチャットで連絡を取ると、あとで事実が確認できなくなることがある。先日もスナップチャットで、「お母さんとフローズン・ヨーグルト食べてるの」と知らせてきた。ところが後日、「あれは、いつだったかな」とアプリを見返しても、そこには何も残っていない。

そこで、「これでは確かめられない」と文句を言うと、「あんなことは、大したことがないから消えてもいいでしょ」と返される。大事なことや思い出は、別のアプリで残し、使い分けているのだ。

娘は親友たちと、目も当てられない変顔の写真をスナップチャットで交換して爆笑している。「恥はかき捨て」だ。変顔ならまだ良いが、他の多くの利用者はヤバいヌードなども見せ合っている。「ちらっと、3秒だけなら見てもいいわよ」というわけだ。

スナップチャットで送られてきた写真や動画は、1回のリプレイができ、スクリーンショットも残せるが、それは流儀に反する行為だ。スクリーンショットは相手側に通知が表示され、非常に嫌がられる。

リア充を演じなければならないインスタグラムとは別の、素の顔が出せるからこそ、若者が支持する。ところが、利用者にとっては「消えた」はずの写真や動画はスナップチャットのサーバーに同社の所有物として永遠に残り、主に広告目的に分析され、利用されている。ここに、目の高い投資家が注目している。

10秒で消えた写真は残り続け広告に活用される

スナップチャットは昨年5900万ドル(約62億円)の売上があったが、赤字であり、利益を出す道のりは遠い。だが、クレディスイスのアナリストは「案外、黒字化は早いかも知れない」と見る。

その理由は、友人や家族の日常をまとめた「ストーリー」を含む動画の合間に再生される10秒以下の広告動画の「視聴率」やユーザーの反応が極めて良好で、スナップチャットが競合のインスタグラムやフェイスブックより効果的な媒体だと広告主に見られていることだ。映像広告注視率は、フェイスブックの2倍、インスタグラムの1.5倍を誇る。

また、瞬時に消えるはずの利用者の写真や動画は、スナップチャットのサーバーに保存され、映り込んでいる物体や人物が徹底的に分析された上で、ユーザーの好みに合った商品やサービスの広告がパーソナライズされて出るようになる。これは特許を取得済みだ。

米国では、可処分所得が増える18歳から34歳の若年層の41%が一日最低一回はスナップチャットを利用しているため、企業にとっては広告費のトップターゲットになる。

こうしたなか、スナップチャットの新規上場(IPO)が近づいているとされるが、上場以前に投資家は熱狂している。今年の4~6月期に、スナップチャットは何と18億ドル(約1887億円)ものベンチャー投資を集めた。出資者には、上場済みのアリババやヤフーなども名を連ね、期待度の高さを物語っている。ある著名投資家は匿名で、こう語っている。

「スナップチャットのように成長に勢いがつくと、投資家たちがわざわざ出向いて来て、『投資させてくれ』と頼み込むようになる。できるだけ償還が長期のポジションを取るのだ」。投資先としてのスナップチャットから、しばらくは目が離せない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)