所得増加を考慮せずに緊縮財政に向かうと、デフレ圧力に

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続し、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだ。

内閣府の試算から推計してみると、2020年度における企業貯蓄率はわずか-0.6%程度のマイナスでしかない。更に、高齢化により、国の社会保障の支出が毎年1兆円程度増えるので、増税などで同額の財源を手当てしなければいけないというのもマクロ経済学的には問題が大きい。国の社会保障の支出は国内の所得を生むことを考えれば、1兆円のすべてではないが多くの部分が税収の増加として国に返ってくると考えられるからだ。

よって、所得の増加を全く考慮せずに、ミクロの会計のように1兆円の支出の増加に対して1兆円の増税をしてしまうと、緊縮財政として景気に下押し圧力がかかってしまうとともに、デフレ圧力をかけてしまうことになる。将来の支出の増加に対応するために前もって増税を行う、2014年の消費税率引き上げのような政策はより破壊力があり、アベノミクスのデフレ完全脱却のモメンタムを消してしまった。

そのデフレ圧力が実質金利を上昇させ企業活動を萎縮させてしまえば、生産性の向上を生むイノベーションも起こらず、高齢化による需要をまかなえなくなるリスクが大きくなってしまう。

リフレ政策で経済のパイを大きくすることが日本には必要

過剰な危機感による過剰な準備が、余計に危機のリスク高めることになる。

高名な国際政治学者であった高坂正堯氏の名著「文明が衰亡するとき」(新潮選書)の、「衰亡は、避けなくてはならないという気持ちをへたに持つと、かえって破局が早くやってくるというところがある」という警句は、現在の日本に一番よく当てはまる。

国内貯蓄が潤沢にある間はリフレ政策による企業活動の刺激で経済のパイを大きくすることを目指すことがよく、国内貯蓄に不安がある時は社会保障の支出の削減や大きな増税などの早急な財政再建が重要となる。

どう見ても日本は前者であり、内閣府の試算は大規模な経済対策の継続を正当化しており、デフレ完全脱却のモメンタムを最大限に大きくすることが必要であろう。いまだに財政の議論の多くは、会計のミクロ経済学の方法論の数字合わせで硬直化し、マクロ経済学としての柔軟性が欠けているのは問題である。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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