緊縮財政,経済政策,デフレ脱却
(写真=PIXTA)

内閣府の中長期の経済財政に関する試算は、2020年度の国と地方の基礎的財政収支の黒字化の目標の達成は困難であり、財政再建を加速させなければいけないという論調の根拠となってきた。

高い民間貯蓄率は財政再建を急がなくても良い根拠

確かに、経済再生ケースでも、2020年度の赤字は5.5兆円も残る推計となっている。しかし、家計と企業を含んだ貯蓄投資バランスのマクロ経済学の視点では、この試算は、長期にわたりかなり高い民間貯蓄率が維持される。財政再建を急がなくてもよく、デフレ完全脱却に注力できるという間逆の根拠になる。

内閣府の試算では、2020年度の民間貯蓄率(企業貯蓄率+家計貯蓄率)の前提がGDP対比+6.9%となっており(家計貯蓄率は+7.5%程度とみられる)、そして国際経常収支の前提は+4.4%の巨額の黒字となっている。

より慎重なベースラインケース、そして団塊世代が75歳程度となり医療費を含む社会保障費が膨張するとされる2024年度まででも、民間貯蓄率は2020年度+6.9%・2024年度+6.9%、国際経常黒字は2020年度+3.9%・2024年度+3.3%と巨額であることに変化はない。

巨額な民間貯蓄と国際経済黒字は内需が弱い証拠

高齢化が進行し、家計の貯蓄率が低下し、国際経常赤字に陥り、財政ファイナンスが困難化するリスクがあるので、財政再建を急がなければいけないという状態にはまったく見えない。マクロ経済としては、高齢化などにより国の社会保障の支出が増加すれば、それは国内の所得を生むことになる。

その支出の増加による所得の拡大が消費の拡大にもつながり、総供給に対する需要超過幅が大きくなってしまえば、家計貯蓄率の低下とインフレの高騰、そして海外からの供給に頼ることによる国際経常赤字に陥ることになる。

そのようなシナリオが前提であれば、経済活動を安定させるために社会保障の支出の削減や大きな増税などの財政再建が急務となる。しかし、内閣府の試算では、経済再生ケースでもベースラインケースでも、民間貯蓄率は高く、国際経常黒字は巨額であり、そのようなシナリオになっていない。

一方、需要超過がそれほどでもなければ、社会保障の支出の削減や大きな増税などの早急な財政再建は必要なく、国の社会保障の支出の増加による需要の増加は経済成長率を押し上げることにもなる。言い換えれば、民間貯蓄率が高すぎ、国際経常黒字が巨額すぎることは、国内需要がまだ弱いことを意味し、少しのショックでデフレに逆戻りしてしまうリスクが残っていることになる。