「え!?病気じゃないのに、骨折したら保険に入れないの?」
病気になると保険に入れないという事は、皆さんも、耳にされたことがあるでしょう。 テレビやラジオコマーシャルで「○○でも入れます!」というセリフを聞くことはあっても、「○○では入れません!」を、わざわざ15秒に入れる保険会社はまずないので、ご存じない方が多いかもしれません。
冒頭のセリフを言った相談者は、「骨折」を経験した方でした。骨を折ったぐらいで…と思うなかれ。
今回は、骨折を経験された方の、保険加入までの経緯をお話ししましょう。
臨床医学と保険医学の違いとは
保険の仕事をしていて感じる、加入を検討される契約者に最も多い「勘違い」は、「臨床医学と保険医学の違いを理解されていない事」です。
「自分は健康だから保険に入れる」と、至極当然のごとく思われる方が一体どれほどかというと、肌感覚で申し訳ないのですが筆者の思うところ、90%以上と言っても過言ではないと思います。臨床医学が、患者個々の身体に対して精密検査を行い、必要であれば治療を行うのに対して、保険医学は、大量のデータから各年齢や性別に応じた病気の罹患(りかん)率、死亡率を導き出します。
例えば、ある血液検査での数値が通常値より高く、その数値の方がガンにかかる確率が高い、というデータがあるとします。その方が病院で再検査を受け、医師から「問題は無い」と言われ治療もしなかった場合、当然本人は「何もなかったのだから、保険に入れる」と思われるかもしれません。これが臨床医学の現場で、皆さんが思われている「健康か、病気か」の分別をつけるところではないでしょうか。
対して保険医学では、「◯歳の男性で、数値が◯の場合、◯年以内にガンにかかる確率が、正常値の方の◯倍になる」というデータがある場合、「この人の場合は、正常の人より◯倍ガンにかかる確率が高いから、正常の人と同じ保険でのお引受けは出来ない」という結果、つまり「保険を断られた」という結果になるのです。
これが臨床医学と保険医学の違いです。
健康診断を受けないほうが、保険に入りやすい?
また、逆の場合もあります。
毎年健康診断を受けられて、年齢相応の数値が並ぶ方。対して、何十年も全く健康診断を受けずに、たまたま入院などをする事もなく過ごされた方の二者がいるとします。まだ診断はされていないものの、果たしてどちらが病気を体内に潜伏させている確率が高いか。
後者だと思う方は多いのではないでしょうか。筆者も同様です。しかし保険医学では、「告知」が基準となるため、存在し得ない数値や診断は、書き様もなく、全く検査を受けていない人は、検査を受けて数値がパーフェクトの方と同じ「告知の回答」になってしまうのです。
つまり後者の方、何十年も健康診断を受けられていない人は、ほぼ告知扱いの保険には、加入できてしまう、という事です。
うな重の「特上」と保険の「特条」
さて、本題の「骨折」についてですが、一口に骨折と言ってもさまざま。ギプスをし、松葉杖をするイメージの「下肢骨折」は、「完治」して満2年が経過している場合、ほぼ無条件で保険加入することができます。
もし2年を経過していない場合は、保険に加入した当初から数年間は、その部位に対する「不担保」の特別条件付契約となります。その部位に対しては、後遺症含め、一定期間事故や怪我など外傷の保障がされないという条件を承諾いただけるのであれば、保険会社は加入を認めますよ、というものです。
業界の人間は、「条件付」や、「特条」などと省略して呼ぶことがありますが、筆者の好物の、うな重の「特上」の様に、いい意味の「とくじょう」ではないのです。
相談者は1年前に骨折をし「完治」はしていた為、当然何の条件も無く保険加入が出来るだろうと思っていたのですが、上記のとおり「契約日から2年間の部位不担保」の条件付契約となりました。
死亡保険金を削減されることも
また、「骨折」といっても先の相談者のように「下肢」のような軽微な扱いの部位に対して、「脊柱」や「頭蓋骨」といった骨折の場合はどうでしょうか。さすがに一般の読者の方でも、「脚の骨折と頭蓋骨骨折は、一緒の扱いにはできないな」と感じていただけるかもしれません。
こういった頭蓋骨骨折などの場合、医療保険では、先の下肢骨折と同じような基準にさらなる条件が加わります。完治から満3年未満での死亡保険への加入の場合、たとえ治っていても「保険金削減」という条件が付くのが一般的です。何も条件が付いていない方と比べて、同じ保険料を毎月支払っていても、万一の時の保険金額が何割かカットされてしまうのです。
「入れるうちに入っておく」ことも大切
よく保険営業の人間が「入れるうちに加入しましょう」というのは、脅しでも何でもなく、本心から言うことが多いのです。なぜなら、営業サイドは、数多くの「条件付契約」や、もっといえば「引受不可=謝絶(保険加入を断られること)」のお客様を、何人も見てきているからです。
だからといって、事故の経歴を詐称して、「告知」をしないでおこうなど、安易な考えは絶対に禁物です。きちんと正しく告知を行い、保険会社によっては正確なデータなどを追加提出すれば、緩和される可能性もあります。そのときにできる最善の方法をとり、審査結果を待つのみです。
お分かりいただけたでしょうか。 「自分は健康だ」」という認識と、「無条件で保険加入できる」というのは、全く別次元の話なのです。
佐々木 愛子
ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員二種、相続診断士。国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代に、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶことの大切さを訴え活動中。
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