子供のように「なぜ」を繰り返そう

では、問題発見の能力を高めるために、普段からどんなことを心がければいいでしょうか。問題発見力のトレーニングとしてお勧めしたいことがいくつかあります。まず、「なぜ」というこだわりを常に持つこと。

今夜の食事は「中華よりイタリアンがいいな」とふと思ったら、「なぜ自分はそう思ったんだろう」と考えてみる。電車で雑誌の中吊り広告を見たら、「なぜこんな見出しを選んだのだろう」と考えてみる。自分が何かを選択するとき、さまざまな物事を見聞きしたときなど、常に心のなかで「なぜ」と問う習慣をつけるのです。

このトレーニングは、前述した「なぜ問題なのか」を捉えるための訓練になるだけでなく、「考える」ことすべての基礎となる練習でもあります。「なぜ空は青いの」「なぜ川は流れているの」となんでも「なぜ」を問う子供の純粋さは、ものを考えることの原点です。だからこそ、ギリシャの哲学者ソクラテスも「なぜ」と問い続けたのでしょう。

二つ目に、「比べる」クセをつけること。比べるとは、二つ以上のものの同じところと違うところはどこかを考えることです。これも、ごく日常的にできる訓練です。

たとえば、テレビでニュースを見て「先月あったのと同じような政治家の金銭スキャンダルだけど、騒がれ方はずいぶん違うぞ。たとえば……」などと考えてみるのです。問題発見には、現状とあるべき姿の比較が必要でした。普段から、比較の視点を持つことは重要です。

自信のある人ほど他者と共有できていないかも?

そしてもう一つが、紙の新聞を読むようにすることです。スマホでニュースを読める時代に、あえて紙の新聞を読む理由はいくつかあります。ネットニュースの並び順は送り手が決めているのに対して、紙の新聞では紙面上の記事を見比べて自分で優先順位をつけられること。また、紙の新聞では、関心のあるニュース以外も目に入ってくる可能性が高いので、新たな発見、気づきがあること。これによって視野が広がるし、自分の立場にこだわらず、さまざまな視点から物事を捉えられるようにもなります。すると、他人の「ものさし」や、他人にとって重要な問題を尊重できるようになるわけです。

ビジネスマンの仕事は、他者との関わりなしに成り立ちません。問題解決にあたっても、一匹狼で行動するわけではないはずです。そう考えると、むしろ問題発見力に自信がある人ほど気をつけなくてはいけません。「自分だけがこの問題に気づいた」とか、「みんなはこんな問題にも気づかないのか」といった思い上がりは禁物です。繰り返しになりますが、問題は、みんなで共有できて初めて意味があるのですから。その意味での問題発見ができる人こそが、リーダーになれるのではないでしょうか。

問題発見とは、そして思考することとは、他者を理解し、他者を尊重することでもある。そのことを忘れないでほしいと思います。

伊藤真(いとう・まこと)弁護士/伊藤塾塾長/日弁連憲法問題対策本部副本部長
1958年、東京都生まれ。81年、東京大学法学部在学中に司法試験に合格。82年、大学卒業後、司法修習を経て弁護士登録。95年、「伊藤真の司法試験塾(現 伊藤塾)」を設立。2009年、「一人一票実現国民会議」の発起人となり活動している。日本国憲法の理念を伝える伝道師として、講演・執筆活動を精力的に行なう。著書は多数あり、中でも『伊藤真 試験対策講座』シリーズ(弘文堂)は、法律を勉強する多くの人に広く読まれている。(取材・構成:川端隆人)(『 The 21 online 』2016年8月号より)

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