遺言書,相続
(写真=PIXTA)

「遺言書」、60代以降の方がこの言葉を耳にして、喜ばしく感じることはあまりないだろう。子ども世代も同様、少し重たく、出来るなら後回しにしたい要件のうちの一つではないだろうか。しかし、困るのは本人ではなく遺族だ。今回は、親に遺言書を書いてもらう、とっておきの方法を紹介したい。

困るのは故人となる本人ではなく、遺族

筆者がFPとして日々の業務で感じるのは、相続対策や遺言書作成に対する「いつかはやらねば」の先送り思考は、保険と少し似ているということだ。本来、保険は「起こるか起こらないか分からない」出来事に対して、「起こった場合のリスクヘッジ」の方法として検討するもの。対して、遺言書が必要になるケースは「必ず起こる」ことで、少なくとも60歳の人の場合、30年以内にはほぼ起こる。

ただ、がん保険や就労不能保険と違って、コトが起こったときに"本人"は困らない。また、仮に生きていたとしても認知症になってしまったら本人に自覚は無いし、相続が発生すれば、言わずとも本人はこの世にいないからである。ここが大きなポイントと言えよう。困るのは本人ではなく、遺族なのだ。

相続時に遺言書がないと困る3つのコト

遺言書がない場合、相続発生時、相続人が困ることを順に挙げていこう。まず、財産目録を作るにあたり、「プラスの資産」と「マイナスの資産」を整理する。全ての銀行口座、証券口座、不動産や債権などから、クレジットカードや各ローンの残債など、一覧にする。

役場にいき、被相続人(故人)と相続人の戸籍謄本から、法定相続人を割り出し、法定相続人全員で「遺産分割協議」を行い、全員の署名を取り付けて「遺産分割協議書」を作成する。遺産分割協議で合意した内容に沿って、名義変更などを行い分割が終了する。

かなり簡略化しても上記の通り相続は行われる。実際には何度も役場へ足を運び、住民票や印鑑証明書の取り付けを行う必要があり、もし相続人の中で遠方に住んでいる人がいたり、仲違いした人がいたりする時は、事は尚更面倒になる。

他にも葬儀の実施や、相続税を相続発生から10カ月以内に納税しなければならず、日々の暮らしがひっくり返るほど、やることが多いのだ。

読者世代が先の事項を分かっていれば、いますぐにでも親に「遺言書を書いて!」と思わないだろうか? 亡き人が正当な方向性を示しておいてくれれば、多少配分に差があったとしても、その人の「意向」を汲むことで、余計な争いを避け、協議の数を極限まで減らすことが出来るだろう。遺言書を用意しておくことは、相続人同士で遺産を巡る争い「争続」をある程度防げる効果があるのだ。