松下幸之助
(画像=Webサイトより)

9歳で和歌山から上阪、自転車店などに奉公したのち松下電気器具製作所(現パナソニック)を創業、一代で世界的企業に育てあげた経営の神様・松下幸之助(1894-1989年)。孫正義、柳井正などが尊敬する経営者としてその名を挙げ、「松下幸之助女子」なる存在も注目を集めるなど、没後25年以上を経てなお、その人気は衰えを知らない。

そんな幸之助の思想・哲学を学べる著作、評伝5冊を紹介する(本文敬称略。文中価格は紙版、税込み)。

累計510万部 戦後第2位の大ベストセラー

『道をひらく』(松下幸之助著、PHP研究所、940円)

幸之助は松下電気器具製作所を創業し発展させる一方で、終戦直後の人心荒廃を憂い、1946年にPHP研究所を創設し、倫理教育、研究、出版等の事業を始める。PHPとは「Peace and Happiness through Prosperity」の頭文字をとったもの。「物心ともに豊かな繁栄によって真の平和と幸福を」という幸之助の願いが込められている。

『道をひらく』は、幸之助がPHP研究所の機関誌に連載した短文から121篇を選んだもの。「志を立てよう」「心配またよし」「真剣に叱られる」「こわさを知る」など、平易な言葉で語られる普遍的かつ正鵠を射た内容は、性別・年代・職種を超えて心に響く。迷ったときには進むべき道を、挫折したときには希望を、成功者には戒めとさらなる目標を与えてくれる、まさに永遠の座右の書。幸之助の思想・哲学を学ぶ入門編にして真髄と言える一冊。

すべての働く人・働きたい人へのヒント

『社員心得帖』(松下幸之助著、PHP研究所、514円)

「幸之助は稀代の経営者。一介の平社員の自分とは違う」「学生の自分とは関係ない」と考える方もいるかもしれない。そんな方がたへのオススメが『社員心得帖』だ。新入社員にとっては企業で幸せに働くための必読書である一方で、上司や先輩社員にとっては社員教育の教科書でもある。「会社で間違いなく部長にはなれる秘訣」「無理解な上司や先輩にどう対応すべきか」など、時代を超えて役立つ、しかも無理なく実践できる心得が並ぶ。

本書の言葉が響くのは、幸之助の説く内容が、企業を成長させようとする経営者の視点ではなく、「こう考えたほうが、あなたは幸せに生きられる」「こうしたほうが仕事は楽しい」という視点で貫かれているからだ。働く意味が見出せなかったり、ブラック企業で命を削ってしまう若者が多いなか、本書から学べること、本書で救われる人は多いに違いない。

夢と理念が込められた「神様の履歴書」

『私の履歴書 松下幸之助 夢を育てる』(松下幸之助著、日本経済新聞社、540円)

日本経済新聞に連載された原稿をまとめた幸之助の自伝。主に創業からの55年間、1973年に会長を退いて相談役になるまでの、経営者としての歩みに焦点が当てられている。

ここで展開されているのは、幸之助が考える、企業を経営するうえでの要諦である。生産者の使命についての「この世に物資を満たし、不自由を無くするのが務め」という記述や、「経営は(人間の共同生活をよりよい姿にかえていく)総合芸術」など、これまで数多の経営者に影響を与えてきた言葉が並ぶ。コンパクトながら経営と仕事の本質を学ぶことができる良書である。

幼少期からの足跡をいきいきと描く評伝

『天馬の歌 松下幸之助』(神坂次郎著、新潮社(のちにPHP文庫)、品切重版未定)

幸之助の自伝では「9歳で丁稚奉公に出て以来、働きづめで創業に至る」という歴史は語られるものの、少年期・青年期の詳細はあまり書かれることはなかった。しかし本書では、著者が資料を丹念に掘り起こし、幼少期の和歌山時代から大阪での火鉢屋・自転車屋での丁稚時代、大阪電燈株式会社勤務時代にもかなりのページを割いて、その心情と成長のようすを描き出している。

寂しがり屋で泣き虫だった少年時代にコマに夢中になった話や、自転車競争の選手になってレースに出た顛末、初恋とも言えるようなエピソードまで、少年期・青年期の「人間・松下幸之助」の心に触れることができる好著。惜しむらくは2016年10月時点で品切中であることだが、古書店や図書館などで探してぜひ読んでみていただきたい一冊である(Kindle版は提供中)。

「松下哲学」の継承者・伝道者が語る珠玉の言葉

『猿は猿、魚は魚、人は人 松下幸之助が私につぶやいた30の言葉』(江口克彦著、講談社、1404円)

著者は36歳でPHP研究所の経営を任され、幸之助の晩年23年間にわたって仕えた側近中の側近。本書は幸之助から聞いた言葉とそれに関連するエピソードをまとめたものである。

新しい仕事を命じるときに添えた「この仕事、君に手伝ってもらわんとできんよ」という一言。原稿について外部から抗議を受けて悩む著者への「心配せんでいい。それよりも、日本をよくしたいという志をなくしたらあかんで」という言葉。講演録や著作には見られない現場での幸之助のようすが垣間見え、その哲学を学ぶことができる。1970年代後半には「ソ連は、まもなく崩壊すると思うわ」と語ったという、先見性を示す逸話も興味深い。

もちろん、松下電器産業が一大電機メーカーに成長していった時代と現代とでは、社会状況は大きく異なる。グローバル化が進み、モノは溢れ、人びとの価値観も働き方も大きく変化した。それでも松下幸之助の人気が衰えず、その言葉に人びとが普遍的な価値を見出すのは、「松下哲学」の根幹に、数字だけを追うのではなく、社員を、顧客を、つまり人を大切にする精神があるからではないだろうか。

上記以外にも講演録や語録など、たくさんの関連本がある。これまであまり関心がなかった人も知っているつもりの人も、手近にある一冊をぜひ一読していただきたい。(ZUU online編集部)