2016年10月31日から11月1日に行われた日銀金融政策決定会合では、現在のマイナス金利政策の継続が発表された。不動産への投資意欲は、この低金利に加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの期待感、インバウンドの堅調な増加、海外からの投資資金流入、消費税増税前の駆け込み需要、などを併せて考えると、当面は冷めることはまだ先と考えるのが妥当であろう。

しかし、一方で少なからず不動産投資に失敗する人々がいるのも事実である。不動産投資を実行する前に、その失敗例を知り、今一度リスクを冷静に理解し、対策を講じておく必要がある。

目次

  1. 不動産投資の3大リスク「その1」商品特性からくるリスク
  2. 不動産投資の3大リスク「その2」収益性低下リスク
  3. 不動産投資の3大リスク「その3」資産価値低下のリスク
  4. 不動産投資リスクへの対応策
  5. リスクヘッジとしてのREITの活用

不動産投資の3大リスク「その1」商品特性からくるリスク

不動産投資のリスクは、大きく以下の3つに分類できる。
1. 商品特性が招くリスク
2. 収益性低下リスク
3. 資産価値低下リスク

商品特性が招くリスクとは、投資の対象が不動産ということ自体に由来するリスクを指す。具体的には、投資金額が大きいこと、流動性が小さいことである。

不動産の価格は、区分所有のマンションで数百万円から、1棟売りマンションなどでは数億円となる。それだけの大きい金額を投資するということは、損失の額も投資金額に応じて大きくなる可能性があるということだ。

また、投資金額が大きくなると、自己資金だけではなく融資を利用することが必要となるケースも多くなる。融資を利用する場合は、元金返済に関するリスク、金利に関するリスクが生まれる。融資金額が大きければ大きいほど、元金返済額および金利の返済額はキャッシュフローを圧迫する要因となる。超低金利の現在は金利のデメリットは小さいが、それゆえに今後の金融政策の変動による収益やキャッシュフローへの圧迫リスクは大きくなっているともいえる。

流動性が小さいことも、不動産投資のリスクとなる。流動性が小さいということは、換金に時間がかかるということである。急にお金が必要な事情が起こったり、収益性が低いので投資から撤退したいと考えたりした場合でも、不動産の投資物件を売却して現金化するのには、早くても数ケ月かかるのが一般的だ。

物件が高額であったり、収益性が悪かったりすると、しばらくの間売却の目途が立たないということもあり得る。売却の意思決定から現金化までのタイムラグは、投資環境が悪化した場合に大きく損失を拡げる可能性がある。

不動産投資の3大リスク「その2」収益性低下リスク

収益性の低下リスクとして、ここではインカムゲインの低下の理由を考えてみよう。インカムゲインとは、資産を保有することで安定的・継続的に得ることのできる収益をいう。不動産投資においては家賃収入(収益)と考えてよいであろう。家賃収入の低下を招く理由として想定できるリスクは、空き室、家賃の低下、滞納、コスト増としてのリスクは管理・修繕コストの上昇などが考えられる。

区分所有で一部屋のみの投資を実施した場合、空き室となってしまうと、収入が全くない状況となる、という大きなリスクがある。1棟マンション投資の場合でも、8部屋の小規模マンションの場合、1室でも空き室が出ると収入は12.5%も下がってしまう。空き室による収益低下リスクは、たとえ1室だけでも収益に与える影響が多大であることを理解しておく必要がある。

また新築マンションなどは、当初は新築プレミアムといわれるように、賃貸料を相場より高めに設定することは可能である。しかし、いったん人が居住したあとは、新たな入居者にとっては中古マンションに過ぎなくなるため、賃貸料の下落は避けられない。

いつまでも新築時代の賃料を想定できるわけではないことを認識しなければならない。中古であっても、設備や仕様の老朽化や陳腐化、近隣に同規模の新築が増える、などの環境の変化から賃料を下げざるを得ない状況も想定される。

また、どんなに入居者を厳選したとしても、家賃滞納のリスクは存在する。家賃の滞納は空き室と同様の収益圧迫を意味する。

空き室や家賃の低下を防ぐためには、適切なメンテナンスとタイミングのよい入居者募集が必要となるため、管理会社と契約することが望ましいが、その場合、管理会社の質とコストといった新たなリスクも生じることになる。管理会社が適切な維持管理を行うことができない、不当に高いコストを要求する、倒産する、などのリスクだ。

また、購入時には思いもよらない修繕費が発生するリスクもあり得る。現況で使用に耐えられる設備だからといって、来年も使用できる設備なのかどうかの保証はない。経年劣化による設備の不具合では、売主の責任を問うことはできないからだ。

不動産投資の3大リスク「その3」資産価値低下のリスク

建物に関していうと、資産価値は新築時から、経過年数にしたがって低下するといってよい。新築時は建設原価+販売マージンで構成される取引価格も、いったん人が住んでしまえば償却が始まっているとされ、7割程度の評価にしかならない。木造では20年経てば金融機関の担保評価は0となるのが一般的である。

区分所有マンションは近隣の取引事例をベースに評価されることが主であり、最近では、建物は使用価値や、どれだけの収益を上げることができるか、という収益還元法で評価されることも多いが、あくまで賃貸料自体が相場で価値が決定するため、資産価値の低下リスクは今後も存在する。

土地の資産価値も、建物ほどではないとはいえ、景気変動により下落するリスクは存在している。また、地震や火災で、建物自体が存在しなくなる、ということが起こりうることも覚えておくべきだろう。

不動産投資リスクへの対応策

商品特性が招くリスクへの対応策として、一番簡単な方法は、融資を受けないことだ。とはいえ、それでは不動産投資ができない場合が多いであろうし、現在の低金利を利用することもできない。したがって、まずは自己資金を精査し、その3倍程度の融資を限度として無理のない事業計画を立ててみることが必要だ。現実にキャッシュフローに余裕が生まれれば、繰り上げ返済をすることもリスクの低減に繋がる。

また、融資の際に、現在の低金利をフルに満喫しようと変動金利を選択する方も多いが、現在の金利が最低水準であることを鑑みれば、水準を比較したうえで、固定金利を選択すれば、将来の金利上昇リスクをヘッジすることになる。

収益性低下リスクへの対応としては、まず立地のよい物件を選ぶことが最大のリスクヘッジとなる。地方の高利回り物件などは、土地代が地方ゆえに安く、大学や工場、ショッピングモールなどの特定の賃貸需要に頼っている場合が多い。

全国的に少子化、老齢化が進んでいる現在、いつその特定需要を形成するそのものが、地方から撤退するかもしれないという危機感を持つべきであろう。東京都や、地方でも政令都市や県庁所在地などの人口が集積する都心部で、駅などの交通の便がよい立地を選定した方が、多少利回りが低くてもリスクは少ない選択となる。

部屋の設備や仕様のメンテナンスも重要である。その場合、やはり信頼できる管理会社と契約することがリスクの低減となるであろう。修繕コストなども安く手配できるし、人気の設備や施設も熟知しているため、募集に関しても力になるであろう。滞納や空き室リスクに関しても保証契約ができる管理会社もある。賃貸住宅管理業登録制度に登録している管理会社であればとりあえずは安心できるだろう。管理戸数や創業からの年数など実績をみて、管理会社を決定することがリスクの低減に繋がる。

資産価値低下のリスクについても、やはり立地選定が大きなポイントとなる。立地がよいところは資産価値が減少するリスクは少ない。また人気があるということは売却時などの流通性を確保することにも繋がる。地震リスクの低減のためには、まず1981年以降の新耐震基準をクリアしている物件を選択する必要がある。建築確認の検査済証を確認して1981年以降に発行されているかが一つの目安となる。検査済証のない建築物は、購入しない方が無難であるし、金融機関の融資も期待できないと考えてよいだとう。

また資金的に余裕があれば、エリアを分散して投資するのもリスクの低減となる。火災のリスクについては、木造よりも鉄筋構造の方が望ましい。また立地条件として、全面道路幅が狭くなく、消防車の通行に不便がないこと、木造住宅が密集している地域は避けること、がリスク低減策となる。

リスクヘッジとしてのREITの活用

不動産投資の金額が大きいことに対してリスクヘッジをしようとするならば、REIT(不動産投資信託)の活用を考えてみてはいかがだろう。積み立てタイプの小口投資もあるので、金額的な問題は解決するだろう。

また、金融商品化しており市場もあるため、資産価値低下のリスクが高いと判断した場合は、空売りから市場に入れば、不動産価値が低下するような局面では、買い戻し差益を生むことが期待できるので、リスクヘッジとなりえる。現物の不動産投資のリスクが高いと感じる方は、REITを上手に使うことも選択の一つだ。

不動産投資のリスクと対応策をご紹介してきたが、リスクとリターンは裏表の関係である。株式投資やFXに比較して、安定的な収益を長期間期待できるメリットがある。また、融資を活用して、自己資金以上の投資をすることも可能な投資である。

リスクを怖がりすぎては、投資はできないということにしかならない。どのようなリスクを重視しどのような対応をしていくのか、リターンと比較しながら慎重に決定していくことが重要であろう。