星野源さん、新垣結衣さん主演で話題のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥)は、主人公たちが「契約結婚」をするという設定だ。「契約結婚」は法的にアリなのだろうか。
まず「契約結婚」とはそもそも何なのか、という前提を確認しておこう。ドラマ「逃げ恥」の設定とはやや異なるかもしれないが、分かりやすくするために、家事代行サービスを提供する女性(被用者)と、そのサービスの提供を受ける男性(雇用者)とが、雇用契約や請負契約を締結するのではなく、実体がない(性交渉もない)にもかかわらず夫婦を称し同居するものという前提にしよう。
違法・不法な目的がある場合
ここで法的な問題が生じると考えられるのが「目的」だ。例えば、在留資格の取得目的や脱税目的など、違法・不法な目的があるということであれば、いわゆる偽装結婚になる可能性が高いだろう。
婚姻の意思がないにもかかわらず婚姻届を提出すること自体、公正証書原本不実記載罪(刑法第157条第1項)に該当することになる。「公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた」として、公正証書原本不実記載罪に該当することになる。この場合、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。
また扶養手当を受け取る目的だという場合も、法的問題を生じるおそれがある。仮に夫婦でない場合には扶養手当を受けることができないはずであるにもかかわらず、夫婦であることを偽装して扶養手当を受けているということであれば、詐欺が認められることになるだろう。
では単なる対外的な見栄、「いい年をして独身だと家族や周囲に言われるのが嫌で結婚する」のはどうだろうか。
さすがにそのような目的に法律に違反するものは認められないだろう。この場合に婚姻の実体がないと言われたのでは、世の結婚の多くは実体がないということになってしまうのではないだろうか。
夫婦関係を隠れみのとして労働法規制を免れていないか
次に問題となるのは、労働法規制の潜脱だ。雇用者と被用者の関係であれば、労働法の規制に服することになるが、夫婦関係を隠れ蓑として労働法規制を免れているのではないかという疑念だ。
例えば、週40時間・1日8時間の労働時間の原則(労働基準法第32条第1項・第2項)や最低賃金の定め(最低賃金法第4条第1項)などについて、夫婦関係という名目の下に遵守しないことが考えられる。
同居しているということだけをもって問題をクリアできないか
先に挙げた違法・不法な目的の問題や労働法規制の潜脱の問題は、同居しているということだけをもってクリアできないのだろうか。
例えば目的が扶養手当を受け取るという不法な目的だったとしても、同居している以上は夫婦の実体があると言え、扶養手当を受け取っても詐欺には当たらないとは言えないのだろうか。
この点、民法752条には、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと規定されている。このため、単に同居しているだけをもって夫婦の実体が認められるわけではなく、互いに協力し扶助し合っていて初めて夫婦の実体が認められるということになる。
もっとも現実問題としては、夫婦を称している者がお互いに、単に同居しているだけではなく互いに協力し扶助し合っていると言い張れば、他人からは夫婦の実体がないとはなかなか立証しづらいと考えられるのだ。(星川鳥之介、弁護士資格、CFP(R)資格を保有)