ブガッティ,シロン
(画像=Webサイトより)

若者の車離れ、都会でのカーシェアリングの普及など、車を所有することがステータスでなくなりつつある時代に突入する中、フランスの高級自動車メーカーのブガッティが240万ユーロ(約2億8000万円)の新車「シロン」を発表した。自動車ファン以外にはあまり馴染みのないブガッティだが、その歴史は古く、ヨーロッパの自動車産業を長くリードしてきた。今回は、ブガッティ保有者の世界をピックアップする。

スポーツカーとして時代を風靡

ブランドの創設者であるエットーレ・ブガッティは1881年イタリア・ミラノに生まれ、自動車のテストドライバー兼エンジニアとしてキャリアを積み、1909年に自ら設計した自動車の製造に乗り出すため、フガッティ社を設立し、フランスのモルスアイムに自動車製造工場を構えた。スポーツカーを中心とした開発を進め、29年にモナコグランプリを制覇すると、37年には耐久レースのルマンで優勝するなど欧州のカーレースで輝かしい成績を残した。

伝説のスポーツカーメーカーとして時代を風靡したブガッティだったが、第二次世界大戦の影響で工場を手放し、47年にはエットーレ氏が他界。56年には自動車の生産を停止し、ブガッティ社の歴史は半世紀足らずで幕を閉じた。91年にエットーレ生誕100周年を記念して復刻モデル「EB110」の発表が契機となって、同社が表舞台に再び登場し、98年にはフォルクスワーゲンの傘下に入り、完全復活を果たした。

最高速度は420キロに到達

スポーツカーメーカーとしての歴史から、自動車の性能は折り紙つきだ。シロンの最高速度は時速420キロに到達し、国内の公道でそのスピードを試すことはできないが、スペックの高さを伺わせる。加速性能では、時速100キロのスピードに到達するのに要するのはわずか2.5秒未満。4基のターボエンジンが2つのステージで作動することで、加速にかかる時間が向上したという。最高出力性能は1500馬力に上り、強力なエンジンは熱量も必然的に大きくなり、ラジエーターという冷却装置が15台装備して冷却機能として働く。

シロンの世界での生産台数は500台限定となっており、そのプレミアム感とスポーツカー並みの性能を考慮すれば、販売価格の2億8000万円というのも少し納得できるかもしれない。しかし、ブガッティの車は購入すればそれで終わりというわけではない。同社は、ブガッティの車を所有することは、多大な責任を負うことを哲学に掲げており、メンテナンスにも桁外れの費用負担が生じる。

ホイールがプリウスより高い?

世界450台限定で販売されたブガッティの「ヴェイロン」を例に、ランニングコストを紹介しよう。並外れた馬力のエンジンを搭載するブガッティ社だが、その分燃費には難がつく。ヴェイロンで加速を全開にするとガソリン1リットルで進むのはわずか約800メートル。100リットルの燃料が約12分でなくなってしまう計算だ。足元の原油安のトレンドも、この燃費コストには頭を抱えさせられる。

さらに、高速走行を支えるタイヤとホイールのメンテナンスも欠かせない。ブガッティ社は、4000キロを走行したらタイヤ交換、1万6000キロでタイヤとホイールの交換を推奨しいている。その費用は、ミシュランのヴェイロン専用タイヤ4本セット約350万円、ホイールとの交換には450万円以上と、トヨタ自動車の人気車種プリウスの本体価格より高い。さらに、年に1度の整備費用は約180万円と、国産車の本体価格を優に上回るが、ブガッティ社の車の値段と比較すればそれ相当だろうか。

こうしたメンテナンスを含めてブガッティのオーナーになれるのは一握りの人たち。購入には、日本国内の代理店、フランス本社での審査を受ける必要がある。審査に見事パスすると、予約金を収めるが、この額も5000万円とスケールが違う。その代わりに、受けられるサービスも極上のもので、ブガッティ本社へ向かう飛行機のファーストクラスのチケットが届き、本社でシート位置などオーナーに合わせて車をカスタマイズしてくれる。晴れてブガッティのオーナーになると、専用クラブに入会し、シークレットレースに招待されるという特典も付いてくるのだ。

ブガッティ社のブランド創設から脈々と受け継がれてきた車の性能、オーナー1人1人を大切に合わせたきめ細かいサービスをみると、3億円近いその車の値段も少しは納得できるだろう。どういう人がこの車に乗るのか興味が湧くところだが、「シロン」のプレオーダーは200台以上の引き合いがあり、10台以上は日本人からオーダーだったという。もしかすると、街中をすごい馬力で走行するシロンの姿を目にすることができるかもしれない。(ZUU online 編集部)