コンサルティングファームの仕事は先生として「知恵」を授けることだけではない。具体的な方針・戦略やノウハウを使いこなすための「道具」を用意して使いこなせるようにすることも重要な仕事だ。とくにIT分野では戦略を具体的な業務に落とし込み運用するまでの一貫したサポートが重要になる。そうした中で多くのファームがFinTech関連のサービスに着手しており、コンサルティング分野の競争も激化しつつある。

FinTechにも目配りする戦略系・シンクタンク系ファーム

大手戦略系ファームはFinTechにも強い関心を抱いている。金融機関は大口顧客であるためFinTechを語らなければビジネスを維持できないという意識が垣間見える。

マッキンゼーはWebサイト上にFinTechに関するさまざまな資料(Article、Interview)を掲載して、より詳しい情報を必要とする場合はコンサルタントに問い合わせるように誘導している。A.T.カーニーやシンクタンクの富士通総研も同様にサイト上で何本もレポートを公開してFinTechに対する造詣をアピールしている。

銀行・保険会社系のシンクタンクやシステム開発会社は業務範囲規制の影響もありグループ外企業に対するITサービスをあまり行っていない。例えば三井住友フィナンシャルグループの日本総研のシステム部門は、グループ各社に対しITソリューションを提供する部門と明確に位置づけられている。

それに対し証券会社系のファームは地域金融機関、資産運用会社、外資系証券会社などへ有価証券取引のバックオフィス業務、ポートフォリオ管理に必要なさまざまなシステムを販売してきた。とくに野村総研は数十年前からボンドMIS(債券管理)、T-STAR(ファンド計理)、I-STAR(証券決済)などを開発し戦略的に顧客の囲い込みを図ってきた。

財務・経理分野に基盤を有する監査法人系ファーム

大手監査法人を源流とするコンサルティングファームも財務・経理を始め幅広い分野でサービスを提供している。

アーサーアンダーセンのコンサルティング部門だったアクセンチュアはいち早く監査法人から独立し今では全世界に38万4千人の従業員を擁する巨大企業となった。

FinTechにも力を入れており、ITベンチャー企業とその潜在顧客である大手金融機関を結びつけて、新しいアイディアの議論を交わしたり人的ネットワークを構築したりする場として“FinTech Innovation Lab”を設けている。2010年のニューヨークを皮切りにロンドン、香港、ダブリンで開催してきた。2016年には野村ホールディングス、三井住友フィナンシャルグループも準パートナーとしてAsia-Pacific(香港)に参画している。

IBMがPwCグループから買収したコンサルティング部門もFinTechに注力している。IBMの大型コンピューター(メインフレーム)は銀行を始めとする金融機関を主力顧客としており金融業はIBMの得意分野の1つだ。

最近になり「IBM フィンテック(FinTech)プログラム」と称するサービスを開始した。海外で得た知見や技術を生かし、新たなアプリケーションと金融機関の既存システムを迅速、低コスト、柔軟に接続できるAPIを構築するとしている。

デロイトトーマツコンサルティングも経済産業省の「産業・金融・IT融合に関する研究会(FinTech研究会)」へ参加したり、トムソン・ロイター・マーケッツと共同で「FinTechエコシステム研究会」を設立したりするなど存在感を示している。

個性派揃いの独立系ファーム

独立系ファームの大半は小規模で上流工程のアドバイス、システム開発(プログラミング)、運用など特定業務に絞ってサービスを行う場合が多い。

例えば個人投資家向けのAIトレーディングシステムを手掛けているAlpaca、Bitcoinでも用いられているブロックチェーン構築プラットフォームを提供するテックビューロなど最先端の分野でシステム開発を進めるベンチャー企業が挙げられる。こうした企業も自社サービスの利用方法を提案するという意味で一種のコンサルティングファームといえる。

そうした中でMBOにより東証1部上場企業から非公開会社へ移行したシンプレクスは、銀行、証券、保険、資産運用会社などのディーラー・トレーダーを支援するためのトータルサービスを提供している。野村総研など金融機関系ファームが内部にノウハウを蓄積してグループ外企業を顧客としないフロント業務の支援を行っている点が特長的だ。

ネット証券が投資家向けに提供している株式・FX等のトレーディングシステムの開発も手掛けている。上場株式と異なりFX取引は業者(証券会社等)が自らポジションを取り投資家と相対で取引するため、金融工学の高度なノウハウを駆使したアルゴリズムを組み込んだディーリングエンジンを販売している。

シンプレクスの強みは親会社のビジネスの影響を受けることなく上流工程のコンサルティングからシステム開発、運用まで100%社内で手掛ける点にあり、プレーヤー中心のイノベーションを起こすための素地が整っている。

コンサルティングのタイプや得意とする分野はファームにより異なるが、FinTechの重要性を認識していない企業は1社もないだろう。( FinTech online編集部

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